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☑夜とぎの手習い☑
奇妙なレッスン
しおりを挟む男娼、と聞いて単なる床あしらいと思っていれば、じつはそうじゃないらしい。
さっきの茶亜莉伊と名乗った男が言っていたとおり、しばらくしてから、また違う男が部屋にやって来て、オレはダンスホールのようなところに連れて来られた。
ここは、どっかの宮殿か?
と思わずにはいられない。
ホールは、オレの卒業した高校の体育館よりも広かった。
しかも、全体がフランスのロココ調で統一されていて、白を基調とした壁は鳥やら蔦やらの彫刻で装飾されていた。
他の部屋とは違い、このホールだけは天井が丸く、ドーム型で壁と天井との境界がない。まるででっかい卵の中に閉じ込められたみたいな気分になった。
「社交ダンスは、多少は嗜むのか?」
指導員と名乗ってやってきた大男が、聞いてくる。ぽかん、と部屋を眺めていたオレは我に返った。
「したことねぇよ。中学の時のフォークダンスくらいしか」
「そうか。じゃあ、ここで、ソシアルダンスを適当に学んでもらわないとな」
「学ぶって言っても。ここで何をするわけ?」
「ダンスパーティだ」
「何でダンスだよ?ここは、えーっと、娼館なんだろう?」
この異様な状況にまだ対応しきれていないせいか、声が上ずる。
「ああ。でも娼館が、やるだけの場所だと思っては欲しくない。ここは社交界なんだ。もっとも男性限定だが」
「社交界、ね。でもさ、男限定で儲かるのか?」
「もっとも、この事業すべてが男性限定というわけではないけどね。各分野があるうちの男性部門がここだってだけだよ。しかし、プロジェクトのためとはいえ、ここまで堂々とした館をたてるとは、梢様も相当の敢勇ぶりだよ」
男は肩をすくめてみせる。
梢?誰だ?
「梢って」
「ああ、米化流。連れてきてくれたんだ」
かつかつかつ、と黒い従業員指定の靴を響かせて、オレ達が入ってきたのとは逆の入り口から、男が入ってきた。
呼ばれた男は、はい、と返事をする。後から来た男のほうが、立場上みたいだ。
本当に、野郎しかいないのな。
しかも奇妙奇天烈な名前のやつらしか。
「こんにちは。災難だったね。オレのことは留伊須と呼んで」
男は近づいてきて、笑う。なかなかの美男だ、と思う。
「さあさっそく練習をしよう」
とオレの手を引き、ホールの中心へと引っぱってゆく。くるくるとめまぐるしい男だ。
かんかんとホールに足音を響かせながら、オレは半ば男に引っぱられるようにして、ダンスの練習をした。
動きが直截的すぎるとか、相手のテンポを無視しすぎるとか、注意をされながらの練習だった。
だけどまあ、久々にまともに身体を動かして、少し気分が良かったのも事実だったりする。
こんな場所で気分良くなっても仕方ないけど。
「ああ、来たね」
ステップを流しで確認していたとき、何人かの足音がこここと響き、男はオレをこえた先に視線を向ける。振り返ると、米化流が戻ってきていた。
続いて、何人かの少年達もやって来てくる。多分、今日売られたというやつらだと思う。中々の美少年ぞろいだ。
ひとりの少年と目があい、その少年は静かに笑いを返してきた。
売られたってのに余裕だな。
それとも、オレみたいに悪足掻きをするやつの方が稀なのだろうか?
「しかし、今回はレベルが高いね。この様子だとパーティが楽しくなりそうだね」
満足したように男は言う。
「それでは、この者を部屋に送って来ます」
米化流はそう言って、オレの肩に手を置く。オレは苦く笑い、
「部屋に戻るくらいは自分でできるって」
と答えた。移動くらいで、男と始終一緒なんて、暑苦しくてしょうがない。
「そういうわけにはいかない。狩野怜二への監視は厳重に、と言われている」
「誰にだよ」
「きみの事を最も案じている人だよ」
「誰?」
「そういうことは、自分で考えた方がいいよ」
「なんだよ、ケチくさい」
部屋に戻ったオレは、彰人が寄こしたという書類にひと通り目を通しておいた。
それには、オレが相手をしなければならない橋本という男の略歴と、趣味、大まかな性格的特徴なんかが書かれていた。
そいつはここ2、3年で勢いをつけているIT企業の社長らしい。なんにせよこの橋本とかいうやつ。どうせ、ロクでもないエロおやじなんだろう。
社長だろとなんだろうとこんなトコに来るやつだ。まともなわけがない。金を持て余していて女遊びに飽きて、男遊びに転化したようなやつだ、きっと。
こうなったら、ヤケッパチだ。
どのみち逃げられないなら、奮闘するしかない。善戦してやるさ。
しかし、オレの勝手な想像は、幸か不幸か裏切られた。
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