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神獣たちの初夜

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「頭をお上げください。寛麒様。もし誰かが見ていたとして、次期王が簡単に頭を垂れる、噂話が広がっては困ります」
「様はいらないよ、静龍。寛、もしくは寛麒と呼んでくれ」
「いえ、それは」

「私は必要ではないことには、頭を下げないさ。退屈な政ではおよそ下げたことはない。それに噂話が広がるのも、それはそれで面白い」
「それは、それでどうなのでしょうか」

「静龍。返事を聞かせて欲しい、協力してくれるか?」
 貝紫の瞳が静をとらえ、離さない。恐らく神獣の加護を受けていない者からすれば、強い強制力を持つ眼力となるのだろう。ただ、静は自分自身の意思として寛麒に協力しようと思っていた。

「協力いたします。というよりも、父上公認の上で任された任務となれば、まっとうするほかありません」
「個人の感情は一切ないと?」
「いえ、どうでしょう。ただ、寛麒様は」
「寛麒と」

「寛麒は、ただの気まぐれで私を惑わせているのではない、とは分かりました。お話を聞くつれ、五家や領地のことを考えておられるのだとは、感じています。ですから、私の個人的な感情からも、協力したいと思っております」
「ありがとう、静龍。感謝する」

 寛麒はいつになく、柔らかな表情で笑った。その表情に父や兄の面影を見つけ、静は驚きを隠せない。たしかに、血縁を感じずにはいられないのだった。

 静が寛麒に驚きを感じていたそのとき、寛麒は部屋の天井を仰ぐ。何か聞き耳を立てているかのような表情で、
「ああ、やはり来たか。南東の角楼だな。火の気が強まった」
 と言うのだった。

「何のことです?」静が尋ねると、寛麒は今度が少し悪戯な笑いを浮かべる。
「使いが来るか、本人が来るか。八割がた本人かと思ったが。やはりな」
 寛麒が一人納得しているので、静はわけが分からない。

「静、南東の角楼に行ってみるといい。結界を張って人払いをしておくから、心配はいらないよ」
「ですから、何の」
「一羽の鳥だよ。そなたを好いてたまらない、火の鳥が降りたったようだ。行っておいで」と寛麒が言う。その言葉に、静はすべてを理解した。胸が熱くなるのを感じる。
「婚姻に関して、明かすのか隠すのか。すべてはそなたにまかせる」
 静は頷くと、寝台から降り装束を整えた。一度ふり返ると、寛麒が手を振って送り出してくれる。


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