上 下
29 / 34

29.天界のお祭り

しおりを挟む
「すごいですね……」

「あぁ。話に聞いていたよりもはるかに壮大だな」


 地獄の神とテラスが天界のお祭り会場に着いたとき、花火が打ち上がった。空にぷかぷかと浮かぶランタンのような光に、羽衣を羽織った女神たちの踊り。非現実的な情景に、地獄の神とテラスは言葉を失った。

「行こうか」

「はい」

 歩み出した二人は、出店を冷やかしながらお祭りの喧噪の中に紛れ込んでいった。



「……これが美味しいと聞いたんだが」

「どのようにして食べるのでしょうか?」

 地獄の神とテラスが二人で天界の食べ物を持っている。
 光り輝く肉として売られていたものは、複雑な骨の形をしているのか、かじってもかじってもうまく食べることができないようであった。



「……あの二人、何やってるんでしょうか?」

「うーん……地獄の神がお祭りのおすすめの食べ物を聞きに来たから、一番人気の”光り輝く肉”をおすすめしておいたんだけど……二人とも、お祭りに行くことがなかったから、あれの食べ方がわからなかったとは……」

「一番外側の輝いている部分を思いっきりかじるのが美味しいのに……」

「こういうことなら、食べ方も教えておけば……あ」

「ナイスタイミングよ! クロウ様」



「”光り輝く肉”を一つ!」

「はいよ」

「うんまー! って、何やってるんすか? ディラン様とテラスが二人そろって、肉を持っているだけで食わないなんて」

「「……」」

「実は、私たちこの”光り輝く肉”を食べたことがなくて、食べ方がわからないんだ」

「マジですか!? 天界のお祭り名物”光り輝く肉”を食べたことがないんすか!? これは、思いっきりかじりつくんすよ!」

「なるほど……うまいな」

「美味しいです!」

「じゃあ、俺は天界お祭り屋台巡りツアー続けるんで! 食べやすくて簡単なのは、天界飴あたりがおすすめっすよ! じゃあ」

「クロウ、ありがとう」

「ありがとうございます、クロウ様」



「ナイス! クロウ様!」

「……他に説明不足になっている場所はなかったよね?」


 バサバサとクロウが去って行く中、やっとの思いで肉にかじりつくことができた地獄の神とテラスは、舌鼓を打ったのだった。








「わぁ……花火がすごくきれいにみえますね。踊る神々も見えてきれいです」

「本当だね。教えてくれた恋愛の神には、感謝だよ」

「恋愛の神に聞いたんですね」

「テラスと一緒にお祭りに行くんだけど、おすすめの場所はないか、聞いたんだ」

「わざわざ……ありがとうございます」

「テラスに喜んで欲しかったからね」







「見に来る神も少ないし、ここが僕のお気に入りの場所なんだよね」

「本当にいい場所ですね」

「あ、僕以外はミコと地獄の神たちしか知らないから、内緒だよ?」

「恋愛の神の秘密の場所を、テラスだけじゃなくて私まで聞いてしまって、申し訳ありません」

「いや、ミコのことも連れてきたかったから、いいんだよ。むしろ、一緒にきてくれてありがとう」







「最後に、私たちも少し踊って帰ろうか」

「そうですね! せっかくだから踊りたいです」



「恋愛の神。あの二人、体力ありすぎませんか?」

「奇遇だね。僕もそう思っていたよ。僕たちはここでのんびりすごそうか」









「きゃあ! 地獄の神よ!」

「麗しいお姿ですわ!」

「あのテラスっていう使い人も世界を一つ救うほどのお力があるって聞きましたわ!」

「……地獄の神は本当にお美しくて、近くでずっと見ていたいくらいですわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~

花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。 しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。 エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。 …が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。 とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。 可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。 ※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。 ※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】王子から愛でられる平民の少女に転生しました〜ざまあされそうで超ピンチです!〜

チュンぽよ
恋愛
美しい金髪碧眼の王子ヘンリー・レイノルズが婚約者のマーガレット・クローバーに婚約破棄を一方的に言い出した。原因はヘンリーのお気に入りのマロンのせい。でもマロンはそんなことは全く望んでいなくて…!? これは、ざあまされないように奮闘するマロンの物語です。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...