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目覚め

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虎くんと一緒にとっても綺麗なお花畑を走り回る夢を見た。
体はどこも痛くなくて、走っても疲れなくて。
僕が何か特別な存在になれた気がして心地よかった。

でも、ここは夢。

早く、目覚めなければいけない。








ふわふわすべすべの床でできているここはいったいどこだろう。体も痛い。


確か今日の寝床は...ええっと...。
あぁ、そうだ、人間に見つかって、殴られて、とても体が痛くて


...虎くんも、痛くて...泣いて、


体が、冷たくなって、


...ああ、そうか。


________僕、死んだんだ。


虎くんが居なかったら僕には生きてる意味がないからちょうど良かったのかもしれない。


だからきっとここは、雲の上なんだ。


ふわふわで温かくて、気持ちいい。
虎くんも、来てるかな。
また、会いたいな。僕のお友達。
僕の事、嫌いになってないといいな。



そう思いながら、そっと目を開けた。



「目覚められました。すぐに公爵様を呼んでください。」
「はっ。」


あれ、誰かいる?
お空の上にも、人がいるの?


あ!なら隠れなきゃ!!!殺されちゃう!
反射的にそう思って起きあがろうとしたが、全身痛くて、耳をぺたんとしながら固まってしまう。


「大丈夫ですよ。貴方様に危害は加えませんので。」

あなたさま?きがい?

一体なんのことだろう。でもとっても優しい声だ。僕を見たのに怒って居ない。
なんでだろう...と顔を伺おうとしたその時、ばん!!と何かが鳴った。

続け様に色々な事が起こって、若干パニックになりながら頭を守るように縮こまる。

「...公爵様、怯えてしまいましたよ。」

「ぇ、ああ、すまない。目を覚ましたと聞いて嬉しくてつい...。...本当に目が覚めたんだね。」

また優しい声をした人が僕に近づいてきた。その人はとってもキラキラしていろんなものがついてる服を着て居た。そして、キラキラの髪にキラキラの目だ。ぜんぶぜんぶキラキラ、キラキラ。
キラキラ人間だ。

「(まぶしい...。)」

直視できなくて目を逸らす。
お空の上の人は皆こうなのだろうか。

「ああ、まだ人が怖いかな。でも、少しずつ慣れていけばいいからね。」

「...?」

慣れる?
慣れるって、このお空の上の世界にだろうか。

「ゆっくりでいいから。」

人間にそんな事を言われたのも、そもそもこんなに穏やかに声をかけられたのも初めてで困惑してしまう。もしかして僕はお空の上に来て耳と尻尾が取れてしまったのかと思って確認したら、ちゃんと付いていた。

「ふふっ。耳と尻尾、可愛いね。」

かわ...いい?
人と動物が混ざったようなこの見た目は“気持ち悪い”じゃないの?

相手が何を考えているのか探るようにじっと見ると、その人はキラキラした笑顔で「ん?」と首を傾げた。やはりおかしい。人間が僕にそんな顔を向けるわけがない。じゃあ後ろに誰か...?と振り向いても、目覚めた時に居た人が居るだけだ。こっちの人も優しい顔だった。そしてキラキラ。

「ウェーゲルが気になるの?嫉妬しちゃうなぁ。」

「光栄です。」

「っ...!」

しっと?しっとってなんだろう。良いこと?
でもさっきと声が違う。優しいけど、優しいだけじゃ無い声。まさか、怒らせてしまっただろか。
しかし、もう一度その人の顔を見ると、やはりキラキラの笑顔だった。

「あ、よかったこっちを見てくれた。私はジルベンドだよ。君は名前で呼んでいいからね?」

「...ぇ...?」

呼ぶ?僕が?人間様の名前を?

初めて問いかけられて、どうしよう...と思いながら、返事をしなきゃ怒られるかも。でも動いたら怒られるかも。と、色んな可能性で頭の中が溢れて、結局何もできずに固まるしかなかった。

「うーん、やっぱりまだ緊張してるかな。心拍が凄いことになってる。あ、ウェーゲル、“あれ”持ってきて。」

「はい。」

目の前のキラキラした人がなにかを指示するともう一人のうぇ...なんとかさんがどこかへ行ってしまった。
その間に体を少し起こしてもらって、ふわふわな何かに背中を付ける。
そして、うぇ...なんとかさんが帰ってきた。




なんと、その手には。




「...!とらくん!」

「あ、喋った。」


なんと、虎くんが居た。

それも、首と体が繋がった状態で。

「これ、君の大切なものだと思ってね。首が取れていたから直したよ。」

「な、なおしてくれたの!?...ぁ、なお、して、くれた、です、か...?」

虎くんを治してくれたのが目の前の人だと知り嬉しくて声を上げるが、そう言えば相手は人間様だ...と思ってなんとか使ったことのない敬語を使う。

すると目の前の人はくすくす笑った。

「無理に敬語を使わなくていい。...この子は、君の大事な子?」

「ぅ、うん!ぼっ、ぼくの、おともだち!」

その人から虎くんを受け取って、ギュッと抱きしめると、いつもの虎くんよりいい匂いがしたし、汚れも綺麗になって居た。
この人は僕の友達を、とっても丁寧に扱ってくれたようだ。

雲の上の人たちはなんて優しいんだ。

「ぁっ、ありがとう!とらくん、も、ありがとう、っていう!」

「そっか、良かった。」

虎くんをその人に見せながらお礼を言うと、その人も笑ってくれた。
虎くんも元気になったし、ふわふわな場所で寝かせてくれるし、笑顔を向けてくれるし、こんなに僕に嬉しいことばかり起こるのは初めてでつい尻尾が揺れてしまう。
咄嗟にフリフリ揺れる尻尾が人間様の気に障らないように手で押さえるが、今度は耳がぴこぴこ動いてしまう。それを押さえようと頭に手を伸ばすと、また尻尾が揺れて、の繰り返しでわたわたしていると、キラキラした人が幸せそうな笑顔で僕を見ていた。
気に障っては居ないようで良かったけど...何がそんなに幸せなんだろう。

「ぁー、かわい~。」

「?...ぁ、とらくん、かわいい...?」

「うんうん。両方可愛いよ。」

「りょうほう...?」

それは虎くんと、あとはなんだろう。見当がつかなくて辺りを見渡すが、特に何もない。というか初めて見るものばかりで、可愛いのかどうかもよく分からない。全部キラキラしてるのは分かるんだけど。

いつも抱きしめていた感触が腕の中にあることで一旦落ち着いて辺りを見渡す。
本当にここは知らないものだらけだ。そういえば僕の体も綺麗になっていて、頭も痒くないし、変な匂いもしない。尻尾もスベスベしてる。

「くものうえ...すごい...。」

「雲の上?あ、ベッドが柔らかいって事かな?」

「べっど?」

「君が今乗っている、それだよ。」

どうやらこの柔らかいのはべっど、と言うらしかった。確かに雲の上のような柔らかさだ。

「これも、くも?」

「これも?」

「...?...ここ、は、くもの、うえ...?」

人に問いかけるなんてした事がなくて、どう言えばいいのか戸惑う。言葉が合っているのか不安で虎くんを抱きしめながら恐る恐る聞いてみる。するとその人はきょとんとした後にこう言った。

「ここ?ここは、私の家だよ。」

「くものうえに、おうちもってる?!」

「え?雲の上って...あ、貴族の事をそう言ってるの?確かに身分的に雲の上...なのかな...?」





え?

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