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3.リーフリールの森の中。
踊るは勇者と魔王と代理人。
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≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「…はあ、なんでこんな事に…?」
千の軍勢の先頭の5人の一人、蒼を連れたディアーナさんが溜息を吐きます。
「ディア姉さんが〈代理人〉だからですね」
金髪の魔術師風の白を基調にしたローブの少女が答えます。
そのクリリスさんという名の17歳の少女は、ディアーナさんとは医療団で医療魔術師として帝国占領地での活動からの付き合いで、ディアーナさんを尊敬して慕っているようです。
代理人いうのは医療団で定着していたの呼び名ですが、二つ名として〈代理人=ディアーナ〉と定着してしまったそうです。
「…クリリス、これから向かう先がちゃんとわかってる?」
「魔王のトコですね」
「リーフリールの森よ」
「瘴気や瘴化魔力が酷いっていうのは説明されましたし、その為に回復役の私と何でもできる〈代理人〉ディア姉さんが専門家として招聘されたわけですよね?」
「それだけでないのよ、リーフリールの森は。
入るのは自殺行為だし、自殺の仕方としても苦しいし惨たらしいからお勧めできない、最上位の危険地帯なの!」
「魔物が強いのも説明されましたけど、私もこの辺りの魔物なら一人でも平気な程度には討伐の経験はあるし、その辺は勇者様達の担当でしょう?」
クリリスさんはリーフリールの森の恩恵が届かない地域、弱体化していない魔物が多く棲息する地域の出身です。
彼女が送る視線の先には火力担当の壮年の魔術師、盾と剣を持ったほぼ全身を覆う鎧の重戦士、槍を持った部分鎧の茶髪男、勇者がいます。
…そしてこの一団は魔王討伐を目的とした勇者が率いる連合軍なのです。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
時を遡って半月程前、意外と早くディアーナさんに余裕ができて医療団から距離を置き始めた頃です。
「魔王討伐軍ですか?
リーフリールの森に?
いいのではないですか?好きにさせれば」
特に立ち入り禁止というわけでもありませんし、わたし個人はただの野良ホムンクルスですから口出しする事でもありません。
『いや、あたしにも招聘要請が来てんのよ』
「人類最強上位十指に選ばれたのですか?
おめでとうございます」
『…ンなわけないと思うし、嬉しくない』
「嫌なら断れないのですか?」
『…すっぱりとは断り辛い状況でねー、今の所は否定的アドバイザーって感じ。
医療団で慕ってくれた娘も瘴気対策兼回復役として呼ばれて来る事になっちゃってるし、ジーナス教団が管理している儀式魔法陣で勇者を召喚したらしいのよ』
「はあ、勇者を召喚ですか?」
『リーフリールの森の魔女が亡くなった件で何度か会議があったらしいのね?
んで、医療団が有名になって『瘴気対策が飛躍的に向上した』なんて誤解も出まわって『機は熟した、後は攻撃力』とか思った国が三つ程でやらかしたらしいのよ。
その召喚された勇者は前向きらしいけど、召喚した術者達が送還の為に魔王の強化因子を取り込まないといけないとかウソくさい事言ってんの』
向上したしたのは瘴化細菌等の感染症対策であり、瘴気対策は個人の技量の範疇なのです。
「…先に出てくる案がテンプレな他力本願なのはいただけませんが、本人が前向きなら良いのでは?」
『賛成するやつらは皆、嘗め過ぎね。
本当に危険で困難な敵は魔王より魔王を淘汰しちゃうリーフリールの森でしょうが。
あたしも最近森の際で修業してるでしょ?
だから経験者として、いきなり被害を出さないように否定的アドバイザーなのよ』
「私から一応言っておきますが、魔王を淘汰するのは森の魔物であって、森が敵と言われるのは森の維持管理システムとしては心外です」
『…ごめんなさい。ついうっかりと…』
「あと今発生している魔王もそろそろ危ないと推測します」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
斥候職にはみんな断られたそうです。
「あほか?
あんな所で単身斥候になんか出されてたまるか、馬鹿野郎」
弓職にも断られたそうです。
「あほか?
あんなとこの魔物に矢なんか通るか考えろよ、馬鹿」
…という具合で。
人為的な罠とかはないはずですし、巻き上げ式機械弓で十m以内ならランクが低い魔物には通りましたが、言いたい事も役に立たない事も解ります。
…オリハルコン製の矢ならソコソコいけそうな気もしますが、オリハルコン製の矢なんか存在しないですよね。
ともかくそういった断られた人達の分の皺寄せは『何でもできる人』のトコロにくるものです。
茶髪召喚勇者の名前はカズヤ。傲慢系でもなく普通に正義感のある17歳の日本人のようです。
ディアーナさんは自分を慕うクリリスさんと、一方的に召喚されてあまり意味があるとは思えない無謀な魔王討伐をさせられるカズヤを無下に見捨てるような気がして、ズルズルと付いていくハメになったのです。
一方でわたしですが、何故か日本人召喚勇者カズヤにたいして感慨がありません。
普通は会って話してみたい、とか思うシチュエーションですよね?
相変わらずわたしが日本で誰だったか分からないのですし、記憶に繋がるかもしれないのに欲求としてこみあげてこないのです。
多分、『思い出したくない』のでもなく『興味がない』ような気がします。
ディアーナさんの時と違ってわたし達のサポートはないので「まず周辺で高圧瘴化魔素に慣れる事に専念しましょう」と主張するディアーナさんの意見は通らず、上層部の意向を受けた重戦士が「我々なら大丈夫」と押し切って初突入。
大丈夫な根拠は何でしょうか?
わたしとしては早く終わる方が助かりますけれども、あせって逆効果はやめて欲しいのですが…。
…と思ったら、やはり大丈夫ではありませんでした。
5人で最初に音を上げたのは、ランク三十六の魔化イノシシを一匹仕留めた時点で魔術師と重戦士も意地だけで最初を回避したらすぐにがダウン。
勇者もクリリスさんもしんどそうです。
魔化については耐性がなく浄化もしなくても1日くらいでは心配ありませんが、高圧瘴化魔素の息苦しさに負けて気絶したり眠ってしまうと、体が魔力を補給しようとして瘴化魔素を吸収するので危険です。
フィのホムンクルスには解らない危険感覚ですが感知はできますし、ディアーナさんが修業した時の経験談と、メインシステムの維持管理範囲内なので詳細なデータがあります。
この時点で千の軍勢は森の外縁警備以外の役にほとんどが立たない事が確定。
往復十五分で初突入は終了しました。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
初突入から五日後。
「もう、多少不自然でも偶然で済ましませんか?」
まだ1㎞も進めない魔王討伐軍にわたしが先に嫌気がさしました。
『…インフィがいいなら、もういいよ…。
あたしも疲れたわ…』
ディアーナさんもなげやりに答えます。
上層部の意向を受けた重戦士とジーナス教団の息がかかっているらしい壮年の魔術師は、嫌々命令に従っている感を隠せなくなりました。
クリリスさんと勇者は頑張っていますが、先が見えない不安は同じです。
モチベーションが低い皺寄せはディアーナさんに行きます。
本職の打撃屋に加え警戒索敵に威力偵察と消耗回復調整とヘイト管理まで、さすがにディアーナさんでも堪えるようです。
本来はリーダーのカリスマや指揮力で埋めるべき隙を、ディアーナさんと蒼の手数と気苦労で埋めているのです。
最近まで普通の高校生だった形式上のリーダーの勇者にそこまで求めるのは酷ですし、上層部の意向を受けた実質のリーダーが及び腰の隙だらけで重戦士の役目も果たせていないのでは、進めるものも進めません。
まだディアーナさんと蒼だけの方が楽に進んでいると思います。
そのディアーナさんいわく、常識的には毎日律儀にリーフリールの森の中に足を踏み入れて生きているだけで、その勇気は褒めらるそうですが。
「では魔王を近くまで持って行きます」
根こそぎ魔力を奪って意識を刈り取った魔王を、手足を折って拘束して拠点結界内で保護していたのです。
…ディアーナさんの依頼で、淘汰されないように。
遭遇予定地をドレインとフルバーストインパクトで半径百mほどを、邪魔しそうな魔物の死体や魔化樹木の残骸の海にしてからゴーレム達に運ばせます。
魔物達の断末魔が丁度良い目印になるかな?
魔王が意識を取り戻すまで[魔力移譲]して放置。
「魔王?」
「何でこんな所で手下を虐殺してるんだ?」
「さすがに凄いな…」
「でも、かなり消耗もしているように見えます」
「ぐ、偶然ねー、凄いチャンスよ!
初撃、もらうわよ!」
この面子でスタンダードなディアーナさんの初撃を観察して回避・防御能力や挙動・間合いを測る戦術で討伐開始。
魔王といっても魔化して…魔王が魔化というのは日本語的に変ですね…リーフリールの森の高圧瘴化魔素に侵された彼には、口上を並べるような知性も理性もありません。
もちろん言い訳も恨み言も。
死闘…三十分。
双方それなりの消耗を経て、ディアーナさんが疲労したふりして手を抜き始めます。
勇者に魔王の強化因子を取り込ませるのが目的です。
…でも。
「がは!」
疲労でしょうか、重戦士が攻撃を受け損ねてモロに…。
「あ!」
反射的に伸びたディアーナさんの剣が止めを刺してしまいました。
…そこは勇者の見せ場でしょうに…。
色々台無しですよ?
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「勇者が率いる連合軍がリーフリールの森の中の魔王の討伐に成功した」
そう発表され一時は湧き立ちました。
魔王が討伐されたならリーフリールの森の魔物も弱体化するのでは?
リーフリールの森の中での狩りも不可能ではない?
もちろん森自体に何か変わった事があるわけでもなく、また数年で現れる事を想像して連合軍を構成した三国と教団はアピールに失敗した事に気付くでしょう。
放っておけば外には無害な魔王級統率個体を殺せたというだけなのです。
実際数日で、関係者の総意としてリーフリールの森のマイスター=フィリル・カーラに哀悼の意を表する事と可能な限りの現状維持を希望してしている旨の書状と年次費用がユール商会に届きました。
そして本当に魔王の強化因子が足りなかったのでしょうか、送還条件が嘘か間違いなのでしょうか、送還に失敗したと勇者は宣告されました。
「何がしたかったのでしょうか?」
『あたしが聞きたいわよ』
「…はあ、なんでこんな事に…?」
千の軍勢の先頭の5人の一人、蒼を連れたディアーナさんが溜息を吐きます。
「ディア姉さんが〈代理人〉だからですね」
金髪の魔術師風の白を基調にしたローブの少女が答えます。
そのクリリスさんという名の17歳の少女は、ディアーナさんとは医療団で医療魔術師として帝国占領地での活動からの付き合いで、ディアーナさんを尊敬して慕っているようです。
代理人いうのは医療団で定着していたの呼び名ですが、二つ名として〈代理人=ディアーナ〉と定着してしまったそうです。
「…クリリス、これから向かう先がちゃんとわかってる?」
「魔王のトコですね」
「リーフリールの森よ」
「瘴気や瘴化魔力が酷いっていうのは説明されましたし、その為に回復役の私と何でもできる〈代理人〉ディア姉さんが専門家として招聘されたわけですよね?」
「それだけでないのよ、リーフリールの森は。
入るのは自殺行為だし、自殺の仕方としても苦しいし惨たらしいからお勧めできない、最上位の危険地帯なの!」
「魔物が強いのも説明されましたけど、私もこの辺りの魔物なら一人でも平気な程度には討伐の経験はあるし、その辺は勇者様達の担当でしょう?」
クリリスさんはリーフリールの森の恩恵が届かない地域、弱体化していない魔物が多く棲息する地域の出身です。
彼女が送る視線の先には火力担当の壮年の魔術師、盾と剣を持ったほぼ全身を覆う鎧の重戦士、槍を持った部分鎧の茶髪男、勇者がいます。
…そしてこの一団は魔王討伐を目的とした勇者が率いる連合軍なのです。
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時を遡って半月程前、意外と早くディアーナさんに余裕ができて医療団から距離を置き始めた頃です。
「魔王討伐軍ですか?
リーフリールの森に?
いいのではないですか?好きにさせれば」
特に立ち入り禁止というわけでもありませんし、わたし個人はただの野良ホムンクルスですから口出しする事でもありません。
『いや、あたしにも招聘要請が来てんのよ』
「人類最強上位十指に選ばれたのですか?
おめでとうございます」
『…ンなわけないと思うし、嬉しくない』
「嫌なら断れないのですか?」
『…すっぱりとは断り辛い状況でねー、今の所は否定的アドバイザーって感じ。
医療団で慕ってくれた娘も瘴気対策兼回復役として呼ばれて来る事になっちゃってるし、ジーナス教団が管理している儀式魔法陣で勇者を召喚したらしいのよ』
「はあ、勇者を召喚ですか?」
『リーフリールの森の魔女が亡くなった件で何度か会議があったらしいのね?
んで、医療団が有名になって『瘴気対策が飛躍的に向上した』なんて誤解も出まわって『機は熟した、後は攻撃力』とか思った国が三つ程でやらかしたらしいのよ。
その召喚された勇者は前向きらしいけど、召喚した術者達が送還の為に魔王の強化因子を取り込まないといけないとかウソくさい事言ってんの』
向上したしたのは瘴化細菌等の感染症対策であり、瘴気対策は個人の技量の範疇なのです。
「…先に出てくる案がテンプレな他力本願なのはいただけませんが、本人が前向きなら良いのでは?」
『賛成するやつらは皆、嘗め過ぎね。
本当に危険で困難な敵は魔王より魔王を淘汰しちゃうリーフリールの森でしょうが。
あたしも最近森の際で修業してるでしょ?
だから経験者として、いきなり被害を出さないように否定的アドバイザーなのよ』
「私から一応言っておきますが、魔王を淘汰するのは森の魔物であって、森が敵と言われるのは森の維持管理システムとしては心外です」
『…ごめんなさい。ついうっかりと…』
「あと今発生している魔王もそろそろ危ないと推測します」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
斥候職にはみんな断られたそうです。
「あほか?
あんな所で単身斥候になんか出されてたまるか、馬鹿野郎」
弓職にも断られたそうです。
「あほか?
あんなとこの魔物に矢なんか通るか考えろよ、馬鹿」
…という具合で。
人為的な罠とかはないはずですし、巻き上げ式機械弓で十m以内ならランクが低い魔物には通りましたが、言いたい事も役に立たない事も解ります。
…オリハルコン製の矢ならソコソコいけそうな気もしますが、オリハルコン製の矢なんか存在しないですよね。
ともかくそういった断られた人達の分の皺寄せは『何でもできる人』のトコロにくるものです。
茶髪召喚勇者の名前はカズヤ。傲慢系でもなく普通に正義感のある17歳の日本人のようです。
ディアーナさんは自分を慕うクリリスさんと、一方的に召喚されてあまり意味があるとは思えない無謀な魔王討伐をさせられるカズヤを無下に見捨てるような気がして、ズルズルと付いていくハメになったのです。
一方でわたしですが、何故か日本人召喚勇者カズヤにたいして感慨がありません。
普通は会って話してみたい、とか思うシチュエーションですよね?
相変わらずわたしが日本で誰だったか分からないのですし、記憶に繋がるかもしれないのに欲求としてこみあげてこないのです。
多分、『思い出したくない』のでもなく『興味がない』ような気がします。
ディアーナさんの時と違ってわたし達のサポートはないので「まず周辺で高圧瘴化魔素に慣れる事に専念しましょう」と主張するディアーナさんの意見は通らず、上層部の意向を受けた重戦士が「我々なら大丈夫」と押し切って初突入。
大丈夫な根拠は何でしょうか?
わたしとしては早く終わる方が助かりますけれども、あせって逆効果はやめて欲しいのですが…。
…と思ったら、やはり大丈夫ではありませんでした。
5人で最初に音を上げたのは、ランク三十六の魔化イノシシを一匹仕留めた時点で魔術師と重戦士も意地だけで最初を回避したらすぐにがダウン。
勇者もクリリスさんもしんどそうです。
魔化については耐性がなく浄化もしなくても1日くらいでは心配ありませんが、高圧瘴化魔素の息苦しさに負けて気絶したり眠ってしまうと、体が魔力を補給しようとして瘴化魔素を吸収するので危険です。
フィのホムンクルスには解らない危険感覚ですが感知はできますし、ディアーナさんが修業した時の経験談と、メインシステムの維持管理範囲内なので詳細なデータがあります。
この時点で千の軍勢は森の外縁警備以外の役にほとんどが立たない事が確定。
往復十五分で初突入は終了しました。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
初突入から五日後。
「もう、多少不自然でも偶然で済ましませんか?」
まだ1㎞も進めない魔王討伐軍にわたしが先に嫌気がさしました。
『…インフィがいいなら、もういいよ…。
あたしも疲れたわ…』
ディアーナさんもなげやりに答えます。
上層部の意向を受けた重戦士とジーナス教団の息がかかっているらしい壮年の魔術師は、嫌々命令に従っている感を隠せなくなりました。
クリリスさんと勇者は頑張っていますが、先が見えない不安は同じです。
モチベーションが低い皺寄せはディアーナさんに行きます。
本職の打撃屋に加え警戒索敵に威力偵察と消耗回復調整とヘイト管理まで、さすがにディアーナさんでも堪えるようです。
本来はリーダーのカリスマや指揮力で埋めるべき隙を、ディアーナさんと蒼の手数と気苦労で埋めているのです。
最近まで普通の高校生だった形式上のリーダーの勇者にそこまで求めるのは酷ですし、上層部の意向を受けた実質のリーダーが及び腰の隙だらけで重戦士の役目も果たせていないのでは、進めるものも進めません。
まだディアーナさんと蒼だけの方が楽に進んでいると思います。
そのディアーナさんいわく、常識的には毎日律儀にリーフリールの森の中に足を踏み入れて生きているだけで、その勇気は褒めらるそうですが。
「では魔王を近くまで持って行きます」
根こそぎ魔力を奪って意識を刈り取った魔王を、手足を折って拘束して拠点結界内で保護していたのです。
…ディアーナさんの依頼で、淘汰されないように。
遭遇予定地をドレインとフルバーストインパクトで半径百mほどを、邪魔しそうな魔物の死体や魔化樹木の残骸の海にしてからゴーレム達に運ばせます。
魔物達の断末魔が丁度良い目印になるかな?
魔王が意識を取り戻すまで[魔力移譲]して放置。
「魔王?」
「何でこんな所で手下を虐殺してるんだ?」
「さすがに凄いな…」
「でも、かなり消耗もしているように見えます」
「ぐ、偶然ねー、凄いチャンスよ!
初撃、もらうわよ!」
この面子でスタンダードなディアーナさんの初撃を観察して回避・防御能力や挙動・間合いを測る戦術で討伐開始。
魔王といっても魔化して…魔王が魔化というのは日本語的に変ですね…リーフリールの森の高圧瘴化魔素に侵された彼には、口上を並べるような知性も理性もありません。
もちろん言い訳も恨み言も。
死闘…三十分。
双方それなりの消耗を経て、ディアーナさんが疲労したふりして手を抜き始めます。
勇者に魔王の強化因子を取り込ませるのが目的です。
…でも。
「がは!」
疲労でしょうか、重戦士が攻撃を受け損ねてモロに…。
「あ!」
反射的に伸びたディアーナさんの剣が止めを刺してしまいました。
…そこは勇者の見せ場でしょうに…。
色々台無しですよ?
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「勇者が率いる連合軍がリーフリールの森の中の魔王の討伐に成功した」
そう発表され一時は湧き立ちました。
魔王が討伐されたならリーフリールの森の魔物も弱体化するのでは?
リーフリールの森の中での狩りも不可能ではない?
もちろん森自体に何か変わった事があるわけでもなく、また数年で現れる事を想像して連合軍を構成した三国と教団はアピールに失敗した事に気付くでしょう。
放っておけば外には無害な魔王級統率個体を殺せたというだけなのです。
実際数日で、関係者の総意としてリーフリールの森のマイスター=フィリル・カーラに哀悼の意を表する事と可能な限りの現状維持を希望してしている旨の書状と年次費用がユール商会に届きました。
そして本当に魔王の強化因子が足りなかったのでしょうか、送還条件が嘘か間違いなのでしょうか、送還に失敗したと勇者は宣告されました。
「何がしたかったのでしょうか?」
『あたしが聞きたいわよ』
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