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三浦由紀人の神頼み
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恋人がほしい。手を繋いで歩いたり、長電話しながら寝落ちしたり、週末はデートしたり。そんなことができる恋人が、どうしても、たまらなく、ほしい。
俺は、ずっとずーっと生まれてからきょうまでずっと、恋人がほしかった。
生まれてからずっと、というのはちょっと言い過ぎか。
野獣でも美女とくっつく物語の世界とは違って、現実の世界は厳しい。俺は、野獣のように毛むくじゃらではない。正直、見た目はそこまで悪くないと思っている。自分は世の中の中の中くらいだろうか。
この世界のどこかに、俺を好きになってくれる人がいるのだろうか。野獣は見た目も中身も野獣だったかもしれないが、王子様だ。俺は見た目も中身も平凡。稼ぎは少ない。こんな俺でも、恋のチャンスはあるのだろうか。優しくて、かわいくて、なんでも一緒にできて、癒してくれる。そんな彼女がほしい。
職場にまで、恋人いない歴=年齢なんて変な噂がたってしまい、アルバイトのかわいい女の子と急接近、なんて展開をことごとく逃してきた。噂は本当だし、かわいいアルバイトは全く入って来ないから、どうしようもないんだけれど。
憎たらしい学生アルバイトは数人いるけれど、ダントツ、三谷と三窪は最強に俺をイラつかせる。
三谷はとにかくイケメンでイライラするし、三窪は客に恋する始末。まったく。誰だ、バカ三トリオなんてあだ名をつけたのは。
大学を卒業して、この会社に入社して初めて同期会があった。入社当時に数人仲良くなった人はいたが、その内二人は早期退職してしまった。俺と同期なのは十数人くらいだ。
あんまり面識のない同期ばかりだが、たまには家と職場以外で時間を使わなければ、リアルに恋人なんてできないと思い、不純な理由で参加した。
そして、そこで出会ってしまった。運命の人と。
伊藤静。こんな同期、いたのかっていうくらい美人だった。すらっと長い脚。もしかしたら俺より長い。ぱっちり二重の大きな瞳と、すらりと高い鼻、ぷっくりした肉厚な唇。唇の横にあるほくろが、たまらなくセクシーだった。
一目で恋に落ちた。
でも所詮、俺は河の中のカエル。相手は王女様だ。お近づきになれるはずがない。
――野良神社って、マジで恋の願い叶うらしいですよ。
三窪が三谷と話しているのを盗み聞きして、仕事の帰りにやって来た。なんともボロい小さな神社だ。本当に、こんな神社で願いが叶うのか。
ダメだ。疑っていては願いなんて叶わない。高望みと言われるかもしれないけれど、俺には伊藤静しかいない。彼女こそ、俺が探し求めていた人なんだ。俺の全細胞がそう言っている。
財布を取り出し、五円玉を探す。そっと賽銭箱に入れ、両手を合わせた。
「お願いします。どうか、彼女が振り向いてくれますように……」
ガサガサ、と茂みが動いた。
なんだ。なにかいるのか? 人? まさか、化け物?
――リン。
鈴の音がした。綺麗な音だ。
願い事の途中に、ついよそ見をしていると、声がした。
「お前、いかにもモテなさそうな顔してんな」
「誰……?」
草むらをじっと見つめると、出て来たのは白くてふわふわした小さな猫だ。黒い首輪に鈴が付いている。
「……猫?」
「猫だと? オレはこの神社の主、猫神様だ」
小さい猫は、酒やけしたおっさんみたいな声で、前足を毛づくろいし始めた。
「さあ、願いを言え。そして、自分で叶えろ」
完
俺は、ずっとずーっと生まれてからきょうまでずっと、恋人がほしかった。
生まれてからずっと、というのはちょっと言い過ぎか。
野獣でも美女とくっつく物語の世界とは違って、現実の世界は厳しい。俺は、野獣のように毛むくじゃらではない。正直、見た目はそこまで悪くないと思っている。自分は世の中の中の中くらいだろうか。
この世界のどこかに、俺を好きになってくれる人がいるのだろうか。野獣は見た目も中身も野獣だったかもしれないが、王子様だ。俺は見た目も中身も平凡。稼ぎは少ない。こんな俺でも、恋のチャンスはあるのだろうか。優しくて、かわいくて、なんでも一緒にできて、癒してくれる。そんな彼女がほしい。
職場にまで、恋人いない歴=年齢なんて変な噂がたってしまい、アルバイトのかわいい女の子と急接近、なんて展開をことごとく逃してきた。噂は本当だし、かわいいアルバイトは全く入って来ないから、どうしようもないんだけれど。
憎たらしい学生アルバイトは数人いるけれど、ダントツ、三谷と三窪は最強に俺をイラつかせる。
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あんまり面識のない同期ばかりだが、たまには家と職場以外で時間を使わなければ、リアルに恋人なんてできないと思い、不純な理由で参加した。
そして、そこで出会ってしまった。運命の人と。
伊藤静。こんな同期、いたのかっていうくらい美人だった。すらっと長い脚。もしかしたら俺より長い。ぱっちり二重の大きな瞳と、すらりと高い鼻、ぷっくりした肉厚な唇。唇の横にあるほくろが、たまらなくセクシーだった。
一目で恋に落ちた。
でも所詮、俺は河の中のカエル。相手は王女様だ。お近づきになれるはずがない。
――野良神社って、マジで恋の願い叶うらしいですよ。
三窪が三谷と話しているのを盗み聞きして、仕事の帰りにやって来た。なんともボロい小さな神社だ。本当に、こんな神社で願いが叶うのか。
ダメだ。疑っていては願いなんて叶わない。高望みと言われるかもしれないけれど、俺には伊藤静しかいない。彼女こそ、俺が探し求めていた人なんだ。俺の全細胞がそう言っている。
財布を取り出し、五円玉を探す。そっと賽銭箱に入れ、両手を合わせた。
「お願いします。どうか、彼女が振り向いてくれますように……」
ガサガサ、と茂みが動いた。
なんだ。なにかいるのか? 人? まさか、化け物?
――リン。
鈴の音がした。綺麗な音だ。
願い事の途中に、ついよそ見をしていると、声がした。
「お前、いかにもモテなさそうな顔してんな」
「誰……?」
草むらをじっと見つめると、出て来たのは白くてふわふわした小さな猫だ。黒い首輪に鈴が付いている。
「……猫?」
「猫だと? オレはこの神社の主、猫神様だ」
小さい猫は、酒やけしたおっさんみたいな声で、前足を毛づくろいし始めた。
「さあ、願いを言え。そして、自分で叶えろ」
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