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アンフェアなデュアル

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 しゃらしゃらと揺れる髪飾りの音を聞く。ほとんど結わえるまでもない髪を、無理矢理結わえて、髪飾りをつけた。防具を整え、剣を構える。
 正面にたたずむのはパートナーの有力候補である、柳壮也。
 本来ならば、非常に不本意な事態だ。

 オレはパートナー候補を辞退していたはずだし、他薦も固辞すると言っていたはずなのに。
 なぜこうなっている?

 ホールの中央にデュアル場が設けられ、四方八方を生徒や教師が囲んでいた。四人の審判がオレと柳を囲んでいる。
 自薦他薦を問わず名乗り出ることが許されたパートナー戦というだけあって、多数の生徒がデュアルを行ってきた。
 オレは元々デュアルに参加するつもりはなく、公式の試合を観戦していたのだけれど。

 柳壮也が勝ち進んでいく姿や、その闘いざまを見ながら、事の行き先を見守っていた。
 あと一試合行えば、柳が晴れてパートナーになるという最終試合で、まさかオレの名が呼ばれるとは思ってもみない。

 学園長から名を呼ばれ、オレは観客席から降りていく。

「花菱葉、多数の他薦票により、貴殿が最終決戦に選出された。1時間後にデュアルを行う。準備をしろ」と言われた。
 オレは学園長の脇に控えていた柳に視線を向ける。なんでオレが最終決戦に選出されるんだ?と訴えかけたくなった。
 お前何かしていないよな?と。柳は至って平常の様子で、オレに一礼をするのみだ。

 学園長に言われてしまえば、どうしようもない。
 オレは部屋に戻ると、身支度を整えデュアルの準備をする。こうなれば、柳と正当に闘うほかない。
 昔から今まで一度も勝ったことがない相手に、こうした公式のデュアルで闘いを挑めるのは好機と言える。

 前回はそんなこと思い出しもしなかったし、柳を単にライバル視していただけだったけれど。


 数年経ち、逞しく鍛えあげられた肉体を持つ、美丈夫を正面に臨む。オレの髪飾りを見て、頭を指さして合図を送って来た。
 オレは頷いて、剣を構える。

 柳の弱点はかつての未来で見たとおり、左肩、左肘、左下腿と左半身に集中していた。逆にオレは右肩、右肘、右下腿に集中している。

 誓いのポーズを取り、デュアル開始だ。その時点から違和感があった。数か月前に経験した同じデュアルと感覚がまったく違う。
 柳はいつものように、こちらの剣を難なく交わすし、オレも素早さを活かして柳の懐に入ろうと動いていた。
 いつも以上に身体が軽いような感覚があって、柳の動きがなぜかよく見える。自分の能力が上がった可能性もゼロではないかもしれないが、何か違和感があった。

 オレは柳の左肩の弱点を狙いに動く。
 いなそうとする柳の剣の動きが見え、オレは数センチだけ身体をずらした。柳の腕と剣のすき間から、身体を滑り込ませて、左肘の弱点を打つ。そのまま下腿の弱点もうち、弱点を先取した。ただ、違和感は抜けない。柳の動きが冴えないようにも思えたからだ。
 有効判定だと審判が判断し、オレは2カ所先取したこととなる。

 オレは一度距離を取り、柳の様子をうかがう。これまで観戦して来た試合では、特に問題を感じられなかった。琉来のつけた傷もふさがったと言っていたし、どこにも問題は見つからない。じゃあなんで?

 考える間もなく、オレは何かに引っ張られるかのように、柳に向かって突進する。オレの意思ではない動きだ。剣をふるい、柳の気を引いた後で素早く引き、弱点がフリーになるのを待つ。

 なんだコレ?

 柳の一挙手一投足が、スローモーションのように軌道として見える。
 オレは腕や剣のすき間を縫って、身体を滑りこませ、柳の左肩の弱点を打った。あり得ないくらい早いゲームセットだ。
 審判が終わりの合図を出し、柳が一礼した後でも、オレは呆然としたまま目の前の光景を眺めていた。
 オレの意思じゃないデュアルだ。
 そう思ったけれど、四方八方を囲んでいる観衆の熱狂具合でオレの疑問は押し流されてしまう。

 パートナーになってしまった?
 どうして?

「おめでとう、葉」
 と近づいてきた柳は言うが、その目の奥が笑っている。
「お、お前?」
 何か知っているだろ?と問い詰めたかったが、すぐに学園長と麗史様がやって来た。

 帝王の騎士たるパートナーの証の剣を、麗史様が授けてくれる。
 その瞬間に割れんばかりの歓声が起こった。

「おめでとう、花菱」
 と麗史様が言う。
 その瞳の奥にも、笑みが含まれているのを感じる。

「れ、麗史様……?」
 問い質したいけれど、その場の雰囲気が許してくれない。

 オレは周囲を見渡して違和感を探す。
 観客の一人、それは離音先生だった。
 離音先生はオレの視線に気づくと、笑顔で手を振ってくれる。その手の動きに、オレは自分の手が勝手に動くのを感じた。

 え?つまりこれは……。

 その後何かを考える間もなく、オレは学園長室に迎えられ、パートナーとして正式に認定したと申し送りを受けた。
 祝賀会と称して、学園内でパーティーが行われる。
 オレは違和感や疑念満載のまま、祝われていた。非常に不本意だ。
 けれど、笑顔で祝ってくれるメンバーに対して、不機嫌な顔をしているわけにもいかずに、オレは心の置き場に困っていた。

 パーティが終わり、ようやく解放されて部屋に戻ってたときに、おぼろげながらに事実関係を把握しはじめる。このパートナー選抜は仕組まれていたのだと思う。

 少なくとも、羅千先生と瑠磨先生が摘発されてからの、このパートナー選抜は出来レースだ。
 何でオレが選ばれたのか分からないけれど、いつもと違う感覚や離音先生の行動とオレの行動がリンクしていたことを踏まえると何かの魔法が発動していたに違いない。

「おめでとう、パートナーになったね」
「魔法を解放して、ちゃんとパートナーの座を手に入れたじゃないか」
「単なるおバカだった君も、ちゃんと自分の道を拓いた」

 ベッドで横になって思案していたら、数か月ぶりに頭に声が聞こえた。
 そう、たしかオレはもう一度パートナーにチャレンジしたくて、この声のおかげで、半年前に戻ったんだ。
 パートナーにはなったけれど、何か釈然としない。

「なんでオレが選ばれたのか、分からない。あんなデュアルは偽物だ」
 とオレは呟いた。頭の中の声はけらけらと笑う。

「それはみんなが受け入れたからだよ」
「みんな?」
「生徒や教師、そして学園の精霊が」
「オレは柳をパートナーにしたかった」
「柳壮也は優秀だが、本人はパートナーになる意思はないようだよ」
「それに学園の礎になっていった者たちが、君を求めていたようだ」
「礎になった者たち?」

「蓮見麗史のような姿を持つ者たちの意思だ」
「彼らはキミに好意的だよ」
「麗史様はともかく、他にどこにいるのか、分からなかったけど」
 桐峯は本人がそう名乗っていたし、羅千先生や瑠磨先生も事実関係からすれば、別の姿を持つ者だったのだろうけれど。

「あちこちにいる、学園内にはたくさんいるんだよ」
「とりあえずはおめでとう」
「学園の運営もまかせたよ」

 頭の中の声がそう言ったときに、部屋の戸がノックされた。
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