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聖女の祝福
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「ランス様、良かったですね?」
私が言うと、ランスが私の左目に視線を注ぐ。
「シュシュ、目の色が空色になっているよ。そちらの目は見ている?」
「え?」
ランスが試しにと私の右目を自らの手のひらで隠し、左目だけ見える状態にさせた。左目の視界がぼやけている。ぼんやりと輪郭が見えるだけで、視認できない。
「近視じゃなかったはずなんですけど、何だかとっても見えにくいですね。というよりも、ほとんど見えないです」
「君は左目の視力を引き換えに、人々を冥界から呼び戻したようだ。これはマズいね」
「何がマズいんですか?片目の視力で人の命が戻って来るなら、お安い御用だと思います」
「君は本当に裏表がないし楽観的だね。けれど、世の中には陰影があるのが、常だと思う。例えば、この状況を見ていた人間が複数いる」
ランスが視線を注いだのは、一人の護衛兵だ。一目散に城へと走り去っていく背中が遠目に見えた。
「あ、王様に報告ですか?」
ランスはうなずく。
「聖女の加護を過大評価するだろうね。それに、魔法兵器の実験をする必要もなくなった。父からすれば、結果として聖女を見つけ出せたことになる。けれど君にとってはとんだ災難に違いない」
「そうでしょうか?力があるなら、国のために使えばいいじゃないですか?」
「王は国のことなんて、考えていないよ。ただ一つ、愛しの妻を蘇らせることしか、興味がないはずだ。側室もその子どもにも、愛情はない」
以前から、王様の王妃様への思いについてはランスから話を聞いていた。
「好きな人を蘇らせたいって、気持ちは分かりますけど。今そばにいる人を無視するのは、なんか微妙ですね。王様の周りには、家臣もいればランス様もいますよね?国民もいるはずなのになぁ~」
「母との関係に後悔があるのかもしれないね。私にとっては知ったことでは、ないけれど」
「後悔がないお別れってあるものでしょうか?どんなお別れの方法なら、後悔ってないものかな?」
これは私自身への問いかけだった。悲緒とのお別れは、私の命が失われる形でのお別れだ。
彼はそういう形で、私と別れたかったのかもしれない。私の命を世界から消すという形で、別れたかった。
その気持ちは私には分からない。でも、私がいなくなった世界で、悲緒が幸せかどうかだけが、気がかりだ。
「後悔のない別れは、どこにもないかもしれないね」
とランスは言った。
私が言うと、ランスが私の左目に視線を注ぐ。
「シュシュ、目の色が空色になっているよ。そちらの目は見ている?」
「え?」
ランスが試しにと私の右目を自らの手のひらで隠し、左目だけ見える状態にさせた。左目の視界がぼやけている。ぼんやりと輪郭が見えるだけで、視認できない。
「近視じゃなかったはずなんですけど、何だかとっても見えにくいですね。というよりも、ほとんど見えないです」
「君は左目の視力を引き換えに、人々を冥界から呼び戻したようだ。これはマズいね」
「何がマズいんですか?片目の視力で人の命が戻って来るなら、お安い御用だと思います」
「君は本当に裏表がないし楽観的だね。けれど、世の中には陰影があるのが、常だと思う。例えば、この状況を見ていた人間が複数いる」
ランスが視線を注いだのは、一人の護衛兵だ。一目散に城へと走り去っていく背中が遠目に見えた。
「あ、王様に報告ですか?」
ランスはうなずく。
「聖女の加護を過大評価するだろうね。それに、魔法兵器の実験をする必要もなくなった。父からすれば、結果として聖女を見つけ出せたことになる。けれど君にとってはとんだ災難に違いない」
「そうでしょうか?力があるなら、国のために使えばいいじゃないですか?」
「王は国のことなんて、考えていないよ。ただ一つ、愛しの妻を蘇らせることしか、興味がないはずだ。側室もその子どもにも、愛情はない」
以前から、王様の王妃様への思いについてはランスから話を聞いていた。
「好きな人を蘇らせたいって、気持ちは分かりますけど。今そばにいる人を無視するのは、なんか微妙ですね。王様の周りには、家臣もいればランス様もいますよね?国民もいるはずなのになぁ~」
「母との関係に後悔があるのかもしれないね。私にとっては知ったことでは、ないけれど」
「後悔がないお別れってあるものでしょうか?どんなお別れの方法なら、後悔ってないものかな?」
これは私自身への問いかけだった。悲緒とのお別れは、私の命が失われる形でのお別れだ。
彼はそういう形で、私と別れたかったのかもしれない。私の命を世界から消すという形で、別れたかった。
その気持ちは私には分からない。でも、私がいなくなった世界で、悲緒が幸せかどうかだけが、気がかりだ。
「後悔のない別れは、どこにもないかもしれないね」
とランスは言った。
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