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☑クロマグロの解体ショー☑

ウィークポイント

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 その夜、ホテルの一室で、橋本との間で交わした会話について、彰人や茶亜利伊に報告した。
 橋本ももとよりそのことは念頭にあったに違いない。
「そんな愚かな策は却下だ」と彰人は言う。
 けれど、茶亜利伊は存外いい策かもしれませんよ、と言うのだった。
 君塚が気に入った男娼たちからの報告には進捗が見られないらしい。色仕掛けの方向からでは限界があるのかもしれませんよ、と茶亜利伊は言うのだ。
 けれど彰人の反応は鈍い。
 不確定要素の多いアイデアだ、と一蹴する。

 たしかに特殊メイクで顔をかえて、君塚の会社の採用面接を受ける。
 採用されたら、社内の情報をリサーチしながら、証拠集めを行う。
 あっさりと橋本は言ったけれど、採用される保証もなければ、証拠集めができる場所に配属されるとも限らない。不確定要素が多いのは事実だ。
 ただ、代替案もない。

「ものは試しってやつじゃねーのかな。やってみればいいじゃん」とオレは言う。
 それほどのリスクがあるとも思えない。最低限、オレの身元がバレなければ問題ないだろうと思う。そう伝えても、彰人は首を縦には振らないのだ。
「お前はこの件に関わらなくていい」
 との一点張りで、取りつく島がない。
 とはいっても、橋本から話を持ちかけられている以上、オレだって黙っているわけにはいかなかった。

「オレが信用できないってことかよ?橋本はオレのことを協力者にしたいって言っていた。橋本の動機は少し私怨入ってる気もするけど、彰人と目的は一緒だろ。にもかかわらず、オレに関わるなって言うってことは、橋本はオレを信用しているけど、彰人はオレを信用していないってことになるよな」
「なに?」
 彰人の目の色が一瞬変わったのが分かる。
「狩野様、ウィークポイントを突きましたね」
「橋本はお前を信用しているわけではないだろう。ただ、君塚を探るための利用価値を多少認めているだけだ」
「それの何が悪いんだよ?今オレにできることは、事務所の立て直しに関わることだよ。社長は消えやがったけど、姫サマたちはまだ残ってる。どうにかしてやらなきゃならないだろ。利用価値でも何でもいいけど、何か行動を起こそうとすることの何が悪いんだ」
「殊勝なことだ。だが、自分の実力を過信しているとしか思えないな」
「じゃあ、大人しくしてろってのか?男の相手をさせるように、このホテルにオレを連れてきたのはお前だろ?その相手が君塚だろうが、橋本だろうが違いはないだろ?何か問題あんのかよ?」
 彰人がハッと息を飲むのが分かった。
 一方でオレも、言いすぎたかもしれない、と思う。そう思っていたときには、すでに腕を掴まれていた。
「美、茶亜利伊。席を外せ」
 と言う。
「そんな勿体な。いえ、失礼します」
 と言い茶亜利伊はいそいそと部屋を出ていった。

 片腕を掴んでくる手の力は、どんどん強くなり痛いくらいだ。今までの会話の流れの中で腑に落ちないことが多かったせいか、簡単に折れる気になれなかった。
「いてーな。なんだよ、文句あんのかよ?」
「男の相手をするのが、やぶさかではないんだろ?」
「そんなことは言ってない」
「だったら、相手をしてみろ」
「はあ?」
 腕を掴んだまま、彰人はオレを真っすぐに見つめてくる。
「君塚を探ると大層なことを言う割に、主体的に動くことはできないのか?色を使って相手の懐に入るということはそういうことだろう?あるいは、個人的に親しくなった場合にも、想定できることだ」
「いや、でも。お前とってのは、違うだろ」
「なにが違うんだ。俺を満足させることができれば、報酬を出してもいい」
 彰人は泰然としている。
「報酬とかそういうんじゃなくて、なんか。そういうのは、違うような?」

 何が違うのか考えようとすればするほど分からなくなる。オレが彰人の相手をする?
 それはつまり、オレが抱く側になるってことなんだろうか?
 最初が最初だっただけに、男を相手にするということに関して、抱かれる側を想定することが多かったが、それはあくまでもオレの先入観なのか?
 思えば、女の子とするときとは違って(いや女の子とするとしてもときとして主導権の交代はあるけど)、オレたちは機能的には同じものを持っているわけだ。

 オレが抱くこともアリと言えば、アリなのか?
 いや、そもそもなんで彰人の相手をしなければなんないんだ?
 そんな風に考えている間にも、早く決めろ、と言われてしまう。どう見ても、主導権は彰人が握っているように思えてならないが。
「満足させる自信がないのか?男相手なら、氷の上に横たわっているクロマグロで十分だと思っているのか?」
「そ、そんなことねーよ。いや、そもそもクロマグロなんだよ」
 彰人の煽る内容もよく分からないが、反射的に否定してしまう。
「じゃあ、やってみろ」

 彰人を正面に見ながら、どんな風に、女の子と付き合ってきただろうか、と思い出してみる。
 しかし、思いだせない。いちゃいちゃしながら柔らかい肉体に触れていると自然とそういう雰囲気になって、キスからはじまり、それから。
 そんなに難しい手順を踏むことなく、スムーズにそしてフランクに付き合ってきたように思う。

 彰人の濡れるように黒い前髪の間から、切れ長の目が覗いている。彰人の本心が見えないほど、黒々とした瞳を見ていると、ついうっかり吸い込まれそうになるのだ。
 彰人といちゃいちゃする?そんなこと、出来る気がしない。
 初めてのときの彰人の方法だって、ずいぶん強引な手段だった記憶がある。だが、薄暗い記憶を思い出しそうになるので、記憶を頭の隅に押しこんで、オレはオレの方法でやろう、と思いなおした。
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