上 下
7 / 20

穏やかな暮らし

しおりを挟む
僕はそれからジル様のお家で暮らしていた。
朝はふわふわに囲まれて起きて、虎くんにおはようと言うと、ジル様がやって来て一緒にご飯を食べる。
初めてリゾットを食べた時から、ずっと食事はジル様の膝の上だ。目の前にやってくるスプーンに齧り付いて、今日も美味しいご飯を食べる。
そして、ジル様に抱っこされたまま場所を移動すると、“執務室”という場所に着く。そこにはジル様の秘書さんのウェーゲルさんがいて、ここでジル様はお仕事をするらしい。

貴族様はお仕事をしないと誰かが言っていた気がするけど、本当はいっぱい働くらしい。紙をいっぱいめくりながら何か読んでいたりするのを、僕はふかふかなソファの上で見ている。しかし、すぐに眠くなってしまって、ソファで丸まって寝てしまうのだ。

途中で目を覚まして、「おやつの時間」に甘いお菓子を食べて、幸せになってまた眠る。
そして目が覚めると、夜のご飯を食べる。これも勿論ジル様の膝の上でだ。

そして、ベッドに入る前に“お風呂”の時間がある。




これが、嫌なのだ。





「みず、やだ。」

「でもルノ。温かい水だよ。」

「やだぁ...。」

ジル様の服を掴みながらなるべく水から遠ざかるように後ろへ隠れる。

「猫は基本的に水が嫌いって言うけどやっぱりそういう繋がりはあるんだね。ルノ、気持ちいいから少しだけ入ってみない?」

「...おこる?」

「怒らないよ。でも、体を綺麗にしてふかふかのタオルで体を拭いたらとっても気持ちがいいよ?」

僕の顔にふかふかのタオルを当てながらジル様がそう言う。たしかにこのふかふかに包まれるのはとっても気持ちいい。このまま寝ちゃいたいくらいだ。

「...わかった。」

「ありがとう、ルノ。良い子だね。」

ぽんと、頭に乗った大きな手が変わらず僕を優しく撫でる。頭を撫でられた事なんてこれまで無かったけれど、とっても心地いいんだ。だから僕は毎日虎くんを撫でるようになった。虎くんもきっと撫でられたら嬉しいだろう。




「んにゅぅ...!」
「にぃ...。」
「みゅぅぅ...。」


頭からお湯をかけられたり、お湯に入れられると、本能的に恐怖を感じてしまってついへんな声が出てしまう。全身がゾワゾワして、今すぐ逃げ出して頭をブルブル振りたくなるのを我慢するのも辛かった。

「ルノは本当に猫なんだね...あまりに可愛い。」

「るのは、つよいねこちゃんです。」

お湯に浸かりながら、ぎゅっと水の恐怖に身を固めてそう答える。

強い猫、それはつまり虎だ。
僕は虎なんだ。耳の形はちょっと違うけど、尻尾は似てる。
牙もある。...少し短いけど。

「そうだねぇ。がんばってお風呂に入ってるもんね。ルノは強い猫ちゃんだ。」

「ん!」

「よし。体が温まったら、そろそろ出ようか。」

「ん!!」

ジル様は、服が濡れるのも厭わずに、僕をお湯から出して抱き上げると、そのままさっきのもこもこタオルで包んでくれた。

「きゃあ!」

「ほーら、気持ちいいでしょ?」

「はい!」

タオルに全身が包まれるのが気持ちいい。そして安心する。
そして素早い動きで綺麗な服を着せてもらうと、髪が温かい風の出る機械で乾かされ、僕は寝室のベッドの上まで運ばれた。
体はジル様の言った通りとっても温かくなって、眠くなってきていた。

「ルノ?今日はもう寝る?」

「んぅ...やだぁ...。じるさま、えほん...。」

最近日課になりつつある、絵本の読み聞かせを強請るが、ジル様は僕の体にお布団をかけてぽんぽんと優しく叩いた。

「もう目が開いていないじゃないか。また明日の夜読んであげるから、今日はもうおやすみ。ほら、虎くんも眠そうだ。」

そう言ってジル様に差し出された虎くんは、確かに眠そうだった。僕の目が殆ど開いていないからそう見えるだけかもしれないけど、とにかく眠い。

「...とらくんもねむい...?そっか...じゃあいっしょに、ね...る......。」

僕はそこで限界が来てしまったので、僕の意識はコロッと落ちてしまった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

処理中です...