8 / 25
8.メルティーヌの秘密
しおりを挟む
「ツリアーヌ様! ここまでおわりましたわ!」
「完璧ですわ。さすがメルティーヌ様。では、次はこちらをお任せしてもよろしいかしら?」
「えぇ! もちろん、喜んで!」
書類の束を抱え込んで走っていくメルティーヌ様。いつの間にか忠犬……じゃなかったわ。わたくしに心を開いて慕ってくださるようになりました。
「ツリア。仕事にきりがついたら一緒にティータイムにしよう?」
「ヤリアント様。では、メルティーヌ様にもお声をかけてきますね」
「あ、」
ヤリアント様が何か言いかけたような気がしましたが、わたくしはティータイムのためにメルティーヌ様に声をおかけします。
「一区切りついたら、お茶にいたしましょう?」
「まぁ! ツリアーヌ様とご一緒に!? 嬉しいですわ!」
「えぇ! ヤリアント様もご一緒ですわよ」
「え……」
そろそろ、メルティーヌ様を国に帰しても問題ありません。今までのご自身の教育がいかに偏っていたかを知って、美しさを追い求めるだけでなく知識を習得しようとしていらっしゃいます。そのお姿は、賢王の娘としてふさわしいものですわ。
「ツリアーヌ様! わたくしの午前の業務については、いかがでしたか? もう少し難しい業務でもこなせると思いますわ!」
「ツリア。僕が君の業務をもう少し受け持つよ。ゆっくりしていて。そこの他国からの預かり物の面倒も僕がみておこう」
「あら? わたくしとツリアーヌ様の時間を奪うとおっしゃっていらっしゃるのですか?」
「君が先に僕とツリアの時間を盗んだんじゃないのか?」
「お二人とも何を喧嘩なさっているの? では、メルティーヌ様には、」
喧嘩なさるお二人の仲裁をしていると、ボレアース王国の“通信の鏡”が光りました。人払いを行います。
「あら? お父様から通信が来ていますわよ?」
「本当ですね。もしかしたら、早くメルティーヌ様を返せというお言葉かもしれませんね」
「あら? ツリアーヌ様を独り占めなんてさせないですわよ?」
「お二人とも! 緊急時に違いありませんから黙ってくださいませ! さぁ、通信を繋ぎますわ!」
「新ミリュー王国王妃と国王。メルティーヌが世話になっているな」
「ほらやっぱり帰国の案内だ」
「ち、違うに決まってますわ!」
お二人の喧嘩は放っておくことにします。
「ボレアース王国国王。メルティーヌ様は、そろそろ教育も終盤を迎えておりますわ。素晴らしい人財になりましたわ!」
「そうか……本当に世話になった。新ミリュー王国に共有したい事項があって、連絡した。我が国と貴国の隣国であるオヴェスト王国の動きがきな臭い。なにやら、貴国への侵攻を計画しているように見受けられる」
「まぁ……その情報は信憑性が高いものですの?」
我が国には、そのような情報が入ってきておりません。国を整えるのに必死で、まだオヴェスト王国へのスパイを送り込めていないという点もあるかと思いますが。
「……我が国の密偵からの情報だ。間違いないだろう。しかし、証拠はないから、信じるか信じないかは貴国次第だ」
「では、メルティーヌ様をもう少しお預かりさせていただきます。大切な姫君を我が国に預けていらっしゃるボレアース王国には、我が国を守る必要が出てきますものね?」
「……まったく、そなたは。わかった。貴国が戦火にさらされるようなことがあれば、我が国は援助すると誓おう。……メルティーヌ。その二人の近くにいれば問題はないだろうが、足を引っ張ることがないように」
「かしこまりました。お父様。わたくし、オヴェスト王国なんて蹴散らしてやりますわ!」
「お待ちになって、メルティーヌ様。あなたは人質。頼むことができても、後方支援ですわよ?」
「え? わたくし、戦いが大好きですのに……」
「ツリアーヌ嬢。メルティーヌは我が国の近衛よりも強い。いざという時は、投入すれば敵将の一人や二人は討ち取ることができるだろう」
「は?」
「え?」
こんなにも線が細くて絶世の美女という外見で、フォークすら持たないのではないかと思う儚げな美女がですの? 混乱しすぎて美女美女言い過ぎましたわ。
「ちなみに、メルティーヌが戦力だということは我が国の機密事項だ。知っている者は私と彼女の母、彼女の筆頭侍従のみだ。漏らすことのないように。漏らせば……わかっておるな?」
ものすごい情報を暴露されたようです。
こくこくと頷きながら、メルティーヌ様をしみじみと見つめてしまいます。
「わたくしも、鍛えたほうがいいのかしら……」
「まぁ! ツリアーヌ様! でしたらわたくしと朝四時半からトレーニングいたしましょう! 夜明け前の空の中、身体を動かし日が上るのを見る快感……。言葉にできない素晴らしい経験ですわよ。その後、プロテインたっぷりのお食事を摂ると身体中の筋肉が喜びますわ~!」
「……わ、わたくし、さすがにそこまでは難しいですわ」
メルティーヌ様って本当にすごいお方なのね……。朝早く起きてそんな苦行をなさるなんて。わたくしには絶対無理だわ。尊敬しかできないわ。
王妃として、せめて護身術くらいは身につけようと決意いたしました。
「完璧ですわ。さすがメルティーヌ様。では、次はこちらをお任せしてもよろしいかしら?」
「えぇ! もちろん、喜んで!」
書類の束を抱え込んで走っていくメルティーヌ様。いつの間にか忠犬……じゃなかったわ。わたくしに心を開いて慕ってくださるようになりました。
「ツリア。仕事にきりがついたら一緒にティータイムにしよう?」
「ヤリアント様。では、メルティーヌ様にもお声をかけてきますね」
「あ、」
ヤリアント様が何か言いかけたような気がしましたが、わたくしはティータイムのためにメルティーヌ様に声をおかけします。
「一区切りついたら、お茶にいたしましょう?」
「まぁ! ツリアーヌ様とご一緒に!? 嬉しいですわ!」
「えぇ! ヤリアント様もご一緒ですわよ」
「え……」
そろそろ、メルティーヌ様を国に帰しても問題ありません。今までのご自身の教育がいかに偏っていたかを知って、美しさを追い求めるだけでなく知識を習得しようとしていらっしゃいます。そのお姿は、賢王の娘としてふさわしいものですわ。
「ツリアーヌ様! わたくしの午前の業務については、いかがでしたか? もう少し難しい業務でもこなせると思いますわ!」
「ツリア。僕が君の業務をもう少し受け持つよ。ゆっくりしていて。そこの他国からの預かり物の面倒も僕がみておこう」
「あら? わたくしとツリアーヌ様の時間を奪うとおっしゃっていらっしゃるのですか?」
「君が先に僕とツリアの時間を盗んだんじゃないのか?」
「お二人とも何を喧嘩なさっているの? では、メルティーヌ様には、」
喧嘩なさるお二人の仲裁をしていると、ボレアース王国の“通信の鏡”が光りました。人払いを行います。
「あら? お父様から通信が来ていますわよ?」
「本当ですね。もしかしたら、早くメルティーヌ様を返せというお言葉かもしれませんね」
「あら? ツリアーヌ様を独り占めなんてさせないですわよ?」
「お二人とも! 緊急時に違いありませんから黙ってくださいませ! さぁ、通信を繋ぎますわ!」
「新ミリュー王国王妃と国王。メルティーヌが世話になっているな」
「ほらやっぱり帰国の案内だ」
「ち、違うに決まってますわ!」
お二人の喧嘩は放っておくことにします。
「ボレアース王国国王。メルティーヌ様は、そろそろ教育も終盤を迎えておりますわ。素晴らしい人財になりましたわ!」
「そうか……本当に世話になった。新ミリュー王国に共有したい事項があって、連絡した。我が国と貴国の隣国であるオヴェスト王国の動きがきな臭い。なにやら、貴国への侵攻を計画しているように見受けられる」
「まぁ……その情報は信憑性が高いものですの?」
我が国には、そのような情報が入ってきておりません。国を整えるのに必死で、まだオヴェスト王国へのスパイを送り込めていないという点もあるかと思いますが。
「……我が国の密偵からの情報だ。間違いないだろう。しかし、証拠はないから、信じるか信じないかは貴国次第だ」
「では、メルティーヌ様をもう少しお預かりさせていただきます。大切な姫君を我が国に預けていらっしゃるボレアース王国には、我が国を守る必要が出てきますものね?」
「……まったく、そなたは。わかった。貴国が戦火にさらされるようなことがあれば、我が国は援助すると誓おう。……メルティーヌ。その二人の近くにいれば問題はないだろうが、足を引っ張ることがないように」
「かしこまりました。お父様。わたくし、オヴェスト王国なんて蹴散らしてやりますわ!」
「お待ちになって、メルティーヌ様。あなたは人質。頼むことができても、後方支援ですわよ?」
「え? わたくし、戦いが大好きですのに……」
「ツリアーヌ嬢。メルティーヌは我が国の近衛よりも強い。いざという時は、投入すれば敵将の一人や二人は討ち取ることができるだろう」
「は?」
「え?」
こんなにも線が細くて絶世の美女という外見で、フォークすら持たないのではないかと思う儚げな美女がですの? 混乱しすぎて美女美女言い過ぎましたわ。
「ちなみに、メルティーヌが戦力だということは我が国の機密事項だ。知っている者は私と彼女の母、彼女の筆頭侍従のみだ。漏らすことのないように。漏らせば……わかっておるな?」
ものすごい情報を暴露されたようです。
こくこくと頷きながら、メルティーヌ様をしみじみと見つめてしまいます。
「わたくしも、鍛えたほうがいいのかしら……」
「まぁ! ツリアーヌ様! でしたらわたくしと朝四時半からトレーニングいたしましょう! 夜明け前の空の中、身体を動かし日が上るのを見る快感……。言葉にできない素晴らしい経験ですわよ。その後、プロテインたっぷりのお食事を摂ると身体中の筋肉が喜びますわ~!」
「……わ、わたくし、さすがにそこまでは難しいですわ」
メルティーヌ様って本当にすごいお方なのね……。朝早く起きてそんな苦行をなさるなんて。わたくしには絶対無理だわ。尊敬しかできないわ。
王妃として、せめて護身術くらいは身につけようと決意いたしました。
1,241
お気に入りに追加
1,722
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
王妃さまは断罪劇に異議を唱える
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。
そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。
彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。
王族の結婚とは。
王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。
王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。
ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。
【完結】元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
【完結】義妹に婚約者を取られてしまい、婚約を解消することに……傷心の私はお母様の国に亡命することに致します。二度と戻りませんので悪しからず。
つくも茄子
恋愛
公爵令嬢のマリアンヌは婚約者である王太子殿下から婚約解消を言い渡されてしまった。
マリアンヌの義妹リリーと恋仲になったせいで。
父と再婚した義母の連れ子であるリリーは、公爵家の養女でもある。つまり、実子並みの権利を持っているのだ。そのため、王家と公爵家との縁組を考えればどちらの令嬢と結婚しても同じこと。
元婚約者がいては何かと都合が悪いからと、マリアンヌは自ら母国を去る。行先は、亡き実母の祖国。祖父や伯父たちはマリアンヌの移住を喜んで受け入れる。
彼女を皇女に!と思うも、本人に拒否されてしまい、仕方なく「女公爵」に。
マリアンヌとしては小国の公爵令嬢が、大国の皇女殿下になる訳にはいかなかった。優しい伯父たち(大国の王族)のため、「女公爵」として、新しい母国のために奮闘してゆく。王太子妃としての教育がこのような形で活かされていく。
一方、元婚約者の王太子殿下には暗雲が立ち込めていた。
彼は王太子位を剥奪され一介の王子になっていたのだ。妻のリリーは、妃として落第点を押される程の不出来さ。
リリーは高位貴族の教育さえ受けていなかったことを元婚約者は知らなかったよう。彼女の母親は下位貴族出身。当然、その娘であるリリーも下位貴族の教育しか受けていない。
内政も外交も上手くいかない。
経済さえも危うくなってきた。
彼らの未来はどうなるのか???
他サイトにも公開中。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる