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一章 呪われた額の痣

第十九話

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 柘榴は金剛殿から北側にある珊瑚殿にいた。ほとんどそこにいて、紅玉や青玉とも滅多に顔を合わせないという。その理由は――。

「柘榴様、緋花様がお見えでございます」

 珊瑚殿の侍女が柘榴に声をかけた。

「どうぞ」

 柘榴は御簾越しに座り、緋花を見ていた。緋花にははっきりとは顔が見えなかった。だが、ちょこんと座るその姿はずいぶん可愛らしい。緋花よりずいぶん年下に見えた。

「兄上様より私に化粧を施したいと伺いました。黒蝶様の化粧師だったとか」

 声も高く幼く聞こえる。

「はい。ぜひ、私に任せていただけないでしょうか」

 柘榴はすぐに返事をしなかった。何か悩んでいるのか、しばらく無言になる。

「私の容姿を見ても、驚かないのでしたら……」
「……容姿、でございますか?」

 柘榴は侍女に目配せすると、御簾を上げさせた。
 柘榴の姿が蝋燭の光に照らされて、緋花の前に現れた。

「……これは、」

 柘榴は色とりどりの鞠が描かれた美しい着物を着て、綺麗に切り揃えられた前髪に丁寧に結われた髪には金色の簪が華やかだった。艶やかな漆黒の髪は兄である紅玉と同じ。そして、額から伸びている角は三本あった。

「なんてお美しいのでしょう……!」
「……え?」

 緋花はうっとりと瞬きする。
 小柄なのに瞳は大きくくっきり二重。まるで子猫のようだ。肌は相変わらず白い。整った眉にふっくらとした唇。

「わ、私の角は三本もあるのです……。これがどうにも恥ずかしくて、なかなか表へ出ることができません」

 緋花は恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言う柘榴に、前髪を持ち上げて緋の刻印を見せた。

「私たち人の世界では、この痣が不気味だと忌み嫌われました。私はここへ来るまでずっと、この痣を隠してきました。ですから、柘榴様のお気持ちも私なりにわかります」

 ですが、と緋花は言葉を続けた。
 
「化粧はその方の美しさを引き立てるためのもの。私も化粧をすることで気持ちが前向きになりました。柘榴様はとてもお美しいです。ぜひ、私にお手伝いさせてください」

 緋花は微笑んだ。柘榴は緋花と視線をあまり合わそうとせず、目が合えば恥ずかしそうに逸らした。

「あ、あの……ひとつお伺いしたいのですが」
「はい、なんなりと」
「あの、えっと……」

 何か聞きづらいことだろうか。
 緋花は柘榴の言葉を静かに待った。
 
「その……芍薬様としての記憶を、お持ちですか?」
「いいえ、残念ながら。何も覚えてはおりません」

 緋花がそう言うと、柘榴は「そうですか」と大きく息を吐く。緋花にはその表情が安堵したようにも何か思い悩んでいるようにも見えた。

「記憶がないものですから、私にとって他人のように思えてしまうのですが……柘榴様と何かお約束でもしていたでしょうか?」
「え? ……いえ、そんなことは」

 柘榴はゆっくりと外の方へ視線を移した。

「芍薬様とは、一度もお話しをしたことがありませんでしたから」

 緋花も柘榴に釣られて外を見る。
 星空が美しい。今宵は満月だ。

「……化粧の件は、少し考えさせてください」

 柘榴はすぐには決断できないようだった。満月を見つめながら、柘榴はまたふぅと息を吐く。
 
「はい、良いお返事をお待ちしております」

 緋花はそう言って頭を下げた。
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