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第二章 三窪恭介は全力で恋をする

第十一話

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「うまく言葉にできないんだ。邑子さんの寂しさというか、哀しさというか、そういうのが見えた気がして、気になったのかな」
「確かにお姉ちゃん、幸薄そうな顔してるもんね」
「いや、そういうことじゃなくってさ」

 コーヒーが運ばれて来た。ミルクと砂糖をゆっくり入れて、一口飲む。全身に行き渡る温かさ。幸せだ。

「あれから進展あったの?」
「ないよ。バカみたいに何度も告白したら、鬱陶しいかなって思って」

 杏子ちゃんはカフェオレをスプーンでかき混ぜながら、一言「ふぅん」とつまらなさそうだった。こんな話、聞き飽きたのだろう。

「最近、邑子さんはどうなの?」
「どうって?」
「元気って意味だよ」
「元気なんじゃない?」

 杏子ちゃんも、最近は会っていない様子だった。年末が近いし、今は仕事が忙しい時期なのかもしれない。

「なんであたしに聞くの?」
「本人に聞いても、あんまり話してくれないし」
「直接本人に聞けばいいのに」

 いつもの杏子ちゃんとは違って、怒っているように見えた。どうしたのだろう。

「どうしたの? なんかあった?」
「……ないよ」

 三谷先輩と同じ感じだ。きょうはみんな変だ。

「さっき、三谷先輩も怒ってたみたいだった。俺のせいかな」
「そうなんじゃない?」
「え……そうなの?」

 コーヒーから浮かぶ湯気を見た。俺、なにをしたんだろう。考えても、よくわからない。最近は会ってもいなかったし、特に話もしていない。

「ねぇ、もうお姉ちゃんのこと諦めたら?」
「どうして?」
「お姉ちゃん、ずっと恋愛なんてしてないよ。興味ないから、そういうの。恭介くんがどんなに諦めなかったとしても、お姉ちゃんは誰にも振り向かないと思うよ」
「そうかもしれないけど……」

 またコーヒーに口をつける。あれ、とすぐに唇を離してカップの中を見た。ほんの少しの時間で、冷めたような気がした。

「どうして諦めないの? 無理じゃん」
「気持ち悪いって言われても、嫌いだって言われても、諦められないんだ。邑子さんが好きだから」

 今までの恋は、簡単に諦めがついた。一度告白してフラれると、もう一度告白しようなんてとても思えなかった。ダメか、じゃあ仕方がない、と納得できてしまった。でも、その気持ち自体が相手に対する感情だったと今ではわかる。その程度の想いだったのだ。どうしても諦められない、そんな恋ではなかった。邑子さんへの想いとは全然違う。

「もう、あたしにしとけばいいじゃん」
「あたし……? あたしって、杏子ちゃんのこと?」

 びっくりして、杏子ちゃんを見る。杏子ちゃんはうつむいて、混ぜたカフェオレを見ていた。

「難しい恋なんて、する必要ないのに」

 そう言った杏子ちゃんは、少し悲しそうに見えた。多分、俺が諦めもしないで邑子さん邑子さんと嘆いている姿を見て、情け無く思っているのだろう。
 確かに、難しい恋かもしれない。いや、かなり難しい恋だ。猫神様も言った通り、邑子さんひとりが女性ではないし、探せばぴたりと合う相手がいるのかもしれない。
 それでも邑子さんを追いかける俺は、きっと哀れで間抜けな男に見えるだろう。
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