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彼の手練手管

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 湯浴みをした後で、軋みの強い薄い板のベッドの上に向かい合って座る。安宿の一室は少し埃っぽくて、孤児院の屋根裏部屋を思い出した。

「まずは、触られることになれなきゃいけない。そして触れられる感覚から、どうすれば相手も心地よくなるのかを、知らなきゃいけない」

 ゼリュードは私のワンピースの肩紐をおとしていく。ブラウスの上から触れたゼリュードの手が少し熱くて、皮膚がじゅっと焦れる思いがした。

「自分で脱ぐよ」
 ゼリュードは首を横にふる。

「脱がすから、ジェラートはオレのを脱がしてくれ」
 お互いにそろりそろりと丁寧に衣服を剥がしていく。ゼリュードのシャツの下には、眩しいほどにまで鍛えあげられた胸板が出てきた。毎日訓練していたことは知っている。私は唇を噛みしめながら、恥ずかしさをこらえた。木綿の下着を脱がした後で、

「胸、思っていたよりも大きいな」
 とゼリュードからやってきた率直な感想が恥ずかしかった。
 婚姻していたし、見たのではなかった?と思ったけれど――――彼は、いつも獣のポジションで抱くのを好んだ。顔を見て交わし合ったことはない。

 ゼリュードは私の白い胸とその先を指でつねりあげて、それから口に含んだ。舌先で転がされて、驚きで身体が痙攣する。
「あぁ、なにをっ」

 吐息が胸を焦らしていき、湿り気を帯びていく。くすぐったいような切ないような、甘い痺れがやって来て、腿の間がきゅうっと痙攣した。

「普通の娼婦ならそれでいい。とろかしてもらって、後は足を開いて抜き差ししてもらえばいいだけだ。でもそれじゃ高級娼婦じゃない」

 ゼリュードが胸の先から唇をはなし、私の手を取って来た。耳を、それから首を、そして、胸から下へと舐めていくんだ、という。

 私はゼリュードの顔を見つめてしまう。今回の人生で彼とそんな風になることを、想像しなかった。

「前回の婚姻のことを、覚えているの?」
 ゼリュードは頭をふる。

「前世ではいやがるジェラートを無理やり妻にしたようなものだ。あんなの、忘れてくれていい」
「私は」

 あなたと結婚することを望んでいたんだよ。口に出来なかったのは、ゼリュードが自分の唇で口をふさいで来たからだ。

 私に何も言わせないように――――
 舐めるんだ、と強く言われて、顔を寄せていき彼の耳を舐めた。亜麻色の髪の毛が頬に触れる。
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