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12.お呼び出し
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「すまない、テラス。最高神のところへ詳しい説明をして行ってもらう必要が出てきた」
「え?」
天界から帰ってきたディランの言葉を聞いたテラスが、驚きで固まる。ぽかんと口を開けたテラスの手から、持っていたペンが転げ落ちた。
「最高神って……俺も直接の面会はしたことがないですし、言葉を交わしたら殺されるって聞いたことあるんすけど」
「殺される……消滅」
テラスが怯えたように呟いた。
「いや、最高神はああ見えても、天界を良くしたいと思っている方のはずだ。簡単に神の使い人を消滅させたりしない。ただ、話を聞きたいそうだが……テラスは上位の神と話したことはあるか?」
「ないです……あ、ディラン様はあります」
「私はテラスの直属の上司になっているから、堅苦しいものは抜きにしてもらっているんだよな……一回マナーと神の形式だけ教えておくか」
「ありがとうございます」
「まぁ、最高神以外に会うことはないと思うが、各界の神が三柱いるんだ。最高神が天界、その下にいるのが人界の地上の神と、地獄の神が私だ。さらに、その下に各世界の神がくる。例えば、テラスが転生するはずだった世界の神、とかだ。そこまでが上位の神だ」
「え、ディラン様は、すごく高位の神でいらしたんですか? 私、単なる上司として接してしまっておりました。申し訳ございません」
顔を真っ青にしてテラスが謝る。なんたって、上から二、三番目の神に家事までさせていたのだ。即消滅レベルの不敬だと気づいたテラスは、恋愛の神の態度を思い出して、その意図を理解する。
「テラスに距離を取られるのは寂しい。せっかく同じ地獄の仲間として仲良くなってきたのだ。今まで通りにしてくれ」
「ディラン様は、そんなに細かいことを気になさっていらっしゃらないから、大丈夫だと思うぞ」
クロウがそう言って、テラスを励ます。
「ありがとうございます。クロウ様」
「俺は、神とは言えないと言う人もいるくらいの神だから、別にクロウでいいぞ? なんたって元カラスだからな。 それに、テラスは地獄の仲間だ!」
「え、処刑の神が元カラスなんですか!? ……わかりました。ありがとうございます。クロウ」
クロウとテラスは、視線を合わせて頷きあう。まるで、戦友のようだ。
その横で、ディランの説明は続く。
「上位の神と会う時は、頭を伏せて顔を上げない。これは、“神々への礼”と言われる。目を合わせてもダメだ。会話は上位の神から、だ。だが、上位の神々以外は、今まで通りの対応でいい。テラスは神の使い人だから、業務上、神全員にその対応は不要と最高神がおっしゃっている。上位の神々への対応を他の神にすることは、むしろ上位の神々への失礼にあたるしな」
「わかりました」
ディランによる基本的なマナー講座は終わり、最高神との謁見日が決まったようだ。
ーーーー
「ほぅ、そなたがテラスか」
最高神の溢れ出るオーラに、習ったことも忘れたテラスはひれ伏す。
想像よりはるかに筋肉質な肉体に、堂々としたオーラ。肉体美を見せたいかのような半裸姿なのに、まるでそれが衣装のように似合う。
「顔をあげよ」
「……はい」
圧に屈したかのように、震えながらテラスが顔を上げると、最高神の横にいたグラマラス美女が、テラスの顔を覗き込んできた。
「ふーん、この子がディランのお気に入り?」
上から下までジロジロと見られ、居心地の悪さにテラスは身じろぎする。
「えー! 意外! でも、ディランのお気に入りとかすっごくおもしろいじゃん!?」
美女がテラスの肩をバシバシと叩きながら、爆笑する。
テラスは水に濡れた子猫のように震えている。
「グラーシス! なんでここにいるんだ? テラスが怯えてるからやめろ!」
「はじめましてー! 地上の神のグラーシスです! よろしくねー」
グラーシスは、テラスの手を握りながら、ブンブンと振り回す。
「グラーシス、やめよ。テラスが怯えているではないか」
最高神がグラーシスを止めにかかる。
「え、ていうか、最高神。なんでそんな話し方してんの?」
「えー、ここでバラしちゃうー? 最高神っぽい威厳があったほうがいいかな、と思って、頑張ってたのにぃ」
いじけた様子の最高神に、三柱の最上位神たちは、大爆笑する。テラスは空気のように固まっている。
扉の前から様子を見ていたクロウの口から、俺は外で待っていて本当によかった、とこぼれ落ちた。
天界の最高神に使える者たちも、そのクロウの言葉にうんうん、と頷く。
「あ、すまない、テラス」
「いえ……」
「あ、ごめんねー? ところで、テラスは大聖女になりたい? 地獄で働きたい? ディランとしては、いてほしいみたいだけど」
「テラスがきてくれて、地獄は澱みが減っている。それだけでなく、業務負担も減っている。あと、まぁ、その、私はテラスがいてくれると嬉しいんだが」
ディランは少し照れた様子でテラスを求めた。その言葉を聞いて、テラスは答える。
「今、私は地獄で働いて、すごく幸せな思いをさせていただいております。ただ、私を必要としてくださる方々がいらっしゃり、そちらに行けとおっしゃるならば、もちろん、そのご指示に従います」
「うーん、別に大聖女にならなくても、必要な時に地上におろしてあげることもできるし、周りのことは気にしなくていいからさー。テラスとしては、地獄か大聖女のどっちがいいの?」
「私は……地獄で働きたいです。ディラン様とクロウと、皆様と一緒に」
「おっけー! じゃあ、そうしておくよー。ちなみに、元上司の怠惰の神について、いろいろヒアリングさせてね?」
最高神に怠惰の神について軽く聞かれたテラスは、すぐに解放されたようだ。
「おつかれ、テラス」
「いえ。ありがとうございます。ディラン様」
「いや、」
「ねぇー! テラス! また、天界に遊びに来てねー!」
「お前はもう地上に帰れ! ……ったく、クロウ。ついてこい。すまない、テラス。少しここで待っていてくれ」
叫ぶグラーシスの対応をするため、ディランが戻って行った。
「ねぇ」
一人になったテラスに、陰からひょっこり現れた神が声をかける。
「あなた、テラスでしょ?」
陰に身を隠したまま、話し続ける。顔のほとんどを長い黒い髪で隠すその神は、どこか陰気だ。
「はい……」
どこの神か検討もつかないテラスは、対応に困ってしまう。
「神の使い人ごときなんだから、ディラン様に近づかないでくれる? あと、私にも“神々への礼”くらいきちんと取りなさいよ」
「申し訳ございません。上位の神様でいらっしゃったんですね」
慌てて頭を伏せるテラスに、その神は答える。
「は? 私は上位じゃないけど、神なのよ? 敬いなさいよ。あなたは神の使い人!」
「その、上位でない神々に対して、神々への礼をとることは、上位の神への不敬に当たりますので」
そう言い、顔を上げようとしたテラスの頭を力づくで押さえ込む。
「なんであんたごときが、ディラン様と一緒にいるのよ。許せない、許せない、許せない、許せない」
「痛い、え、あの!?」
「消滅させてやる!」
そう言ってテラスの頭に力を込めようとしたとき、咎める声がその場に響いた。
「何をしている?」
「ひっ! ディラン様」
ディランがそ・の・神・の・手・を・掴・も・う・と・す・る・と・、その神は悲鳴をあげてテラスから手を離した。
「大丈夫か? すまない、テラス」
テラスに手を差し出したディランは、テラスを立ち上がらせる。
その神は、その様子を目を見開いて見つめている。
「なにやってんだ? 日陰の神。お前がディラン様に憧れているのはわかっているが、デ・ィ・ラ・ン・様・に・触・れ・な・い・よ・う・な・お前は、陰からこっそり見つめる程度にしておけよ」
クロウが日陰の神を締め上げる。
「すみません、すみません、すみません」
震えながら、謝る日陰の神に、ディランが声をかける。
「一度目だ。これで見逃してやろう。お前がテラスを消滅させることがあったら、その前にお前が消滅することを覚えておけ」
そう言って、日陰の神に触れないように手をかざし、“一”と腕に記した。
解放された日陰の神は、這うように逃げていった。
「すまない、テラス。日陰の神は、私に近づく者にすぐに絡むんだ。仕事関係で話した神々に、聞こえないように文句を言うだけだったから、気にしていなかった。テラスは神の使い人という立場や私との近さからあんな行動に出るとは……」
「いえ。びっくりしましたが、助けていただき、ありがとうございました」
「え?」
天界から帰ってきたディランの言葉を聞いたテラスが、驚きで固まる。ぽかんと口を開けたテラスの手から、持っていたペンが転げ落ちた。
「最高神って……俺も直接の面会はしたことがないですし、言葉を交わしたら殺されるって聞いたことあるんすけど」
「殺される……消滅」
テラスが怯えたように呟いた。
「いや、最高神はああ見えても、天界を良くしたいと思っている方のはずだ。簡単に神の使い人を消滅させたりしない。ただ、話を聞きたいそうだが……テラスは上位の神と話したことはあるか?」
「ないです……あ、ディラン様はあります」
「私はテラスの直属の上司になっているから、堅苦しいものは抜きにしてもらっているんだよな……一回マナーと神の形式だけ教えておくか」
「ありがとうございます」
「まぁ、最高神以外に会うことはないと思うが、各界の神が三柱いるんだ。最高神が天界、その下にいるのが人界の地上の神と、地獄の神が私だ。さらに、その下に各世界の神がくる。例えば、テラスが転生するはずだった世界の神、とかだ。そこまでが上位の神だ」
「え、ディラン様は、すごく高位の神でいらしたんですか? 私、単なる上司として接してしまっておりました。申し訳ございません」
顔を真っ青にしてテラスが謝る。なんたって、上から二、三番目の神に家事までさせていたのだ。即消滅レベルの不敬だと気づいたテラスは、恋愛の神の態度を思い出して、その意図を理解する。
「テラスに距離を取られるのは寂しい。せっかく同じ地獄の仲間として仲良くなってきたのだ。今まで通りにしてくれ」
「ディラン様は、そんなに細かいことを気になさっていらっしゃらないから、大丈夫だと思うぞ」
クロウがそう言って、テラスを励ます。
「ありがとうございます。クロウ様」
「俺は、神とは言えないと言う人もいるくらいの神だから、別にクロウでいいぞ? なんたって元カラスだからな。 それに、テラスは地獄の仲間だ!」
「え、処刑の神が元カラスなんですか!? ……わかりました。ありがとうございます。クロウ」
クロウとテラスは、視線を合わせて頷きあう。まるで、戦友のようだ。
その横で、ディランの説明は続く。
「上位の神と会う時は、頭を伏せて顔を上げない。これは、“神々への礼”と言われる。目を合わせてもダメだ。会話は上位の神から、だ。だが、上位の神々以外は、今まで通りの対応でいい。テラスは神の使い人だから、業務上、神全員にその対応は不要と最高神がおっしゃっている。上位の神々への対応を他の神にすることは、むしろ上位の神々への失礼にあたるしな」
「わかりました」
ディランによる基本的なマナー講座は終わり、最高神との謁見日が決まったようだ。
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「ほぅ、そなたがテラスか」
最高神の溢れ出るオーラに、習ったことも忘れたテラスはひれ伏す。
想像よりはるかに筋肉質な肉体に、堂々としたオーラ。肉体美を見せたいかのような半裸姿なのに、まるでそれが衣装のように似合う。
「顔をあげよ」
「……はい」
圧に屈したかのように、震えながらテラスが顔を上げると、最高神の横にいたグラマラス美女が、テラスの顔を覗き込んできた。
「ふーん、この子がディランのお気に入り?」
上から下までジロジロと見られ、居心地の悪さにテラスは身じろぎする。
「えー! 意外! でも、ディランのお気に入りとかすっごくおもしろいじゃん!?」
美女がテラスの肩をバシバシと叩きながら、爆笑する。
テラスは水に濡れた子猫のように震えている。
「グラーシス! なんでここにいるんだ? テラスが怯えてるからやめろ!」
「はじめましてー! 地上の神のグラーシスです! よろしくねー」
グラーシスは、テラスの手を握りながら、ブンブンと振り回す。
「グラーシス、やめよ。テラスが怯えているではないか」
最高神がグラーシスを止めにかかる。
「え、ていうか、最高神。なんでそんな話し方してんの?」
「えー、ここでバラしちゃうー? 最高神っぽい威厳があったほうがいいかな、と思って、頑張ってたのにぃ」
いじけた様子の最高神に、三柱の最上位神たちは、大爆笑する。テラスは空気のように固まっている。
扉の前から様子を見ていたクロウの口から、俺は外で待っていて本当によかった、とこぼれ落ちた。
天界の最高神に使える者たちも、そのクロウの言葉にうんうん、と頷く。
「あ、すまない、テラス」
「いえ……」
「あ、ごめんねー? ところで、テラスは大聖女になりたい? 地獄で働きたい? ディランとしては、いてほしいみたいだけど」
「テラスがきてくれて、地獄は澱みが減っている。それだけでなく、業務負担も減っている。あと、まぁ、その、私はテラスがいてくれると嬉しいんだが」
ディランは少し照れた様子でテラスを求めた。その言葉を聞いて、テラスは答える。
「今、私は地獄で働いて、すごく幸せな思いをさせていただいております。ただ、私を必要としてくださる方々がいらっしゃり、そちらに行けとおっしゃるならば、もちろん、そのご指示に従います」
「うーん、別に大聖女にならなくても、必要な時に地上におろしてあげることもできるし、周りのことは気にしなくていいからさー。テラスとしては、地獄か大聖女のどっちがいいの?」
「私は……地獄で働きたいです。ディラン様とクロウと、皆様と一緒に」
「おっけー! じゃあ、そうしておくよー。ちなみに、元上司の怠惰の神について、いろいろヒアリングさせてね?」
最高神に怠惰の神について軽く聞かれたテラスは、すぐに解放されたようだ。
「おつかれ、テラス」
「いえ。ありがとうございます。ディラン様」
「いや、」
「ねぇー! テラス! また、天界に遊びに来てねー!」
「お前はもう地上に帰れ! ……ったく、クロウ。ついてこい。すまない、テラス。少しここで待っていてくれ」
叫ぶグラーシスの対応をするため、ディランが戻って行った。
「ねぇ」
一人になったテラスに、陰からひょっこり現れた神が声をかける。
「あなた、テラスでしょ?」
陰に身を隠したまま、話し続ける。顔のほとんどを長い黒い髪で隠すその神は、どこか陰気だ。
「はい……」
どこの神か検討もつかないテラスは、対応に困ってしまう。
「神の使い人ごときなんだから、ディラン様に近づかないでくれる? あと、私にも“神々への礼”くらいきちんと取りなさいよ」
「申し訳ございません。上位の神様でいらっしゃったんですね」
慌てて頭を伏せるテラスに、その神は答える。
「は? 私は上位じゃないけど、神なのよ? 敬いなさいよ。あなたは神の使い人!」
「その、上位でない神々に対して、神々への礼をとることは、上位の神への不敬に当たりますので」
そう言い、顔を上げようとしたテラスの頭を力づくで押さえ込む。
「なんであんたごときが、ディラン様と一緒にいるのよ。許せない、許せない、許せない、許せない」
「痛い、え、あの!?」
「消滅させてやる!」
そう言ってテラスの頭に力を込めようとしたとき、咎める声がその場に響いた。
「何をしている?」
「ひっ! ディラン様」
ディランがそ・の・神・の・手・を・掴・も・う・と・す・る・と・、その神は悲鳴をあげてテラスから手を離した。
「大丈夫か? すまない、テラス」
テラスに手を差し出したディランは、テラスを立ち上がらせる。
その神は、その様子を目を見開いて見つめている。
「なにやってんだ? 日陰の神。お前がディラン様に憧れているのはわかっているが、デ・ィ・ラ・ン・様・に・触・れ・な・い・よ・う・な・お前は、陰からこっそり見つめる程度にしておけよ」
クロウが日陰の神を締め上げる。
「すみません、すみません、すみません」
震えながら、謝る日陰の神に、ディランが声をかける。
「一度目だ。これで見逃してやろう。お前がテラスを消滅させることがあったら、その前にお前が消滅することを覚えておけ」
そう言って、日陰の神に触れないように手をかざし、“一”と腕に記した。
解放された日陰の神は、這うように逃げていった。
「すまない、テラス。日陰の神は、私に近づく者にすぐに絡むんだ。仕事関係で話した神々に、聞こえないように文句を言うだけだったから、気にしていなかった。テラスは神の使い人という立場や私との近さからあんな行動に出るとは……」
「いえ。びっくりしましたが、助けていただき、ありがとうございました」
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