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☑クロマグロの解体ショー☑
途上の熱情
しおりを挟むまず、キスをしよう。
掴まれていた方の腕をぐっと自分の方に引き寄せて、彰人の顔を近づけた。
鼻先が当たりそうになり、思いがけずドキッとしてしまう。
あ、そうか、彰人とキスをしたことはなかった。
「橋本にマーキングされているな。不快な匂いだ」
と彰人は憎まれ口を叩く。
「誰としてもいいだろ、お前はしてこないくせに」
と言うと、彰人と視線が交わった。なんだよ、と言いかけたところで、彰人が目を閉じる。
頬に落ちる睫毛の影を見ると、自然と身体が動いて、彰人の薄い唇にキスをした。
皮膚と皮膚が当たったという感触はある。
それ以上の鮮烈な感覚を、彰人には与えられてたはずだけれど、この幼稚なキスに、思いがけない愛おしさが生まれた。
彰人は目をあけ、「大したことないな」とつぶやく。なにがだよ、と思うが、お互いの視線が交わったまま、外れない。まだ続けようってことか。
キスをして、それから、どうするんだ?
身体を揉みしだきながら、それとなく服を脱がしていく。
と頭で手順を思い浮かべるものの、体格差を思う。大柄な女の子もいたけれど、大抵はオレの腕の中に納まってくれるのだ。
いや、そもそも彰人はそういう雰囲気になったときにも、服を脱がない。ネクタイを外してシャツのボタンを何個か外す。
そしてパンツのジッパーを開ければ、彰人にとっては事足りたのだろう。彰人との間にあったのは、身体を重ねるというよりも、ある一点でのみ繋がっていたというだけなのかもしれない。
オレは彰人のネクタイをほどき、ベッドの上に投げた。
丁寧に扱え、と言う彰人の言葉は無視し、シャツのボタンを外していくと、首元にドッグタグが見え、ドキッとする。
どんどんボタンを外し、インナーのシャツ一枚にしてしまう。シャツ一枚になると、細身だが、無駄のない筋肉の隆起が分かる。彰人をこうして真正面から眺める機会なんてなかった。
どこからどう見ても、男だ。それに、一般的に見れば、上等な男だと思う。
本人自身がどんな趣向を持っているのか実際のところ分からないけれど、男女の区別なく、あるいは好悪を関係なく、目をひく男なのは間違いない。
あの後、彰人は誰かと付き合ってきたんだろうか。
誰かと、こんな風にしてきたんだろうか?
「手がとまっている」と彰人の指摘が入り、「うるせーな」と言いながら、彰人をベッドに誘導する。
彰人が大人しくベッドの縁に腰をかけるので、オレは肩口を押し、ベッドにその身体を押し倒した。またがるようにしながら、シャツを脱がす。
しゃらしゃらとドッグタグが揺れた。彰人の瞳が真っすぐこちらを見あげてくる。静かにただ、こちらを見あげてくるのだ。
なんでなんも言わねぇんだよ、と思った。オレは顔を寄せて、もう一度唇へキスをする。
それから頬へ、喉元、首筋、鎖骨へとキスを落としていった。彰人の身体からは匂いがする。フレグランスではないような気がするが、爽やかな匂いが香り立つのだ。
つつつっと腰にしびれがやって来て、忘れかけていた感覚を思い出す。自分から誰かに触れようとするときの、甘い興奮だ。
一方的に攻められるときの、鮮烈な興奮とは違う、どう触れようかというワクワクする興奮がそこにある。片手で彰人のスーツのパンツに手をかけ、ベルトを外す。それからジッパーを外し、そのまま下に引っ張った。
下着が見えたところで、彰人が反応しているかを確かめたくて、すぐにソコへ手をのばそうとするのだが。その手を捕まえられた。
「え?」
そのまま腕をひねりあげられて、視界が反転する。
「なぜ、お前だけ脱がない?」と彰人は言った。
「いや、お前だっていつも脱がねーじゃん」
と答えるのだが、その間にネクタイを外され、シャツを脱がされていく。
「出し惜しみをするな」
と言い、あっという間に上半身を裸に向かれてしまうのだ。彰人といい、橋本といい、どうしてこう人の服を脱がせるのが得意なんだろう、と思う。
人を組み敷いておきながらも、彰人は眉を顰め、
「あちこち触りつくされているな、匂いがする」
と言うのだった。
「なんの匂いだよ」
「それに、いかにもわざとらしく、あとが残っているな」
と身体の表面に触れてくる。触れられたポイントから、橋本のことを言っているのだと気づいた。
橋本はきっと気を逸らすためにそのポイントに口づけていただけだとは思う。
だが気づいたが最後、その後の展開を思い出し、顔が熱くなってくるのだ。ふん、と彰人が鼻を鳴らす。
「簡単にほだされるやつだ、そんなに男に触られるのが好きか」
「そんなわけあるか」
と反論している間にも、スーツパンツを脱がされて、下着をおろされた。これじゃいつも通りじゃ?と思う。
「ちょっと待てよ、これじゃダメだろ。相手をしてみせろっていったのはお前じゃん」
「十分だ」
と言い、もの言いたげにしてオレの唇を指でなぞってくる。
「は?」
「それに、橋本の残していった匂いが耐え難い。お前はどうして簡単に秘所を許すのか」
彰人の人差し指が、本日2度目の場所に触れてくる。身体が一瞬にして熱くなり、腰を浮かせた。すると立ちあがっていた前の部分もビクンとたわんだ。彰人の目が合い、その静謐な印象に、自分だけが高まっているような虚しさを覚える。
オレばっかり遊ばれているような関係はずっと変わらないのかもしれない。
ああ、だから後ろからされる方がよかったんだ、と思った。
けれど、腹部に当たる下着ごしの気配にはしっかりと彰人の熱が感じられ、驚く。
「簡単に許してねーだろ。最後までしたのは、お前だけだ」
と言っておく。ただ、自分の名誉のために今日の失敗は話すことはしない。彰人は瞠目する。
「こっちの方はってことだけどな。女の子との別の方は、まあ、それなりに」
「なるほど。橋本もなかなかの腑抜けだな。だが、最後までというのは語弊があるだろう。常に途上だ」
「はあ?」
「高まりをむかえて、終焉だと思っているのはお前だけだ。俺は常に枯渇している」
彰人はぐるぐると指を回転させていくけれど、なんの潤滑剤もない状態だ。
皮膚の摩擦が強すぎるせいで、うめき声が出る。
いつも用意周到な彰人にしては、効率が悪い気がした。大してほぐすこともなく、彰人は下着を脱ぎ、片手でパッケージをあけて、スキンを装着する。
「いやいや、無理だって」
あてがわれた時点で、身体が粟立った。
この感じには覚えがある。初めてのときの鮮烈なまでの身体の痛みと、脳を駆け抜ける快感を思い出した。
グイっと広がれたら最後、味をしめた彰人は無理やり這いのぼってくる。体中の血液が、その場所だけをめがけているかのようだ。悲鳴のような声が出る。
彰人のドッグタグが光るのを見て、その向こうに見えた彼の顔を見あげた。
眉を寄せ、快楽をかみしめるかのようにこちらを見る顔は、初めて見る顔だ。
それは気持ちのいい顔か?
だとしたら、参る。
身体が勝手に動いてしまう。
アキヒト、とオレは呼んで、背中に手をまわした。
彰人が目を見張るのが分かる。
これはきっと、いけないことなんだ、と思った。彰人は望んでいないことかもしれないし、分不相応なのかもしれない。
本来ヤレればいいだけの相手に、こんな恋人じみたことされたらキモイと思う。
けれど、頬や首筋に何度もキスが落ちてきて、勘違いじゃなければ、彰人の感情も高まっているようにも見えた。
まさか、あの彰人に余裕がない?
ずんずんと規則的に打ち付けていたそれが、速度を増していく。
自然とオレは細切れな声をあげ、彰人は吐息を漏らしていた。中の高まりがひときわ膨らんだ気がしたときに「玲二」と名前を呼ばれる。
あ。
まずい。
気を抜くと、意識が飛びそうになる。摩擦の快感以上に、脳への快感が強い。嬉しい、気持ちいい、好きだっていう快感がかけめぐる。
ダメだ彰人。こんなことをして混乱させないでくれよ。
彰人を思っていたときの感情を思い出してしまう。もう、期待をして裏切られたくないんだ。
けれど、彰人のしっとりと汗に湿った胸が自分の胸に触れ、抱きしめられたことを感じたとき、すべての感情は過去へと巻き戻ってしまっていた。
オレは達した。
彰人、好きだ、と口にしたかもしれない。
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