11 / 40
偽俺様王子の初恋
人生最大の失敗
しおりを挟むその日。
初めて白那に音声通話をしたら、開口一番に、
「別れたい、婚約は破棄して欲しい」
と言われた。
理由を聞いても、ハッキリと言わなかったし、様子がおかしかったので、場所を聞いて駆けつける。
朱那さんがいない日だったようで、白那は一人でサロンの片付けをしていたようだった。
アルコールの匂いがして、白那の様子が明らかにおかしいのが分かる。よろけた白那を支えると、触らないで、と言われた。肩が震えているのが分かって、いつもの感じとは違うと感じる。
白那の頬の赤みと、唇の腫れが気になったので思わず触れようとしたら、
「ダメ!瑠璃也が汚れちゃう」
と言われて、俺は思わず白那を見た。両手で押し退けられる。
汚れちゃう?え、なんだそれ、と思った。
「帰って。一緒にいないほうがいい。私に触ったら汚れるから、帰って」
「何があった?」
と聞いても、白那は首を振るだけで言わない。グラスに注いだビールと思しき飲み物を喉に注ぎ込んでいくので、さすがに止めに入った。
「飲みすぎ」
と言って手をおさえたら、
「お願い、やめて。汚れるから」
と言われる。
「何言ってんの、どこも汚くないけど」
「シャワーしても、消えないの」
嫌な予感がした。そして本能的に、白那の向こう側に、忌まわしい存在を感じる。そういう勘だけはいい方だ。
「とりあえず、今日は家に帰って休んだほうがいい」
白那に手を貸して、自宅の方に誘導しようとすると、
「心配するふりしないで。もう帰って。……れば、帰ってくれるの?」
「は?」
聞き捨てならない言葉が出て、言葉を失う。白那からそんな言葉は出てくるは思わなかった。
「それでいいなら、するから。もう帰って」
アルコールも入っているし、白那は多分、正気じゃない。俺のことを認識しているのかどうかも怪しかった。
白那は俺の足元にしゃがみ込んでくる。
怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。白那に腹立っているのか、白那にそんな発想を植え込んだ誰かに腹立っているのか分からない。
まずい、非常にマズいと思った。自分は比較的温厚な方だと思っていたのに、どうしようもない怒りが湧いてくる。
「誰と一緒にしてるんだよ」
「誰でも一緒だよ。ヤリ目なくせに」
うつろな目でこっちを見上げて、白那は言う。
脳天をぶち抜かれるような衝撃で、くらくらした。
ヤリ目、つまりセックス目的?
白那とする?
思えば、そういう発想をしたことがなかった。
俺の目的は白那といることそのものだから。人が先か行為が先か、なら、人が先だ。白那といることが先にあって、するしないは、割りとどうでもいい。
元々薄いところに、さらに不本意な経験を重ねたので、欲望がすり切れているというのも、正しい。
でも、白那は最初から俺のことをそう言う風に思っていたのか、とそのとき分かる。俺だけじゃなく男であれば誰でも同じ、と思っていたのだと思う。
腹が立って仕方がない。
白那にそんな発想を植え込んだのは、誰だよ、と思うし、一緒にするなよ、と思った。
「……ないけどごめん」
と白那が言う。
「何を謝ってるんだよ」
怒涛の単語に、ボルテージが上がってきてしまうのだった。そんなこと、本来は謝る必要はないことだ。そんなことを謝らせてる奴は誰だ、と思うけれど、今、白那が謝っている相手は俺に他ならない。
「……でも。こっちなら、できるよ」
白那がボトムスのホックに触って来るのを見て、これは罠だ、と思う。
白那が俺を嫌うのに十分な証拠を与えてしまうから。
分かっているけれど、このまま白那を放置することはできなかった。
そして、自分の感情を誤魔化すこともできなかったのだ。
白那をちゃんと大切にしてくれるなら、白那の相手は誰でもいい、と思っている。
推しメンでも、誰でも、白那が笑っているなら、それでいい。
でも、その誰かが白那を大切にしないなら。
奪って―――俺が大切にする。
そうして、脳天をぶち抜かれた俺は、人生で最大の失敗を犯した。
「本当にそうかどうか、試してやるよ」
怒りは欲情へと安易に転化する。
自分よりも高い白那の体温や、身体の匂いに酔う余裕なんてなく、とことん触れつくして忌まわしい存在を全部消してやろう、と思う。
「瑠璃也」
と眉根を寄せる白那は、彼女が謝ったような状態じゃなかった。
甘く柔らかな身体は、リラックスしているように見える。
だとしても、テストステロン値の高い方法で、俺は白那を傷つけているのはたしかだ。
半ばやけで自分を奮い立たせて最後まで達したとき、ああ――――
これで本当に、完膚なきまでに白那に嫌われるのだろう、と思った。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
鬼上司の執着愛にとろけそうです
六楓(Clarice)
恋愛
旧題:純情ラブパニック
失恋した結衣が一晩過ごした相手は、怖い怖い直属の上司――そこから始まる、らぶえっちな4人のストーリー。
◆◇◆◇◆
営業部所属、三谷結衣(みたに ゆい)。
このたび25歳になりました。
入社時からずっと片思いしてた先輩の
今澤瑞樹(いまさわ みずき)27歳と
同期の秋本沙梨(あきもと さり)が
付き合い始めたことを知って、失恋…。
元気のない結衣を飲みにつれてってくれたのは、
見た目だけは素晴らしく素敵な、鬼のように怖い直属の上司。
湊蒼佑(みなと そうすけ)マネージャー、32歳。
目が覚めると、私も、上司も、ハダカ。
「マジかよ。記憶ねぇの?」
「私も、ここまで記憶を失ったのは初めてで……」
「ちょ、寒い。布団入れて」
「あ、ハイ……――――あっ、いやっ……」
布団を開けて迎えると、湊さんは私の胸に唇を近づけた――。
※予告なしのR18表現があります。ご了承下さい。
冷徹秘書は生贄の恋人を溺愛する
砂原雑音
恋愛
旧題:正しい媚薬の使用法
……先輩。
なんて人に、なんてものを盛ってくれたんですか……!
グラスに盛られた「天使の媚薬」
それを綺麗に飲み干したのは、わが社で「悪魔」と呼ばれる超エリートの社長秘書。
果たして悪魔に媚薬は効果があるのか。
確かめる前に逃げ出そうとしたら、がっつり捕まり。気づいたら、悪魔の微笑が私を見下ろしていたのでした。
※多少無理やり表現あります※多少……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる