悪女で候。十回の前世で聖女はやめました、現世は聖痕を血痕で塗りかえます。

悪魔の相談

2

「ジェラートの力が悪いわけじゃない、愚かなのは聖女の力を利用しようとする奴らだ」
「でも、力があれば使いたくなるものでしょ。愛なき婚姻をしてまで、私の力が欲しかった人達ばかりだった」

「愛なき婚姻」
　ゼリュードは私の目をじっと見た。

「ジェラートはこれまでの人生で誰かを好きになったことはないのか？どの夫も、好きにはなれなかったのか？」
　私は言葉につまる。結ばれたいと思った相手は、目の前にいた。実際に結ばれた経験もあるのに、私は少しも幸福ではなかったのだ。

「夫としては、誰も好きにはなれなかった。私自身を求めてくれた人がいなかったから。ゼリュードも、そうでしょ。聖女としての私しか見ていなかった」
　ゼリュードの瞳がさっと少し寂し気な色を帯びる。

「ジェラートが聖女にならなければ、と思ったことはあったよ。身分が違いすぎる。手の届かない存在になると知っていたから。でもオレには剣があるから、護れると思っていた」
　そしてゼリュードははあっとため息をつく。

「でも、きっとそれは勘違いだったんだな」
　いつも側近としてゼリュードはそばにいてくれた。心強かったけれど、彼は私の立場に関しては一切関与できない。

「オレは帝国の生まれだ。父親が帝国出身だから」
「初耳」
「ルートグリムの聖女信仰は根強い。仮に帝国側について、聖女信仰をつぶそうとするなら、孤児院もまた無事ではすまない。それはジェラートも本意じゃないだろ？」

　キャロンをはじめとして孤児院のママや兄弟達のことが頭に浮かんだ。

「それは、そうだけれど」
「聖女の処遇として一番いいのは、身分の高い人に見受けしてもらうことだ。護られるし民衆にとっても利が大きい」
「王族との婚姻はいや。こりごり」

「ルートグリムの王と王太子殿下だろ？でも、ジェラートは帝国に見受けされたことはないはずだ」
「帝国？そんなこと、聖女として帝国に見受けされれば、もっとひどいことになるに決まっている。まだ愛なき婚姻をするだけ」

　ゼリュードは静かな眼差しでこちらを見てきた。