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悪女の手引き
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帰ってみれば棲み処のテントが荒らしに遭っていた。
内部の持ち物はほとんど持ちされていたし、カードやクロスは乱雑に散らばり、台は転がっている。泥のついたブーツで踏み荒らされた気配があった。
秘密を探そうとするために、棲み処を荒らす。正攻法だとは思うけれど、私には探られて怖い肚はない。探られて怖いのは、額だけだ。宰務官が一万噛んでいるかどうかは分からなかったけれど、心当たりはありすぎて誰に狙われているのかは分からない。
私は荒らされたテント内を片付けて、南南東の森へ向かう。
聖女の力とは便利なもので、結界を張ることが出来るようだ。森の入り口には結界を張っている。
暗い森の中で道しるべになるのは、血痕だ。落として間もない血痕であればあるだけいい。
聖女の力では生命の気配を感じ取れる。私の目には血痕のおちた地面に、光が見えていた。
光を辿っていけばベールをまとった乙女の石像が出てくる。この石像を見てこの森から無事に帰った人はいないはずだ。
石像には赤黒いしみがたくさんついていた。
漆黒の聖女と私は呼んでいる。
石像の前には数体の遺体が転がっている。軍服を身につけている者が多い。私の気まぐれな名簿遊びを真に受けているなんて、実直なのかそれとも愚かなのかしら?と思う。
寝台の上で心地よくなり、ぽろりともらした殿方の言葉を私は逃さない。弛緩した瞬間の気のゆるみを私は逃してあげないのだ。
「上官の~が」
「同僚の~が」
あらあら、そんな簡単に口にしていいのかしら?と思いながらも、ありがたく脳内の手帳に記していく。物を知らない娼婦ごときならば口にしても構わない、と思われていれば一番いい。
名前と関係筋を控えておくのだ。預言を求められれば、生贄として別の派閥の者や仲たがいしている相手のイニシャルを告げる。相手の口元に猥雑な笑みが浮かべばいい。
陰湿な遊びによって勝手に信用度があがるのだ。
うつ伏せで倒れている遺体を手で転がし、その顔を拝む。見たこともない男だ。
本当に生贄になるつもりなんてなかっただろうに。腕には自信があり、おそらくは自分の手で聖女を連れ出して功を立てたいと思ったはずだ。
私は遺体の前にひざまずいて、手を合わせた。
「聖女なんか、おりませんのよ。いるのは悪女だけ」
土を蹴るブーツの音がしてきたので、私はゆっくりと振り返る。
内部の持ち物はほとんど持ちされていたし、カードやクロスは乱雑に散らばり、台は転がっている。泥のついたブーツで踏み荒らされた気配があった。
秘密を探そうとするために、棲み処を荒らす。正攻法だとは思うけれど、私には探られて怖い肚はない。探られて怖いのは、額だけだ。宰務官が一万噛んでいるかどうかは分からなかったけれど、心当たりはありすぎて誰に狙われているのかは分からない。
私は荒らされたテント内を片付けて、南南東の森へ向かう。
聖女の力とは便利なもので、結界を張ることが出来るようだ。森の入り口には結界を張っている。
暗い森の中で道しるべになるのは、血痕だ。落として間もない血痕であればあるだけいい。
聖女の力では生命の気配を感じ取れる。私の目には血痕のおちた地面に、光が見えていた。
光を辿っていけばベールをまとった乙女の石像が出てくる。この石像を見てこの森から無事に帰った人はいないはずだ。
石像には赤黒いしみがたくさんついていた。
漆黒の聖女と私は呼んでいる。
石像の前には数体の遺体が転がっている。軍服を身につけている者が多い。私の気まぐれな名簿遊びを真に受けているなんて、実直なのかそれとも愚かなのかしら?と思う。
寝台の上で心地よくなり、ぽろりともらした殿方の言葉を私は逃さない。弛緩した瞬間の気のゆるみを私は逃してあげないのだ。
「上官の~が」
「同僚の~が」
あらあら、そんな簡単に口にしていいのかしら?と思いながらも、ありがたく脳内の手帳に記していく。物を知らない娼婦ごときならば口にしても構わない、と思われていれば一番いい。
名前と関係筋を控えておくのだ。預言を求められれば、生贄として別の派閥の者や仲たがいしている相手のイニシャルを告げる。相手の口元に猥雑な笑みが浮かべばいい。
陰湿な遊びによって勝手に信用度があがるのだ。
うつ伏せで倒れている遺体を手で転がし、その顔を拝む。見たこともない男だ。
本当に生贄になるつもりなんてなかっただろうに。腕には自信があり、おそらくは自分の手で聖女を連れ出して功を立てたいと思ったはずだ。
私は遺体の前にひざまずいて、手を合わせた。
「聖女なんか、おりませんのよ。いるのは悪女だけ」
土を蹴るブーツの音がしてきたので、私はゆっくりと振り返る。
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