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最低の殺人鬼・出雲悲緒
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彼女との時間はとても貴重だ。でも会ったら会ったで辛くなる。
どう頑張っても、自分が彼女に何かを与えられている実感がないからだ。
気にしなくっていいよ、私は気にしないよ、と言われるたびに、まるで母親にたしなめられているようだ、と思う。
付き合う前にはもっとフランクで楽しく話が出来ていたのに、今や俺が一方的に意地を張っている。
虚栄心のために空虚なガールフレンドを作る。別の女性とデートをしたり一緒に夜を過ごしたりしていた。結局は相手に何の感情もこもらず、早く帰って欲しいと思ったり、二度と連絡してこないで欲しい、と思ったりするのだ。感情が動かない相手と行為に及ぶのは、俺にとっては拷問に近かった。
隠すつもりもない浮気は当てつけのように映ったに違いない。彼女の周りにも男性の影が見え隠れするようになった。特定の相手というよりも、その場限りの癒しを求めている節がある。
終わりの時が近いのは感じていた。それは付き合ってすぐに、勘づいていたことだ。
別れ話をしてきた彼女を目の前にしたとき、自分の感覚もすっかり湿気っていたことに気づく。彼女は今日何食べる?と聞くかのような、重みのないトーンで言う。
「別れようか。そうすれば、お互いに楽になれるかも」
以前から「別れたい?」と彼女から聞かれていたけれど、回りくどい言い方で遠ざけてきた。「別れたくない、どんなに上手くいかなくても、やっぱり楽華が好きなんだよ」とだけ言えばいいのに、いつもネジくれて湿気った言葉が口から飛び出していく。
そして、その日は決定的に別れを切り出された。
カジュアルに別れを告げる彼女を目の前にしたら、頭で理解していたはずのものがいかに信用できないものなのかを知る。
「もう少し賢いと思っていた」
と両親には絶望されるだろう。友達からは失望されると思う。職場では、なるほどねこんな欠点があったんだ、と言われる未来を想像する。
「悲緒。笑顔でいれないなら、私達は離れた方がいいと思う」
彼女が言った。
俺と彼女の出会いと付き合いは、二人の大きな人生の流れが一時交わっただけだ。今後は分岐していくに違いない。きっと永遠に交わることはなく、別の人生を生きていくのだろう。
流れが交わった瞬間に、お互いは楽しさも笑いも確実に失っていたのだから。
「本当に別れたい?」
と尋ねて、頷いた彼女を見たとき、離したくない、全部俺のものにしたい。
と思った。
彼女の中に潜む影をすべて消して、一から愛し合えたら、と思えば、自分の中に湿った風が吹く。
水をはらんで重くなった風は、自分の心をジトッと濡らした。乾かしてくれる乾いた風はもう吹かない。彼女は俺には微笑まなくなっていたから。
言動で彼女を傷付けながら、アイラビューと心で叫ぶ。完全に心と身体は乖離していた。
どう頑張っても、自分が彼女に何かを与えられている実感がないからだ。
気にしなくっていいよ、私は気にしないよ、と言われるたびに、まるで母親にたしなめられているようだ、と思う。
付き合う前にはもっとフランクで楽しく話が出来ていたのに、今や俺が一方的に意地を張っている。
虚栄心のために空虚なガールフレンドを作る。別の女性とデートをしたり一緒に夜を過ごしたりしていた。結局は相手に何の感情もこもらず、早く帰って欲しいと思ったり、二度と連絡してこないで欲しい、と思ったりするのだ。感情が動かない相手と行為に及ぶのは、俺にとっては拷問に近かった。
隠すつもりもない浮気は当てつけのように映ったに違いない。彼女の周りにも男性の影が見え隠れするようになった。特定の相手というよりも、その場限りの癒しを求めている節がある。
終わりの時が近いのは感じていた。それは付き合ってすぐに、勘づいていたことだ。
別れ話をしてきた彼女を目の前にしたとき、自分の感覚もすっかり湿気っていたことに気づく。彼女は今日何食べる?と聞くかのような、重みのないトーンで言う。
「別れようか。そうすれば、お互いに楽になれるかも」
以前から「別れたい?」と彼女から聞かれていたけれど、回りくどい言い方で遠ざけてきた。「別れたくない、どんなに上手くいかなくても、やっぱり楽華が好きなんだよ」とだけ言えばいいのに、いつもネジくれて湿気った言葉が口から飛び出していく。
そして、その日は決定的に別れを切り出された。
カジュアルに別れを告げる彼女を目の前にしたら、頭で理解していたはずのものがいかに信用できないものなのかを知る。
「もう少し賢いと思っていた」
と両親には絶望されるだろう。友達からは失望されると思う。職場では、なるほどねこんな欠点があったんだ、と言われる未来を想像する。
「悲緒。笑顔でいれないなら、私達は離れた方がいいと思う」
彼女が言った。
俺と彼女の出会いと付き合いは、二人の大きな人生の流れが一時交わっただけだ。今後は分岐していくに違いない。きっと永遠に交わることはなく、別の人生を生きていくのだろう。
流れが交わった瞬間に、お互いは楽しさも笑いも確実に失っていたのだから。
「本当に別れたい?」
と尋ねて、頷いた彼女を見たとき、離したくない、全部俺のものにしたい。
と思った。
彼女の中に潜む影をすべて消して、一から愛し合えたら、と思えば、自分の中に湿った風が吹く。
水をはらんで重くなった風は、自分の心をジトッと濡らした。乾かしてくれる乾いた風はもう吹かない。彼女は俺には微笑まなくなっていたから。
言動で彼女を傷付けながら、アイラビューと心で叫ぶ。完全に心と身体は乖離していた。
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