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悪女の手引き

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「誘惑が上手なお嬢さんは、食い扶持に困らないだろうね」
 そう言ってレグノは私のベールの上から頭を撫でてくる。
 まるで子どもかあるいは、年下の兄弟にするかのように親し気だ。

「悪いね、信用できない相手と枕を重ねる趣味はないんだ。世の中には、寝ぎたない男の寝首を狩りたがる女性も少なくない」
「私にあなたの首を狩れるほどの、馬力はありませんけれど」

「君の媚態を見るならば、妻となってもらったあとだな」
 上手く言いくるめてしまう。食えない人、と思う。

「聖女は森を好みます。ぜひ生贄を捧げてくださいな。そうすればきっとあなたの元へ天啓がやって来るでしょうね」
「最後に一つ聞きたい。君の周りには暗黒剣士の噂がある。黒衣をまとった黒い剣士だ。心当たりはあるかい?」

「いいえ、全く。私は身寄りもない、うたかたのジプシーですもの。そのような方に縁はありませんわ」

 それでは、失礼いたします。私は頭をさげて、宰務官・レグノの部屋を辞する。

 レグノにはきっと足元を見られているのだろう。決定打を口にされるまでは、こちらも手をくださない。ただし初めてルドキアに招き入れられた。これで、十回の前世とは違うはずだ。
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