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第五章 池谷邑子は恋をしない
第十話
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入院生活は、やっぱり暇だった。足も不自由だし、どこへも行けない。記憶を取り戻すために、カウンセリングなんかを受けたりしている。
そんなとき、杏子がお見舞いにやって来た。誰か知らない男の人も一緒だ。杏子の彼氏だろうか。でも普通、姉のお見舞いに連れて来ないだろう。
「お姉ちゃん、調子はどう?」
「相変わらず、することがなくて」
「この人、三窪恭介くん。あたしの友達なの。本屋さんでバイトしてて、読書好きなお姉ちゃんに、おすすめの新刊をいくつか持ってきてくれたんだよ」
「え……私に?」
なぜ、私なんかに。しかも、全然知らない人なのに。友達の姉だから?
三窪は大きな紙袋を差し出した。受け取ると、ずっしり重い。こんなにもたくさん。どうしてだろう。
「ジャンルもいろいろなんで、きっと楽しめると思います。ちょっと前に話題になった本も入れておきました」
「ちょっと前? どんな本ですか?」
「『いとしく想う』って本で、恋愛小説です。去年の春くらいに話題になったんですよ」
恋愛小説か。最近はあんまり読まないジャンルだ。
紙袋の中から本を取り出し『いとしく想う』を開いた。……げ。なんだか、純愛ラブストーリーって感じだ。誰かが最後に死んじゃうようなやつ。
「……ありがとうございます」
「いいえ。またなにか、ほしい本とかあったら持ってくるんで!」
やたらグイグイ来る人だ。それに、さっきからじーっと見つめられている。お風呂にも入れていないので、あんまりジロジロ見ないでほしい。髪も洗っていないからベタベタだ。
「あ、あのじゃあ俺はこれで。あんまり邪魔しちゃうと、あれなんで」
「え? もう帰る?」
杏子が驚いている。杏子も帰るのだろうか。
「うん。お姉さんが疲れちゃうといけないから」
「そっか。じゃあ、またね」
さようなら、と三窪は部屋から出て行った。
「杏子は一緒に行かなくていいの?」
「ああ、うん。三窪くんこれからバイトみたいだし」
友達と言ったけれど、なぜだか杏子の態度はよそよそしく感じた。なぜだろう。
「他にはなんの本が入ってるの?」
杏子が訊ねるので、私は残りの本を全部取り出した。
あれ。本以外にも入っている。小さな黒い布袋に入っているなにかは、少し重たい。袋をひっくり返すと、赤い金魚が付いた指輪がコロンと手のひらに転がった。
「指輪?」
赤い金魚が優雅に空中を泳いでいる。そんな指輪だった。綺麗だ。
だけど、なぜだろう。ものすごく懐かしい。私は以前、これを見たことがあるのだろうか。でもなぜ、妹の友達がこれを持ってきたのか。さっぱりわからない。
「あ、れ……?」
涙が頬を伝っていた。びっくりして、手の甲で拭う。
「どうしたの? なにか思い出したの?」
「……ううん。だけど、どうして杏子の友達は、この指輪を私に渡そうと思ったんだろうね」
私がそう言うと「なんでだろうね」と杏子はちょっと不機嫌そうだった。
そんなとき、杏子がお見舞いにやって来た。誰か知らない男の人も一緒だ。杏子の彼氏だろうか。でも普通、姉のお見舞いに連れて来ないだろう。
「お姉ちゃん、調子はどう?」
「相変わらず、することがなくて」
「この人、三窪恭介くん。あたしの友達なの。本屋さんでバイトしてて、読書好きなお姉ちゃんに、おすすめの新刊をいくつか持ってきてくれたんだよ」
「え……私に?」
なぜ、私なんかに。しかも、全然知らない人なのに。友達の姉だから?
三窪は大きな紙袋を差し出した。受け取ると、ずっしり重い。こんなにもたくさん。どうしてだろう。
「ジャンルもいろいろなんで、きっと楽しめると思います。ちょっと前に話題になった本も入れておきました」
「ちょっと前? どんな本ですか?」
「『いとしく想う』って本で、恋愛小説です。去年の春くらいに話題になったんですよ」
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紙袋の中から本を取り出し『いとしく想う』を開いた。……げ。なんだか、純愛ラブストーリーって感じだ。誰かが最後に死んじゃうようなやつ。
「……ありがとうございます」
「いいえ。またなにか、ほしい本とかあったら持ってくるんで!」
やたらグイグイ来る人だ。それに、さっきからじーっと見つめられている。お風呂にも入れていないので、あんまりジロジロ見ないでほしい。髪も洗っていないからベタベタだ。
「あ、あのじゃあ俺はこれで。あんまり邪魔しちゃうと、あれなんで」
「え? もう帰る?」
杏子が驚いている。杏子も帰るのだろうか。
「うん。お姉さんが疲れちゃうといけないから」
「そっか。じゃあ、またね」
さようなら、と三窪は部屋から出て行った。
「杏子は一緒に行かなくていいの?」
「ああ、うん。三窪くんこれからバイトみたいだし」
友達と言ったけれど、なぜだか杏子の態度はよそよそしく感じた。なぜだろう。
「他にはなんの本が入ってるの?」
杏子が訊ねるので、私は残りの本を全部取り出した。
あれ。本以外にも入っている。小さな黒い布袋に入っているなにかは、少し重たい。袋をひっくり返すと、赤い金魚が付いた指輪がコロンと手のひらに転がった。
「指輪?」
赤い金魚が優雅に空中を泳いでいる。そんな指輪だった。綺麗だ。
だけど、なぜだろう。ものすごく懐かしい。私は以前、これを見たことがあるのだろうか。でもなぜ、妹の友達がこれを持ってきたのか。さっぱりわからない。
「あ、れ……?」
涙が頬を伝っていた。びっくりして、手の甲で拭う。
「どうしたの? なにか思い出したの?」
「……ううん。だけど、どうして杏子の友達は、この指輪を私に渡そうと思ったんだろうね」
私がそう言うと「なんでだろうね」と杏子はちょっと不機嫌そうだった。
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