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「同じ髪型に同じドレスだと、妹の方の可愛らしさが引き立つよな」

「あの妹と比べられるなんて、姉の方も本当に可哀想だよな」


 わたくしの妹は少し変わっております。容姿は非常に整っており、外見だけならどこかの国のお姫様の様な出立ちです。しかし、妹はわたくしと同じがいいと毎日毎日、飽きることなく騒ぎ立てるのです。


「おはようございます。お姉様。今日も天女かと見間違う美しさですわね。ああ、神よ今日もお姉様の美しさをありがとうございます。ところで、今日のドレスは何になさいますか?」

「……おはようございます。フェリーヌ。それはあなたですわ。今日は、紫色のドレスにしようかと思ってますわ」

「なら、わたくしも同じものにいたしますわ」

 嬉しそうに駆け出して行く後ろ姿を見送ります。令嬢としてはしたないそれも、妹がすると美しい絵画の一枚のように見えます。
 わたくしも、流石に毎日お揃いは嫌だと思い、わたくしが7歳、妹が5歳のときに、一度だけ嘘をついて別のドレスを着て行ったことがございます。絶望的な表情を浮かべ、一日中泣き喚かれました。あれ以来、諦めて毎日お揃いを着ることにしているのです。


「ねぇ、フェリーヌ。あなたも好きなお洋服を着たらいかがでしょうか? 毎日わたくしの気分に付き合うのも大変でしょう?」

 一度、そう問いかけた時は捨てられた子犬の様な表情で固まりました。約10分ほど。わたくしが妹にされるがままになる理由はこういうものなのです。

 好意を示してくれているので、姉として尊敬してくれてはいるのでしょう。しかし、それ以上に自分の美しさを引き立てる役を欲して、お揃いにしているのかもしれません。そんなことをしなくても妹は美しいのに。

 毎朝の登校時、周囲の妹への絶賛を聞き、妹はわたくしの方を見つめながら、によによとした笑みを浮かべているのですから。








ーーーーー

 わたくしのお姉様は、大変美しいです。怒った顔も真面目な顔ももちろん可愛らしいのですが、天女の様な笑顔がとても素敵なのです。満面の笑顔の時にちらりと現れる前歯。前歯ですら美しく光り輝くのです。さらりと流れる茶色の髪は最高級の紅茶のような煌めきです。お姉様はよくある色だと茶色を嫌がっておいでですが、お姉様の美しさを引き立たせるには完璧な配色です。茶色がもっと華やかな色でしたら……あぁ、どんな色もお姉様には似合ってしまうわ。
 加えて、わたくしの心を弄ぶかのように可愛がってくださいます。
 まずお姉様が3歳の時、転んだわたくしの手を引き立ち上がらせてくださるだけでなく、拙い言葉で必死に慰めてくださいました。内容? わたくしとお姉様だけの秘密ですわ。覚えてないんじゃないかって? お前は当時1歳だろうって? ふっ、お姉さまに関することなら全て覚えておりますわ。わたくしが誕生した日、お姉様はピンク色にフリルのついたドレスをお召しでしたわ。お言葉は「おかあしゃま、いもうと?」ですわ。わたくし、必死に生まれながら、間違えて天使のいる天界にきてしまったかと思いましたもの。最近のお話ですと、先日、突然わたくしのドレスが破れてしまった時もすぐに縫い上げてくださいましたし、すぐに“フェリーヌはとても可愛いわ”とおっしゃってくださいます。あぁ、お姉様。とてもとてもかわいいですわ。
 そんな中身も外見も完璧なお姉様に寄ってたかる害虫を駆除するために、神様はわたくしに恵まれた容姿を授けてくださったのでしょう。もちろん、お姉様の美しさには足元にも及びませんわ。

 わたくしというトラップを潜り抜け、お姉さまの魅力に気づく殿方と結ばれてほしい、そう願っておりましたが、最近わたくしは気づいてしまったのです。別に結婚しなくとも、姉妹二人で仲良く過ごすことも可能だと。幸いにも弟がいるので弟に家を継いでもらいましょう。そして、お姉様が興味を抱いていらっしゃるハーブを育て、わたくしの加工魔法で加工して販売すれば、領地の隅っこで平穏に暮らして行くことができます。

 のんびりとお姉様と二人で過ごすことができる……なんて幸せなのでしょう。のんびりと過ごすことができるならば、領民の皆様に、お姉様の魅力を語り尽くすことができるかもしれませんわ。素敵な考えですわ。そのために、まずはお姉様の婚約者を全力で落としますわ。傷物にしてしまえばこっちのものですわ。領地に篭るしかなくなったお姉様に優しく声をかけて、わたくしを心の支えにしてしまうのです。ふふふ、素敵な作戦でしょう? え? 仲のいい婚約者を奪った妹は憎まれるかもしれない? それは……嫌ですわ!!!!!! 無理ですわ!!! 愛しのお姉様に嫌われてしまったら、生きている意味がないですわ!

 そんなわたくしは、弟に相談に行きましたわ。


「ねぇ、わたくしとお姉様が二人で過ごせる方法を考えなさい?」

「フェリ姉。他人の部屋を開ける時はノックくらいしろよ」

「なぜ? お姉様のお部屋だったらわかるけれど、なぜあなたの部屋をノックしないといけないの? 姉に見られて困るものでも? も、もしかしてお姉様の姿絵でも隠しているんじゃないでしょうね!?」

「んなわけあるか! まったく、これのどこが妖精姫なんだよ……」

 そう言いながら、弟は作戦を考えてくれましたわ。
・お姉様の婚約者の有責での婚約破棄
・お姉様が婚約したくないと思うようにする
・わたくしの婚約を阻止する


「わたくしの婚約を阻止することと、お姉様の婚約を阻止することはお父様に多少の圧力をかければ可能ですわね」

「……可能なのかよ。言っておくけど、思っているよりもフェリ姉の市場価値は高いぞ?」

「ふふふ。お父様の秘密の一つや二つ、チラつかせながらおねだりすれば余裕ですわ」

「……こっわ」

「あら? わたくしが怖いですって? そんなこと言う悪い子ちゃんには……」

 弟の耳元で秘密を囁くと、顔を真っ青にした弟はスライディング土下座を綺麗に決めました。

「申し訳ございません、フェリ姉様。お心のままに」

「ふふふ、かわいい子は大好きよ?」








 ということで、男たらしの友人をお姉様の婚約者にけしかけ、婚約者有責の婚約破棄になるように私が手助けいたします。

 お姉様が浮気の場面を見て傷付けば、それ以上にわたくしが慰めて忘れさせて差し上げましたわ。
 お姉様を傷つけるのは大変遺憾ですが、わたくしたちの生活のためですもの。許してくださいますわよね?








「君との婚約を破棄して、ここにいるルルカとの婚約を結び直すことを宣言する!」

 計算外だったのは、お姉様の婚約者の頭がぶっ飛んでいたことですわ。自分が悪いのにお姉様を断罪するなんて……許せませんわ!


「お言葉ですが、わたくしはなぜお姉様が断罪されているのかわかりませんわ」

 首をこてりと傾げながら問いかけると、お姉様の婚約者はわたくしに見惚れ、顔を真っ赤にしながら答えました。

「そ、それはだな、真実の愛で結ばれたわれわれの間に入ろうとすることがだな、」

「まぁ! 浮気なのに真実の愛ですの!? 浮気なのに? ルルカは真実の愛だと思っておいでですの?」

「え、別に遊び相手の一人だけど」

 純情そうに見えるルルカは天性の遊び人です。ルルカの本性を知った婚約者は言葉を失っています。

「お姉様という婚約者がいながら、他の女に引っかかる男なんてこちらから願い下げですわ。ご実家宛にそちら有責での婚約破棄の書類を届けさせていただきますから、覚悟してお待ちください。行きましょう。お姉様」

「その、妹がごめんなさいね? 今までありがとうございました」

「そんな!? 君まで僕を捨てるのか!?」


 後ろで何か叫んでるお姉様の元婚約者を放り捨てて、わたくしたちは帰ります。


「その、お姉様。ごめんなさい。勝手に婚約破棄してしまいましたが、よろしいですか?」

「ふふふ、フェリーヌには何か考えがあるのでしょう?」

「お姉様!! わたくし、お姉様を絶対幸せにいたしますから、わたくしとのんびりスローライフを過ごしてくださいませんか!?」

「えぇ、喜んで」








ーーーーー
 妹の策略に気がついたのは、妹と弟の作戦会議を盗み聞きしてしまったせいでした。

 わたくしは、気がついたのです。妹はわたくしを守るために美しく着飾り、わたくしを真実に愛してくださるお方を探していたのだと。わたくしの婚約者が妹の友人の罠に引っかかるのならば、そこまでのお方なんだと。妹の言う姉妹でのスローライフとやらも素敵かもしれない、と。

 妹の友人が一声かけるだけで、わたくしの婚約者は恋に落ちました。なんて単純なお方なのかしらと思い、わたくしも呆れ返ってしまいましたわ。

 わたくしを断罪しようとしてきたときは、妹が怒り狂わないか心配でしたわ。しかし、妹は冷静に婚約者側の有責であることを表明して、婚約破棄してくれました。


 妹の作ってくれた森の中の家は、様々な小動物が遊びに来て、わたくしの試してみたかったハーブの栽培も自由にできる素晴らしいところでした。
 家事もめんどくさい外とのやりとりも妹が全て担ってくれて、わたくしはわたくしのやりたいことだけをやって暮らしていけたのです。

 しかし、妹の美しさは高貴なお方を魅了するほどだったみたいです。妹目当てに高貴なお方が頻繁に訪れるようになって、妹はわたくしとの時間を邪魔されたくないと言っておりますが、満更でもないように見えます。わたくし? わたくしは、その、べべべ、別に気になるお方なんて、い、い、いませんからね!?
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