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☑疑わしきはダレ?☑
疑いの種まき
しおりを挟む彰人の様子が変だったことが気になって、オレはどうにもこうにも気もそぞろになってしまった。
娼館内の喫茶店に着いてからもそうで、橋本が何か話しかけ来ても、生返事をするだけだ。
あいつがあんなにぽーっとしているところ、初めて見た。
いつだって、理路整然という言葉の模範のように、一寸の隙も見せない彰人なのに。絶対に、おかしい。
オレ、何か変なこと言ったか?
でも、あいつがオレの発言に気を病むことなんて、十中八九ないだろうし。
ただ、昼食の食い合わせが悪くて、腹が痛かっただけとか。
こんな風に、オレは色々な可能性を検討してしまっていた。
隣にいた橋本が、いかにも不機嫌そうにしているのなんて、目にも留まらなかったのだ。
「君と、八俣彰人のことを聞いても構わないかな?」
おもむろに、橋本は言った。ちょうど彰人のことを必死に考えていたオレは、彰人という単語に、過剰に反応してしまい、目をしばたいた。
「あ、彰人のことがなにか」
「単刀直入に聞くけど、君は彰人の恋人?」
「こ。違います。オレは、あいつの、そんなんじゃないです」
「そうだろうね。自分の大切なひとを、こんな場所に連れてくるわけがない。男娼館なんかにね」
「ですよね」
「君は、知っているのかな。この男娼館は、彰人の叔母の持ち物なんだ。【cour】の社長でもある橋本梢のね」
「橋本、梢さん?」
オレは橋本の顔を見る。
「そうだよ。橋本梢は俺の母親だ。母は、甥である彰人にタレント事務所の権利も、男娼館の権利もみんな渡していったんだ。息子の俺を差し置いてね」
橋本の声の調子が少し強くなる。
「まあ、それはいい。ともあれ彰人は、殊のほかこの男娼館を気に入っていてね。社長が海外研修を名目に、海外を飛び回っている間に、色々と自分好みにシステムを変えていったんだ。例えば、男娼は借金まみれの男に限る、とかね」
「え、それって」
オレ、みたいだ。と思った。
「借金のある男は、中々ここを出て行くことができない。だから、安定した人材を確保できるというわけだ。君も、彰人にかどわかされた類いじゃないのかな」
「そんなわけ。ない、と思いますけど」
完全に、否定できる自信がオレにはあるだろうか。
ここへ連れてきたのは彰人で、オレはここが男色を売る場所だなんていうことは全く知らなかった。これが拐すといってもいいのなら、オレは、拐されたのだ。
「そんなわけが無いって、君は言えるのかな?」
「それは」
「さっき君が彰人に連れて行かれてから、色々調べさせてもらったよ。君の勤めていた場所のことも、借金のこともね。タレント事務所、【ティアラ】で間違えないね?」
「はい。でもオレの仕事は派遣業の補佐ですし。ティアラの本業にはノータッチなんです」
「【ティアラ】のことは、よく知っているよ。【cour】が前々から目をつけていた人材を抱えていたからね」
橋本はアイスティを一口、口にする。
「母も、【ティアラ】にいる女の子層に目をつけていた。【cour】にいないマルチ色の強い個性の子が多いからね。【cour】の中には、なんとかして【ティアラ】との移籍交渉ができないかいう声もあった。だけど、母は日和見な性格でね。まさかそこまでして、他の事務所としのぎを削りあう必要なんてないという志向だったんだ。――だけど、彰人は違う。あいつは、崩せるところは崩して、頂点を目指すやつだ。君の事務所のような小さい事務所は、彼にとっては、恰好の鴨というわけだよ」
「だ、だからって、彰人が【ティアラ】に何かをしたってわけじゃないでしょう」
「果たして、何かをしたわけじゃないのかな」
「どういうことですか?」
「君のところの社長の借金が、彰人が君をここに連れてきた大きな要因だろう。じゃあもし、その借金が事務所を陥れるために、誰かが仕組んだ罠だとしたら?君のとことの社長は、誰かの口車に乗せられて、例の莫大な借金を作ったのだとしたら?」
ありえない話じゃないが、証拠もない。
「それは、憶測に過ぎません。うちの社長は、普段から金遣いは荒いわ、ギャンブル好きだわで事務所内では知られたことなんです。借金のことだって、想定内といえば想定内です。だから、彰人はなんにもしていない、と思いますけど」
オレがそこまで言うと、橋本は眉をゆるめ、柔らかな顔になる。
「……まあいいか。その辺の真相は、いずれ分かることだ。そのときに、君のその気概が残っていることを祈るよ。それよりも、時間のようだ」
茶亜莉伊がいつのまにかやって来ていて、パーティのお時間ですと告げる。
「いこう、玲二くん」
「はい」
彰人が社長を罠にはめたのかもしれない。
橋本はそう言いたかったのだろう。
だけど、にわかには信じがたい話だ。
彰人は無闇に賢しいし、よくオレを騙すけれど、薄汚いことにその賢しさを使うタイプじゃないと思う。
とはいえ、常に、彰人にひどい扱いを受けているオレには、確固とした自信があるわけではないけれど……。
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