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虎さん
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ジル様のお屋敷に来て1ヶ月がたった。
最近は言葉とか数字とか、カレンダーとか、時計の読み方を教えてもらって、僕の世界はぐんぐん広がっていった。
「さんじ!おやつ!」
びし!っとこの前覚えた時間を、時計を指差しながら言うとジル様は机から顔を上げた。
「ああ、もうそんな時間か。」
「ルノ様。お菓子をお持ちしました。」
このお屋敷のジル様以外の人は、なぜか僕を”様“付きで呼ぶ。僕偉くないよ?と言うと、ウェーゲルさんは「ルノ様は大切な方なので。」と答えた。そっか、大切にしたい人を様付きで呼ぶんだ。「じゃあウェーゲル“さま”だね!」と伝えたら、ウェーゲルさんは胸を押さえて膝をついた。その様子を見ていたジル様は「大切にしたい人を”さん“で、とっても大切にしたい人に”様“をつければいいよ。」と言った。
よく分からなかったけど、ジル様はジル様で、ウェーゲルさんはウェーゲルさんだという事らしい。まだその区別は難しいからこれはジル様の言う事を聞いておくことにする。ジル様はとっても凄くて頭がいいからきっと間違いはないはず。
そんなこんなでウェーゲルさんに出してもらったケーキを頬張る。
この1ヶ月でフォークとスプーンの基本的な使い方は教えてもらったため、持ち方はまだ不恰好だけど食器を使って一人で食事ができるようになったんだ。
ジル様は「一生私の手で食べさせたかったのに...。」と落ち込んでいたので、僕があーんってしてあげるととっても喜んでいた。ジル様にも食べさせられるほど僕のフォーク使いは上達しつつある。僕は日々成長しているのだ。
ちなみに食事の席には虎くんの椅子もあって、玩具だけどちゃんと目の前に食事が置かれている。
ジル様と虎くんと僕で囲む食卓は、とっても幸せだった。
「そうだ、ルノ。午後は少し散歩に行かないかい?」
「さんぽ?おにわ?」
口の周りについたクリームを舐め取りながら首を傾げる。
「庭の、その先かな。今日はルノにうちのペットを紹介するよ。」
「ぺっと?...ぼく?」
ペットって確か、人間が飼う動物の事だ。仕事をするペットは家畜というらしいけど、僕はこの家で仕事をしていないからきっとペットに分類されるはずなんだ。
しかし、この話をするといつもジル様は怖い顔をする。
「...ルノはペットじゃない。何回も言ってるだろう?」
もう、と言って僕を持ち上げたジル様はいつものようにそのまま僕を膝の上に下ろす。口についたクリームは拭ってくれた。
「ルノは二本の足で歩いて言葉も喋れて、こうして食器を使って食事ができるでしょ?だからペットじゃない。」
「んぅ...むずかしい。」
「難しくない。ルノは、絶対、ペットじゃない。...まあそれを教えるために今日は本物のペットを見に行くんだけど。」
「んぅ?」
本物の、ぺっと?
「じゃあぼく、にせもの?」
「ルノは本物の獣人だよ。」
やっぱり難しい...。
▼
「ほ...ほぁぁああ!!」
「どう?」
「じ、じるさま!!じるさま!!!!」
「うん、暴れないでねルノ。落ちちゃうからね。」
「あれ!!!あれ!!」
「うん、そうだよ。アレがうちのペット、
_____白虎だ。」
僕がジル様に抱っこされて連れてこられた場所は、一つの大きな建物の前だった。そしてその中では一匹の動物が寝転んでいた。
ちっちゃくて丸い耳に、大きな口。大きな体。長い尻尾。色は僕の友達と違って白い、それでも正真正銘の_____虎だった。
初めて生で見る虎さんに僕は興奮が止められず、尻尾でジル様の太ももをバシバシ叩いてしまう。虎くんを抱きしめる力も強くなる。
「びゃっこ?!びゃっこってなまえ?!」
「白虎は虎の種類かな。神の使いの末裔らしくて、普通の虎よりは賢いんだ。名前は「とらさん!!とらさん!!このこ!ぼくのともだちのとらくんです!!」...名前は虎さんでいっか。」
「いいのですか?ルノ様につけていただく予定でしたが。」
「いいんだよ。ルノの呼びたいように呼べば。だってペットだし。」
何やら話してるジル様の声はもう耳に入ってこなくて、僕は本物の虎さんにお近づきになりたくて仕方なかった。ジル様が歩いて虎さんに近づくと、本当に体が大きかった。そして綺麗な青い目が僕をじっと見つめている。
「ルノ、虎くんばかりじゃなくて君の自己紹介もしないと。」
ジル様の腕から下ろされながら、僕はその事をすっかり忘れていた事を思い出した。
「あっ、そうだった!あの、ぼく、るのっていいます。とらさん、はじめまして...!」
「白虎、この子に傷一つでもつけたら、...分かっているね?」
ジル様が真剣な声でそう言うと、虎さんはふんとした様子でそっぽを向いてしまった。しかし、その尻尾の先がこちらへ向かって来て、僕の頬を撫でる。どうやら気は許してくれたようだ。
「わぁ...ふぁふぁ...。とらさん、しっぽさわっても、いい...です?」
虎さんにそう問いかけると、その尻尾は僕の耳の後ろをサワサワと撫でたあと、虎くんの頭にもぽんと乗った。どうやら触っても良いらしい。
そっとその尻尾を手のひらで撫でてみると、思ったより毛が柔らかかった。通りでこんなにふわふわしてるわけだ。
最近は言葉とか数字とか、カレンダーとか、時計の読み方を教えてもらって、僕の世界はぐんぐん広がっていった。
「さんじ!おやつ!」
びし!っとこの前覚えた時間を、時計を指差しながら言うとジル様は机から顔を上げた。
「ああ、もうそんな時間か。」
「ルノ様。お菓子をお持ちしました。」
このお屋敷のジル様以外の人は、なぜか僕を”様“付きで呼ぶ。僕偉くないよ?と言うと、ウェーゲルさんは「ルノ様は大切な方なので。」と答えた。そっか、大切にしたい人を様付きで呼ぶんだ。「じゃあウェーゲル“さま”だね!」と伝えたら、ウェーゲルさんは胸を押さえて膝をついた。その様子を見ていたジル様は「大切にしたい人を”さん“で、とっても大切にしたい人に”様“をつければいいよ。」と言った。
よく分からなかったけど、ジル様はジル様で、ウェーゲルさんはウェーゲルさんだという事らしい。まだその区別は難しいからこれはジル様の言う事を聞いておくことにする。ジル様はとっても凄くて頭がいいからきっと間違いはないはず。
そんなこんなでウェーゲルさんに出してもらったケーキを頬張る。
この1ヶ月でフォークとスプーンの基本的な使い方は教えてもらったため、持ち方はまだ不恰好だけど食器を使って一人で食事ができるようになったんだ。
ジル様は「一生私の手で食べさせたかったのに...。」と落ち込んでいたので、僕があーんってしてあげるととっても喜んでいた。ジル様にも食べさせられるほど僕のフォーク使いは上達しつつある。僕は日々成長しているのだ。
ちなみに食事の席には虎くんの椅子もあって、玩具だけどちゃんと目の前に食事が置かれている。
ジル様と虎くんと僕で囲む食卓は、とっても幸せだった。
「そうだ、ルノ。午後は少し散歩に行かないかい?」
「さんぽ?おにわ?」
口の周りについたクリームを舐め取りながら首を傾げる。
「庭の、その先かな。今日はルノにうちのペットを紹介するよ。」
「ぺっと?...ぼく?」
ペットって確か、人間が飼う動物の事だ。仕事をするペットは家畜というらしいけど、僕はこの家で仕事をしていないからきっとペットに分類されるはずなんだ。
しかし、この話をするといつもジル様は怖い顔をする。
「...ルノはペットじゃない。何回も言ってるだろう?」
もう、と言って僕を持ち上げたジル様はいつものようにそのまま僕を膝の上に下ろす。口についたクリームは拭ってくれた。
「ルノは二本の足で歩いて言葉も喋れて、こうして食器を使って食事ができるでしょ?だからペットじゃない。」
「んぅ...むずかしい。」
「難しくない。ルノは、絶対、ペットじゃない。...まあそれを教えるために今日は本物のペットを見に行くんだけど。」
「んぅ?」
本物の、ぺっと?
「じゃあぼく、にせもの?」
「ルノは本物の獣人だよ。」
やっぱり難しい...。
▼
「ほ...ほぁぁああ!!」
「どう?」
「じ、じるさま!!じるさま!!!!」
「うん、暴れないでねルノ。落ちちゃうからね。」
「あれ!!!あれ!!」
「うん、そうだよ。アレがうちのペット、
_____白虎だ。」
僕がジル様に抱っこされて連れてこられた場所は、一つの大きな建物の前だった。そしてその中では一匹の動物が寝転んでいた。
ちっちゃくて丸い耳に、大きな口。大きな体。長い尻尾。色は僕の友達と違って白い、それでも正真正銘の_____虎だった。
初めて生で見る虎さんに僕は興奮が止められず、尻尾でジル様の太ももをバシバシ叩いてしまう。虎くんを抱きしめる力も強くなる。
「びゃっこ?!びゃっこってなまえ?!」
「白虎は虎の種類かな。神の使いの末裔らしくて、普通の虎よりは賢いんだ。名前は「とらさん!!とらさん!!このこ!ぼくのともだちのとらくんです!!」...名前は虎さんでいっか。」
「いいのですか?ルノ様につけていただく予定でしたが。」
「いいんだよ。ルノの呼びたいように呼べば。だってペットだし。」
何やら話してるジル様の声はもう耳に入ってこなくて、僕は本物の虎さんにお近づきになりたくて仕方なかった。ジル様が歩いて虎さんに近づくと、本当に体が大きかった。そして綺麗な青い目が僕をじっと見つめている。
「ルノ、虎くんばかりじゃなくて君の自己紹介もしないと。」
ジル様の腕から下ろされながら、僕はその事をすっかり忘れていた事を思い出した。
「あっ、そうだった!あの、ぼく、るのっていいます。とらさん、はじめまして...!」
「白虎、この子に傷一つでもつけたら、...分かっているね?」
ジル様が真剣な声でそう言うと、虎さんはふんとした様子でそっぽを向いてしまった。しかし、その尻尾の先がこちらへ向かって来て、僕の頬を撫でる。どうやら気は許してくれたようだ。
「わぁ...ふぁふぁ...。とらさん、しっぽさわっても、いい...です?」
虎さんにそう問いかけると、その尻尾は僕の耳の後ろをサワサワと撫でたあと、虎くんの頭にもぽんと乗った。どうやら触っても良いらしい。
そっとその尻尾を手のひらで撫でてみると、思ったより毛が柔らかかった。通りでこんなにふわふわしてるわけだ。
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