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18.負の連鎖

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「テラス……この者に見覚えがあるか?」

「はい。先日、天界への列に並ぶよう伝えた死者です」

「その……実は、この者は地獄へ落ちる予定だったんだ」

「え!? 嘘!? ……本当だ。私、ごめんなさい。すぐに!」

「大丈夫だ。気づいて処理をしておいた。テラス……大丈夫か?」

「はい……申し訳ありません」


 大穴に落ちて以来、頑張って働こうとすればするほど、ミスを重ねてしまうテラス。ミスの連鎖から抜け出せなくなってきたようだ。必死に足掻くテラスの姿を見て、地獄の神は慰めることしかできない。





ーーー

「地獄の神。申し上げにくいのですが、テラスを貸していただけませんか?」

「どんな理由だ?」

 そんな折、恋愛の神がテラスを貸して欲しいと地獄の神に言いにきた。理由を聞いた地獄の神は、テラスが了承すれば、気分転換になるのではないかと思い、承諾した。


「テラス。よければ、僕とパーティーに行ってくれないか?」

「え? でも私、地獄での業務があります……」

「地獄の神には、許可をとっているよ。気分転換しに行かないか?」

「…………では、同行させていただきます」

「ありがとう。また、当日衣装を用意して迎えにくるよ」

「はい……」

 恋愛の神を見送ったテラスは、呟いた。
「……パーティーよりも、地獄の神たちと一緒にいたかったな」





ーーー
「テラス……無理せず、休んでいいんだよ? 一度休んでしまった方が、こういうのは断ち切れる」

「すみません……」

 負の連鎖から抜け出せないテラスを慰め続けているのは、地獄の神だ。
 空気の読めないクロウも、慰めの気持ちを伝えたいのか、バタバタとしている。

「テラスのミスくらいなら、俺だってやったことあるものばかりだ!」

「お前はもう少し反省しろ」

「ふふふ」





「テラス。パーティーの衣装が出来上がったよ」

 そんな中、やってきた恋愛の神が衣装をテラスに手渡す。
 恋愛の神の貴色であるピンクをベースに作られた衣装は、とても可愛らしかった。

「……この衣装……私に似合いますでしょうか?」

「もちろんだよ。着て見せてよ?」

 衣装を受け取り、着替えに行こうとするテラスの手を、地獄の神が掴む。

「……恋愛の神よ。テラスを婚約者にでもするつもりか?」

「地獄の神。テラスが望んでくれるのなら、僕は喜んで全てを捧げますよ」

 目上の神である地獄の神へと、挑発的な視線を向ける恋愛の神。目線を落とすと、手が震えている。

 その震える手に視線を向けた地獄の神は、テラスの手をそっと離し、テラスは服を着替えに行った。


「……テラスは地獄と共にあると最高神に言ってくれたのだ。私が簡単に手放すと思うか?」

「それは、使い人として、部下としての執着でいらっしゃいますか? それとも」

 挑発的な恋愛仲間の言葉を受け、驚いた表情を浮かべた地獄の神は、そっと決意を固めたように戻ってきたピンクの衣装を着たテラスに手を向けた。

「恋愛の神おまえの部下として、テラスは参加するのではない。地獄の使い人として、テラスは参加するのだ。そのエスコートが恋愛の神、お前なだけだ」


 そう言ってテラスが身につけていた衣装を魔法で真っ黒く染め上げた。キラキラと煌めく黒色は、ピンクよりもテラスの雰囲気に合っていた。

「……次は、もう少し進んだお言葉が聞けると楽しみにしておりますよ。テラス、じゃあまた当日に。アクセサリーは、地獄の神にでもねだるんだよ?」

「え!?」

「大丈夫。経費で落ちるはずだから」

 そう言った恋愛の神は、ウインクを決めて去っていった。

「本当に経費で落ちるんですか?」

「経費で落ちなくても、私に贈らせてくれないか? その、衣装も勝手に黒くしてしまったのだが……」

「ふふふ。地獄の使い人の私には、こちらの方が似合っております。ディラン様の代わりに地獄を宣伝して参りますね」









ーーーー
「テラス。お待たせ。行こうか……ってうわぁ」

「……お迎えありがとうございます、恋愛の神」


 恋愛の神を出迎えたテラスの衣装には、最高品質の黒曜石がこれでもかと輝いていた。

「それ、ブラックダイヤモンド?」

「……予算は大丈夫なのでしょうか?」

「煽った僕もびっくりだよ」

 恋愛の神の手を取り、パーティーに出かけるテラスの姿は、まさに地獄の使者のようであった。





「……あの子が地獄に落とされたっていう」

「地獄ったひどい環境のはずでは?」

「地獄の神の寵愛を賜ったのかしら?」


 パーティー会場に現れたテラスの姿に、周囲のざわめきは最高潮となった。

「注目されているね」

「恋愛の神が一人の使い人を連れてきたからでしょうか?」

「いや……」

「やはり、この衣装が高級すぎて私に似合わないのでは?」

「……うーん。そういうことにしておこうか」



「テラス! え? 地獄の神の婚約者にでもなった?」

「ミコ! 久しぶりだね。なんで? そんな恐れ多いこと、ありえないよ」

「……片思いか。執着心の塊ですね、恋愛の神」

「そうだね……さすがの僕もこれを見て手を出す勇気はなくなりそうだよ」

「命のためにもやめておいた方がいいのではないですか? 絶対どんな手を使っても消滅させられますよ?」

「恋愛の神を消滅させるほどの恋ってなんなんだろうね」


 ミコと恋愛の神が遠い目をして話し合っている中、テラスはきょろきょろと周囲を見つめていた。

「私、初めてパーティーにきました!」

「毎年開催していて、参加不要の最上位神以外全員参加のパーティーに? なんで?」

「……テラスは、怠惰の神に押し付けられた仕事が終わらず、ついでに“そんな見た目なのだから、パーティーなど参加するな”とのお言葉でしたから」

「毎年ミコが大暴れしてくれてたよね。私がいいって言うから諦めてくれてたけど、こんなにも素敵ならこればよかったかな?」

「毎年、テラスが見当たらないとは思っていたけど、まさか不参加にさせられていたとは……。じゃあ、今年は僕のおすすめの食べ物と美しい場所を案内するよ」

「……ミコも連れていってくれますか?」

「地獄に異動したとはいえ、恋愛の神のファンは恐ろしいもんね……」

 ミコが周囲を見渡しながら同意したことで、恋愛の神は頷いた。刺さらんばかりの恋愛の神ファンクラブからの視線がテラスを襲っていたのだった。





ーーー
「ディラン様。テラスが行ってしまいましたよ?」

「しかし……」

「初年度、ディラン様が参加なさって大騒ぎになったことのせいですか? 気になさってはいけません」

「近くまでついていって、見つからないように魔法を展開して見守る」

「このヘタレ神」




ーーー
「あの女……私のディラン様だけでなく、恋愛の神にまで色目使ってるの? 信じられない。抹消してやる」
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