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☑酩酊キロク☑

酩酊キロク

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 落ち着いた大人の雰囲気の場だ、そう頭の中でふわっと思った。
 塵のように拡散しそうな意識を、なんとか少しだけかき集めて、オレは今ここにいた。

 辺りには紫色の光を浴びて異界人みたいに見える沢山の人達がいて、彰人がいる。
 ゆったりとしていて粘りっこい音楽と、強い酒の匂いが五感の大半を支配して、あと残りの何割かは、まどろみのような酔いで満たされてる。

 あれ。
 どーしたんだっけオレ。
 爪の先くらいの意識で、そう問いを作るけど、次の瞬間には懐の深いよろめきに飲み込まれていってしまう。
 足ががくがく崩れて、横の彰人が腕を掴んで立たせてくれる。

「玲、だ」
 彰人がらしくもなく心配そうな顔で、オレを覗く。
 だけど、なんて言ってるのか聞こえない。
 自分の脳みそと外の出来事がものすごく遠く、頭蓋骨と頭皮一枚以上の隔たりを感じる。
 体全体が分厚いぶよぶよとした膜に包まれているかのようで、外部からの刺激をとことん排除していた。それは自分で望んだことみたいで、あるいは、体の自動的機能みたいだった。
 どっちにしろ、この状態はそう不快でもない。

 ただ、ぼやけた視界の先の彰人の浮かない顔が気になるだけで。爪の先の意識で、今より少しだけ前のことを思い出そうとしてみる。

 オレはさっきまで確か、割と楽しく酒を飲んでいたはずだ。
 ちょうど腹も減っていたし、皿にとった料理をつまみつつ、良い酒を飲んでいた。けど、今はナンダカ……
 もうだめだ。
 つんのめって、それからは覚えてない。


 ざわざわとひと際大きく文脈がみだれ、回線のように繋がっていた言葉の糸がぷつんと途切れた。
 そうして、私は狩野玲二の文脈から追い出されてしまった。
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