いちばん好きな人…

麻実

文字の大きさ
上 下
3 / 17

出会い

しおりを挟む
ある日、雪子のもとに大学時代の友人の榊 芳江から電話が掛かってきた。
「お願い!雪子。個展会場の受付やって貰えない?」

芳江は大学を出てから、折角決まっていた大手企業の就職を断りカメラマンとなっていた。

「どうしたの?」
「受付する予定の子が都合悪くなって困ってるのよ。雪子、暇でしょ?」
「暇でしょ、は余計だけど 」
と言いつつ翌日から、東京で一人暮らしをしている息子の部屋から、芳江の個展に通うことにした。





受付といっても、狭い銀座の画廊の中に入ってくる人は滅多にいない。
だから入口が見える椅子に殆ど座っている雪子である。

「よっ」
と言って入ってきた中年男性がいた。背は170㎝少しだろうか、細く見えるけれど肩幅の廣いスマートなその男性は、一通り写真をみるとソファに座った。

「鈴木くん、どう落ち着いた?
雪子、鈴木くんはね、海外に単身赴任している間、奥さんに六年も不倫されてようやく離婚したところよ」
「ちょっ、榊さん、いきなりこんな美人を前にして何いってんの‼」
鈴木という男性は慌ててお茶をむせた。
「ごめんごめん。だって、雪子からも非道い話を聞いたところなのよ」

「雪子も好きなことしないと人生勿体無いよ」
とはっぱを掛けられていた雪子は苦笑する。

開き直った鈴木さんが、夕食を誘ってきて銀座の高級居酒屋に案内された。
個室に向かい合って二人座る。

鈴木はメニューを開いて雪子の好みを聞きながら、てきぱきと注文した。
そして、生ビールとグレープフルーツジュースで乾杯する。
「改めまして、鈴木隆道です。僕の親父があの画廊をやってまして」
「そうでしたの。こちらこそ宜しくお願いします」

彼は、雪子に煙がいかないように少し身体を斜めにしながら煙草を吸う。
テーブルの上が汚れればこまめに拭くが、神経質過ぎる印象ではない。
むしろ、自分も綺麗好きな雪子は好感を持った。

雪子はふと、学生時代に付き合っていた皆藤くんのことを思い出した。
彼も長身ですらりと引き締まった身体をしていたし、やっぱり綺麗好きだった。

「私、こういう人が好きだったはずなのに。なんで夫と結婚したのかしら?」

⭐⭐


翌日、画廊に行くと芳江が興味深そうに聞いてきた。
「どうだった?」
「うん。私、なんで夫みたいな人と結婚したのかしら?」
「ヘ? 雪子が皆藤くんと別れて落ち込んでたところに、全然違うタイプの旦那が現れたからよ」
と呆れ顔で言われた。

「雪子は一途だから間違ったと思っても我慢して、引き返せないだろうから心配したよ」

ああ!そうだったかも。

「今、凄く納得してるでしょ。馬鹿な子」

芳江はそういって雪子を抱きしめた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ

柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」 「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」  濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。  やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

お父様が、女性と女の子を連れて帰って来た。

❄️冬は つとめて
恋愛
お父様が、女性と女の子を連れて帰って来た。 (⁠ ̄⁠ヘ⁠ ̄⁠;⁠)求む、軽い気持ちで読んでくれる方。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

豆狸2024読み切り短編集

豆狸
恋愛
一話完結の新作読み切り短編集です。 不定期に更新します。

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...