天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第35話 相愛

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妙土たえとは夢の中でリーザの記憶をなぞり過去のいきさつを辿っていた。
リーネ族と魔族の関わり、魔王ラディリオンとの出会い、リーネ族の王都陥落と北の大地行き、異母兄であるリーデイルとの関係。

リーザもラディリオンも親族間で争う複雑な家庭環境で育ち、血で血を洗うようなリーネ族と魔族の戦いに飽いていた。
王族同士の婚姻による2族の融合政策に二人ともやぶさかではなかったようだ。
同じ王族という立場で、容姿も比類ない美しさを持つ二人には共通点がいくつもあった。

出会ってかれたのは必然か。

ラディリオンへのリーザの気持ちが妙土に流れ込んでくる。
一族を追い詰め、北の大地に追いやった魔族の筆頭と知りながら、どうしようもなく彼に惹かれていく戸惑いとやるせなさ。
哀しいくらい溢れる愛しさと切なさ。

(・・・リーザは本当にラディリオンのことが好きだったんだね・・・なんだかなあ・・・)

神々に似せた形でリーネ族と人間は創られたようだけど、持ち合わせる感情も同じものなのだろうか。
であれば、誰かを恋しいと思う気持ちは、適切な対象ではないことを頭で理解していても、皆、制御できないに違いない。

妙土は、カイルが普通の人間じゃないとわかりながら、体の奥から沸き上がる思いに抵抗できなかった。
カイルに恋をして心通わせた妙土だからこそ、リーザの恋心を理解できた。

・・・しかし、夢の中とはいえ、ラディリオンの行為をリーザの感覚を通して受け入れてる妙土は複雑だった。
ラディリオンの口づけや愛撫がカイルに似ているからである。
親子だから似ているのは当たり前ではあるが、口調や雰囲気もダブっていて、こそばゆい。

そうか、カイルの中味は父親似なのか。
外見こそ金髪碧眼で母親のリーザに似ているが。

合点がいったところで、やけに生々しい愛撫や体内を通過する熱量を遠くに感じて妙土は目覚めた。

頭の下のゴツゴツした枕が人の腕だとわかりぎょっとする。
かけ布からこぼれるメロンサイズの巨乳が何もまとっていなかったので、自分が裸であることに気づいた。
隣で寝ている腕枕の持ち主はもちろん魔王ラディリオンである。

「ふ、ぎゃ!」
声にならない叫びをあげ、妙土はラディリオンから離れようとしたが、間髪を入れず、ラディリオンの腕に背面からからめとられた。

「違うんです。これは何かの間違いです!」
逃げようとして妙土はもがいたが、腕は解かれない。
長い黄金色の髪が乱れ散る。
2つの乳房が背後から揉みしだかれ、行為が始まることが予測された。 

パニックになった妙土の頭の中で硬質な声がした。

『・・・私に代われ』

リーザが妙土の意識を横にどかすような形で入れ替わった。

妙土が息を飲むなか、リーザとラディリオンは見つめ合うと、2匹の獣が貪り食うように、激しく絡み合った。
リーザの歓喜の情が妙土に流れ込む。
紛れもなく愛しい男と肌を交わす女の歓び。

妙土は照れると同時に疑問に思った。
二人はこの上なく愛し合ってる。
なのに、なぜ、バルムンクの青い宝石にラディリオンは閉じ込められ、リーザは人間として転生を繰り返しラディリオンの封印が解けるのを待ったのか。
宇宙龍の環はあらゆる願いを叶えると言っていたので、リーネ族と魔族が共に地上で暮らせるように願えば良いのではないか。

二人から目をそらそうとしても、リーザの体を動かす主導権をリーザの意識が握っているだけで、妙土の意識は、しっかり二人の行為を体感できた。
ラディリオンの体温や彼に触れられた感触も伝わってくる。

二人の営みから何とか意識をそらすためにも、妙土は二人が決裂した理由を必死で考えた。
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