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「ねぇーマリオット様ぁー」
わたくしの婚約者であるマリオット様にしなだれかかっているのは、男爵令嬢であられるミルフレッツァ様。
「あたしたち、運命の相手ですよねぇ」
「そうだな。婚約者なんてものがいなければ、今すぐにミルと結婚できるのに」
婚約者がいるのに別の相手とそういう関係になることを不貞というのではないでしょうか?
「マリオット様とミルフレッツァ様、お似合いなのに可哀想」
「婚約者ってあれでしょ? 祖父母が勝手に決めたっていう」
祖父母が勝手に決めた婚約者に浮気三昧されるわたくしは、かわいそうでなく悪なのでしょうか?
なぜ、声の大きい方が正しいかのように扱われるのか……貴族子女としてこの国の将来が不安です。
そう思いながら、その場を立ち去ります。悲劇のヒロイン気取りで声を上げる方々に何を言っても無駄ですから。
「……大丈夫か?」
突然、わたくしに声をかけていらしたのは、銀髪に青い瞳……え、王家の印の青い瞳!?
「ら、ラファエル殿下。殿下におかれましては、」
「いや、いい。学園内だ。気にするな。ところで、あの、婚約者は……」
「あくまで政略結婚ですわ。お祖父様が仲良くしていた友人の孫と孫同士を結婚させたいというわがままと、婚約者の生家である伯爵家が没落しないように我が家が援助するという国の益となるためのものです。学生時代の火遊びくらい許して差し上げるのが、妻というものですわ」
「傷ついていないのならば、いいのだが。学生時代の火遊びといえども、あれはやりすぎだ。あくまで善意での支援を当然のように受け取り、己の義務を果たさない。それはいかがなものか……」
「一貴族の小さな揉め事までしっかりと正しく見極めてくださる、そのようなお方が殿下でいらっしゃるなんて、この国の将来は安泰ですね」
殿下のお心遣いに思わず、安心して言葉を漏らしてしまいました。受け取り方によっては不敬になってしまいます。わたくしとしたことが、失言でしたわ。
「ふははは! メリエッティ嬢。君は、意外と面白いな。よければ、卒業パーティーまで王家の影を貸してあげよう。好きに使え」
「まぁ! ありがとうございます」
「卒業したら、マリオット様に会えないなんて悲しいですわぁ」
「卒業と同時に僕は婚約者の家に婿入りだからな……そうだ! 妾としてついてくればいい! 何物も僕たちを遮ることはできないんだから!」
「素敵ですわぁ! マリオット様ぁ!」
「公爵家なら存分に金はあるから、好きなものを買ってあげられるよ」
「今までの迷惑料ってことですわね! あたしたちの真実の愛を邪魔したぁ」
「そうだよ! 真実の愛を邪魔したんだから、それなりの誠意ってものを見せてもらわないと!」
なぜ、我が公爵家の予算で入婿の伯爵家の妾を養う予定になっているのでしょうか?
「公爵令嬢と結婚しても、あのお二人が離れることはなさそうね」
「よかったですわ、真実の愛のお二人ですもの」
そんな二人を応援する皆様に王国法を一から説いて差し上げたくなります。そのようなことをしたら、一層疎まれるでしょうからいたしませんが。
「あの公爵令嬢、美しいだけで男心をわかってないものね」
「ふふ、あんなのが婚約者だとミルフレッツァ様のような愛らしいお方に恋してしまっても仕方ありませんわ」
「いっそのこと、あのお二人のお子を次期公爵として育てたらよろしいのではなくて?」
「そうね! それ、あのお二人に教えて差し上げたらいいですわ!」
みなさま、身分社会というものを理解しておいでなのでしょうか? 学生生活では身分関係なくという飾りのような文言を信じておいでなのでしょうか? 不敬となったらどうなるのか……。
「ミル!」
「マリオット様ぁ!」
イヤイヤという態度を崩すことなく、卒業パーティーの会場までのわたくしのエスコートをしたマリオット様。会場に着いた瞬間、長年離れていた恋人同士のように抱き合うお二人に学生たちは感嘆の声を上げ、大人たちは眉を顰めます。
「マリオット様。ミルフレッツァ様。お話がございますの。よろしくて?」
「なんだ? ミルを妾にすることは決定しているからな」
「あたしとマリオット様の子供、たくさん産むので公爵家の跡取りとして育ててくださいねぇ?」
あちらでお父上の男爵がお顔を真っ青にしておいでです。穢らわしいものを見るかのように令嬢をご覧の子爵、あなたも関係ありますわよ?
「それは、フェルリア子爵令嬢とサリマンル伯爵令嬢、アイランツ男爵令嬢のアドバイスですか?」
名前を挙げられた各家の当主は顔色を悪くします。ご令嬢たちは後ろでうんうんと満足そうに頷いておいでです。
「それだけじゃないですわぁ! メラニア男爵令息とぉ、シャルル伯爵令嬢、あとぉ、」
名前を挙げられる当主は顔色を悪くし、子女たちは嬉しそうです。
「ありがとうございます。わたくしが存じ上げてなかったお家の方もおいでですわ……影のお方、全ての証拠を押さえてありますか?」
「はっ、ここに」
見えない空間から飛び出し、わたくしの横に片膝立ちになる影のお方。わたくしの知らなかったお話も全て把握しておいでなようです。
「その、メリエッティ嬢。我が家が手違いで名前を挙げられたようでして、」
慌てた様子でわたくしの機嫌をとりにくる各家の当主。小首を傾げてその様子をご覧になっておいでです。
「あら? わたくし、王家の影をお借りしているの。間違いはないはずですわ。それに、わたくしは現在カサランタ女公爵となっておりますの。呼び方をお間違えなきようお願いいたしますわ?」
当主たちの顔が一層青ざめる中、学生の皆様が叫びます。
「女公爵がなんだ! 真実の愛の邪魔をしやがって!」
「女公爵だろうが、お二人の真実の愛を遮ることができるものか!」
「美しいからって調子乗って!」
「ちょっと美しいだけで、全然可愛くなんてないんだから!」
叫んだ学生の親たちは、必死に我が子を拘束し、口を塞ぎます。
「ありがとう、みんな!」
「嬉しいですわぁ!」
その異様な光景に気づかないお二人は、嬉しそうに抱きつきあっています。
「な、何をやっているんだ!」
「お祖父様!」
マリオット様のお祖父様、シャラン前伯爵がいらっしゃり、ミルフレッツァ様を引き剥がし、投げ捨てます。
「ごきげんよう。シャラン前伯爵。では、婚約破棄を進めましょうか?」
「我が愚孫が大変すまなかった」
マリオット様の頭を押さえ込みながら、こちらに頭を下げる前伯爵。頭を抱える伯爵と伯爵夫人。
うちのお父様とお祖父様は小さくなっております。えぇ、お父様とお祖父様にはわたくしの遭った目を全て報告して代わりに婚約破棄と公爵の座を即座に譲るようにお願いいたしましたわ。
「あぁ、ミルフレッツァ様。先日、わたくしから奪い取ったネックレス、お返し願いますわ」
その言葉を聞いた男爵が関わりたくないけど仕方なくと言った様子でミルフレッツァ様を羽交締めにして、男爵夫人が平身低頭でネックレスを持ってきました。
「みなさま、わたくしへの行い、忘れておいででないですわね?」
水をかけられたり、物を壊されることが日常でした。真実の愛で結ばれたお二人を邪魔するわたくしは、悪とされいじめられていたのです。成績が優秀なことも許されなかった理由だそうですわ。
「メリエッティ嬢。思ったよりも大規模になったから、ここからは引き取らせてもらうよ」
「わかりましたわ、殿下。よろしくお願いいたします」
「元公爵令嬢で現女公爵であるカサランタ公爵に対する不敬、許されると思っている者はいるか? それに、公爵家乗っ取りの計画。こんなにも大々的に計画しているとは、そこまで愚かな者が多いとは残念だよ」
「し、しかし殿下! 皆、言っていたではありませんか!」
「そうです! 不敬と言っても学園では、身分の差は認められません」
「今代の学生は不作だったな。各家の当主よ。別の後継をしっかり育てよ。身分の差が完全になくなるわけないだろう。仮にカサランタ公爵の身分が低くとも、このように寄ってたかって一人をいじめる行為、尊き血の流れる身としてふさわしくない」
中立の位置を保っていた学生――主に公爵令嬢等の高位貴族の令嬢が多かったが――を報告し、それ以外の学生は卒業と同時に与えられる貴族の身分を認めることなく修道院や神殿、そのような貴族の身分が認められないものを送る場所へと追放となった。
「公爵家の乗っ取りを計った罪は大きい。中心となった二人には、牢に入ってもらおう」
「そんな!?」
「あたし、悪いことしてないですぅ」
その後、一部の悪質な行動をとった学生と二人の粛清が行われ、各家は後継の教育に力を入れるのであった。
「カサランタ公爵。すでに爵位をついでおいでだが、優秀な君がいてくれると大変心強い。私と共に国政を担ってくれないか? その、王太子妃として」
「光栄なことでございます。しかし、わたくし、公爵としての責務を果たしていかなければなりません。……まずはお互いを知り、伴侶として相応しいか見極めませんか?」
「その権利を与えてくれたことに感謝しよう。まずは友人からよろしく頼む」
わたくしの婚約者であるマリオット様にしなだれかかっているのは、男爵令嬢であられるミルフレッツァ様。
「あたしたち、運命の相手ですよねぇ」
「そうだな。婚約者なんてものがいなければ、今すぐにミルと結婚できるのに」
婚約者がいるのに別の相手とそういう関係になることを不貞というのではないでしょうか?
「マリオット様とミルフレッツァ様、お似合いなのに可哀想」
「婚約者ってあれでしょ? 祖父母が勝手に決めたっていう」
祖父母が勝手に決めた婚約者に浮気三昧されるわたくしは、かわいそうでなく悪なのでしょうか?
なぜ、声の大きい方が正しいかのように扱われるのか……貴族子女としてこの国の将来が不安です。
そう思いながら、その場を立ち去ります。悲劇のヒロイン気取りで声を上げる方々に何を言っても無駄ですから。
「……大丈夫か?」
突然、わたくしに声をかけていらしたのは、銀髪に青い瞳……え、王家の印の青い瞳!?
「ら、ラファエル殿下。殿下におかれましては、」
「いや、いい。学園内だ。気にするな。ところで、あの、婚約者は……」
「あくまで政略結婚ですわ。お祖父様が仲良くしていた友人の孫と孫同士を結婚させたいというわがままと、婚約者の生家である伯爵家が没落しないように我が家が援助するという国の益となるためのものです。学生時代の火遊びくらい許して差し上げるのが、妻というものですわ」
「傷ついていないのならば、いいのだが。学生時代の火遊びといえども、あれはやりすぎだ。あくまで善意での支援を当然のように受け取り、己の義務を果たさない。それはいかがなものか……」
「一貴族の小さな揉め事までしっかりと正しく見極めてくださる、そのようなお方が殿下でいらっしゃるなんて、この国の将来は安泰ですね」
殿下のお心遣いに思わず、安心して言葉を漏らしてしまいました。受け取り方によっては不敬になってしまいます。わたくしとしたことが、失言でしたわ。
「ふははは! メリエッティ嬢。君は、意外と面白いな。よければ、卒業パーティーまで王家の影を貸してあげよう。好きに使え」
「まぁ! ありがとうございます」
「卒業したら、マリオット様に会えないなんて悲しいですわぁ」
「卒業と同時に僕は婚約者の家に婿入りだからな……そうだ! 妾としてついてくればいい! 何物も僕たちを遮ることはできないんだから!」
「素敵ですわぁ! マリオット様ぁ!」
「公爵家なら存分に金はあるから、好きなものを買ってあげられるよ」
「今までの迷惑料ってことですわね! あたしたちの真実の愛を邪魔したぁ」
「そうだよ! 真実の愛を邪魔したんだから、それなりの誠意ってものを見せてもらわないと!」
なぜ、我が公爵家の予算で入婿の伯爵家の妾を養う予定になっているのでしょうか?
「公爵令嬢と結婚しても、あのお二人が離れることはなさそうね」
「よかったですわ、真実の愛のお二人ですもの」
そんな二人を応援する皆様に王国法を一から説いて差し上げたくなります。そのようなことをしたら、一層疎まれるでしょうからいたしませんが。
「あの公爵令嬢、美しいだけで男心をわかってないものね」
「ふふ、あんなのが婚約者だとミルフレッツァ様のような愛らしいお方に恋してしまっても仕方ありませんわ」
「いっそのこと、あのお二人のお子を次期公爵として育てたらよろしいのではなくて?」
「そうね! それ、あのお二人に教えて差し上げたらいいですわ!」
みなさま、身分社会というものを理解しておいでなのでしょうか? 学生生活では身分関係なくという飾りのような文言を信じておいでなのでしょうか? 不敬となったらどうなるのか……。
「ミル!」
「マリオット様ぁ!」
イヤイヤという態度を崩すことなく、卒業パーティーの会場までのわたくしのエスコートをしたマリオット様。会場に着いた瞬間、長年離れていた恋人同士のように抱き合うお二人に学生たちは感嘆の声を上げ、大人たちは眉を顰めます。
「マリオット様。ミルフレッツァ様。お話がございますの。よろしくて?」
「なんだ? ミルを妾にすることは決定しているからな」
「あたしとマリオット様の子供、たくさん産むので公爵家の跡取りとして育ててくださいねぇ?」
あちらでお父上の男爵がお顔を真っ青にしておいでです。穢らわしいものを見るかのように令嬢をご覧の子爵、あなたも関係ありますわよ?
「それは、フェルリア子爵令嬢とサリマンル伯爵令嬢、アイランツ男爵令嬢のアドバイスですか?」
名前を挙げられた各家の当主は顔色を悪くします。ご令嬢たちは後ろでうんうんと満足そうに頷いておいでです。
「それだけじゃないですわぁ! メラニア男爵令息とぉ、シャルル伯爵令嬢、あとぉ、」
名前を挙げられる当主は顔色を悪くし、子女たちは嬉しそうです。
「ありがとうございます。わたくしが存じ上げてなかったお家の方もおいでですわ……影のお方、全ての証拠を押さえてありますか?」
「はっ、ここに」
見えない空間から飛び出し、わたくしの横に片膝立ちになる影のお方。わたくしの知らなかったお話も全て把握しておいでなようです。
「その、メリエッティ嬢。我が家が手違いで名前を挙げられたようでして、」
慌てた様子でわたくしの機嫌をとりにくる各家の当主。小首を傾げてその様子をご覧になっておいでです。
「あら? わたくし、王家の影をお借りしているの。間違いはないはずですわ。それに、わたくしは現在カサランタ女公爵となっておりますの。呼び方をお間違えなきようお願いいたしますわ?」
当主たちの顔が一層青ざめる中、学生の皆様が叫びます。
「女公爵がなんだ! 真実の愛の邪魔をしやがって!」
「女公爵だろうが、お二人の真実の愛を遮ることができるものか!」
「美しいからって調子乗って!」
「ちょっと美しいだけで、全然可愛くなんてないんだから!」
叫んだ学生の親たちは、必死に我が子を拘束し、口を塞ぎます。
「ありがとう、みんな!」
「嬉しいですわぁ!」
その異様な光景に気づかないお二人は、嬉しそうに抱きつきあっています。
「な、何をやっているんだ!」
「お祖父様!」
マリオット様のお祖父様、シャラン前伯爵がいらっしゃり、ミルフレッツァ様を引き剥がし、投げ捨てます。
「ごきげんよう。シャラン前伯爵。では、婚約破棄を進めましょうか?」
「我が愚孫が大変すまなかった」
マリオット様の頭を押さえ込みながら、こちらに頭を下げる前伯爵。頭を抱える伯爵と伯爵夫人。
うちのお父様とお祖父様は小さくなっております。えぇ、お父様とお祖父様にはわたくしの遭った目を全て報告して代わりに婚約破棄と公爵の座を即座に譲るようにお願いいたしましたわ。
「あぁ、ミルフレッツァ様。先日、わたくしから奪い取ったネックレス、お返し願いますわ」
その言葉を聞いた男爵が関わりたくないけど仕方なくと言った様子でミルフレッツァ様を羽交締めにして、男爵夫人が平身低頭でネックレスを持ってきました。
「みなさま、わたくしへの行い、忘れておいででないですわね?」
水をかけられたり、物を壊されることが日常でした。真実の愛で結ばれたお二人を邪魔するわたくしは、悪とされいじめられていたのです。成績が優秀なことも許されなかった理由だそうですわ。
「メリエッティ嬢。思ったよりも大規模になったから、ここからは引き取らせてもらうよ」
「わかりましたわ、殿下。よろしくお願いいたします」
「元公爵令嬢で現女公爵であるカサランタ公爵に対する不敬、許されると思っている者はいるか? それに、公爵家乗っ取りの計画。こんなにも大々的に計画しているとは、そこまで愚かな者が多いとは残念だよ」
「し、しかし殿下! 皆、言っていたではありませんか!」
「そうです! 不敬と言っても学園では、身分の差は認められません」
「今代の学生は不作だったな。各家の当主よ。別の後継をしっかり育てよ。身分の差が完全になくなるわけないだろう。仮にカサランタ公爵の身分が低くとも、このように寄ってたかって一人をいじめる行為、尊き血の流れる身としてふさわしくない」
中立の位置を保っていた学生――主に公爵令嬢等の高位貴族の令嬢が多かったが――を報告し、それ以外の学生は卒業と同時に与えられる貴族の身分を認めることなく修道院や神殿、そのような貴族の身分が認められないものを送る場所へと追放となった。
「公爵家の乗っ取りを計った罪は大きい。中心となった二人には、牢に入ってもらおう」
「そんな!?」
「あたし、悪いことしてないですぅ」
その後、一部の悪質な行動をとった学生と二人の粛清が行われ、各家は後継の教育に力を入れるのであった。
「カサランタ公爵。すでに爵位をついでおいでだが、優秀な君がいてくれると大変心強い。私と共に国政を担ってくれないか? その、王太子妃として」
「光栄なことでございます。しかし、わたくし、公爵としての責務を果たしていかなければなりません。……まずはお互いを知り、伴侶として相応しいか見極めませんか?」
「その権利を与えてくれたことに感謝しよう。まずは友人からよろしく頼む」
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