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ストーリーテリング
第26話 淵源
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「ごめんなさい……私が強く引っ張ってしまったからかも……」
リコは、この世の終わりかのようにしょんぼりしきっている。
笑顔以外のさまざまな表情が芽吹き始めているように見える。
きっとこの子は、加減を知らずに生きてきたのかもしれない。この子は僕の逆で自分の中に閉じこもっていたんだから。
とはいえ、あの力は本気だった……だからこそ、届くものがあったのかもしれない。
「ううん……僕の方こそごめん。自分のことを話すのはあまり慣れてなくて、情けなかったよ。このミサンガもきっと切れる時だったんだと思う。もしかしたら願いが叶ったのかもしれないし……それにまだ家にも余っているし、まだ縛られ続ける必要はないのかもしれないけど」
「本当にごめんなさい……アルトがそう言ってくれるなら、このヒモは一つの役目を終えてくれたのかもしれない。確かに縛っていたこともあるのかもしれない。でも、私も含めて、いろんな人とを繋ぐ役割も果たしてくれていたとも思うの。縛ると繋ぐは近そうな意味でもその印象はとても違う」
「願いを込める、願いに縛られるのではなくて、願いを繋いでくれた、シェアしてくれたのか……」
リコは、落ちたヒモを拾い上げて、ハンカチに包んで渡してくれた。
僕は、形見のような物として、このヒモに願いという贖罪の意を込めて腕に巻きつけていた。
『縛られている』としたらそうだったのかもしれない。むしろそう感じていたと思う。そのために、僕は人助けを買って出た。
でも『繋いでくれる』としたら、そうとも捉えられる。僕は今までたくさんの人と関わりを持てた。特にこのリコと出会えてからの1週間は濃厚だった。
意味は付け替えられる。僕にとってずっしり重く感じていたそのヒモは、今は、優しく感じる。
お母さんとお父さんの死を、自分のせいだとずっと思っていた。そうではないと……まだそんなふうになんては思えない……
でも、自分が納得できる、僕の中のお母さんとお父さんが笑ってくれる、そんなふうに思える時がくるのかもしれないし、そうなるまで何度でも向き合って行けばいいのかもしれない。
ただ、今まで積み上げてきたものだけに従っていく必要はない、僕はそれが全てではないはずなんだから。
僕は、このヒモの役割が『縛っている』と『繋いでくれる』での、虚構の変化を感じていた。
「アルトが向き合ったんだし、私ももう一度向き合ってみないと……」
「……また苦しくならない?」
リコは、胸を少しおさえながら、確かめているように見える。
「うん、きっと大丈夫だと思う。アルトが私の表情が少しずつ変わってきてるように見えると言ってくれたように、私自身としてもこの1週間できっと少しずつ変わってこれてると、自分でも思うの」
「うん、この1週間は、深かったよ」
改めて思い出すと、いろんな感情が渦巻く日々だったと思う。
表面には出てこなかっただけで、リコもきっと同じなんだろう。
「これまで私は自分の世界が全てだったの。そうしないと自分を保っていけなかった。アルトを通して他者の世界が見えた時、そこはとても綺麗に見えた。私の知る世界とは違うように見えたの」
「僕の見えてた世界は、そんなに輝かしいものとは思えなかったけど、リコから見るとそうだったのかもしれないし、僕から見てもそうあるべきだったのかもしれないね」
「アルトが望むなら、好きな方でいいんだと思う。私は、三鹿野さんたちを通して、いろんな笑顔があることを知った。私にとっては、1つの笑顔が全てだったから。それに私も縛られていたのかもしれない」
リコは少しずつ、自分の中のことを言葉に出しながら、苦しくならないか確認して吐き出しているように見える。
「私にもいろんな笑顔があるのか、そういう笑顔を引き出せる力はあるのか、少し興味を持った時に、マンタ君と出会って、あとはアルトが話してくれたように頑張ってみて、私も笑顔の一部になれた気がしたの」
「……笑顔の一部。確かに、そうだね」
笑顔は伝染する。
友達が笑い出せば、なんだかこっちも楽しくなってくる。時間を物語を共有することで、自然と笑うタイミングも似てくるものだ。
笑顔の一部とは、一緒にナニカを成し遂げた後の笑顔は、それは共有された笑顔なのかもしれない。
オリンピックで金メダルを取った時、それは自分だけの功績じゃないと、よくインタビューで言っている。そこにある笑顔は、まさにみんなの笑顔、そういうことなんだろう。
「お婆ちゃんも、安心のためにお爺ちゃんを求めて彷徨ってしまうから、新渡さんがいることで安心してお爺ちゃんを探せる、そんな風に変わっていった気がしたの」
「うん、あの時のお婆ちゃんの表情は、笑ってないけど笑ってるようにも見えたもんね」
「……うん。それは、新渡さんやアルトの笑顔が反射してそうみえたのかもしれない。月のように、そうやって、笑顔は共有されて、伝わっていくのかも」
笑顔は反射して伝わる……。確かに、急に誰かが笑いだしたら、何がそんなに面白いんだろう? 何がそんなに楽しいんだろう? と僕なりの視点で考える。その人が近しい人なら尚更だ。
そこで辿り着いたものによって、僕にも笑顔が伝わっていくのかもしれない。
僕が、リコとお助けをしようと思ったきっかけも、僕が笑顔になる時はお助けの時が多いと思ったからだ。
そう、助けた人たちの笑顔が僕にも伝わった。それを僕はリコに伝えようと思ったんだ。
「笑顔は伝わる、確かにそうだって思うよ。だからこそ、僕は、リコの笑顔のためにも、いろんな人を助けて、笑顔を引き出せればと、確かに、今思えばそう思ってたんだと思う」
「うん、まだ私にはみんなの笑顔は届いてないのか……ううん、きっと届いているんだと思いたい。自分で自分を邪魔してしまっているのかもしれない」
僕は、今日、長い間見て見ぬ振りをしていた自分と向き合い、自分が意識的に無意識に作り上げていた虚構と、少し距離を置いて見ることができるようになった。違った視点で解釈で見ることができるようになった。
リコはずっと自分と向き合ってきたはずだ。僕みたいにそんな簡単に自分の虚構を脇に置くことなんて、違う視点で見ることなんてできないのかもしれない。
きっと、リコは自分の邪魔を排除しようとすると苦しくなってしまう。向き合いきらなきゃいけないのかもしれない。
「リコは、僕の過去の話で怒ってくれた。それは僕の悲しみが伝わったからなのかな? 僕も届いてるんじゃないかと思うよ。リコの声が僕にもきちんと届くように、たとえ邪魔が入ったとしてもきっと聞き逃さないようにするよ」
「アルトの話を聞いて、ヒモが切れたのを見ていて、ナニカ新しく始まった気がしたの。アルトの中ではまだ解決していないのかもしれない。でも、ナニカが変わったと思ったの。それは、アルトの利他の精神の根っこと、その過程と向き合えたからなのかなと思うの。だから、笑えなくなった日のことを、それまでの過程を、もう一度、向き合ってみようと思うの」
僕の利他の精神……そう言ってもらえるととても嬉しい。その言葉だけでも、だいぶ救われる気がする。
この1週間、いろんなお助けをする中で、いろんな人たちの人生を、悩みを、その過程を知った。
確かに、自分の源泉、そしてその過程と向き合えるのなら、ナニカが始まるのかもしれない。
「うん、僕もリコと向き合うよ」
「うん、私もアルトの葛藤を見ていて今までとは違う向き合い方をしていくべきなのかなと思えたの。ただ自分と向き合うだけじゃなく、あなたを今までを通して自分と向き合おうと思ったの」
「無理しない範囲で……是非話を聞かせて」
「うん……嫌じゃなかったら……なんだけど。前の西の公園でしてくれたこと……こうしてもらえると少し落ち着くの……してもいい?」
そう言って、リコは僕の腕を引き寄せる。まるで、僕がリコを抱きしめるように……
下を俯くリコを僕は横から見つめる。僕の腕はマフラーのように下からリコの小さな手で掴まれ、口元に引き寄せられている。マスクから覗く少し赤らんだ頬に僕の息が当たって跳ね返る。
僕は僕とも向き合う、僕はリコと向き合えるんだろうか。
「……こ、これで、落ち着くんだよね?」
「うん……落ち着く」
落ち着くリコ、落ち着かない僕。
その横で、リコは静かに話し出してくれた。
リコは、この世の終わりかのようにしょんぼりしきっている。
笑顔以外のさまざまな表情が芽吹き始めているように見える。
きっとこの子は、加減を知らずに生きてきたのかもしれない。この子は僕の逆で自分の中に閉じこもっていたんだから。
とはいえ、あの力は本気だった……だからこそ、届くものがあったのかもしれない。
「ううん……僕の方こそごめん。自分のことを話すのはあまり慣れてなくて、情けなかったよ。このミサンガもきっと切れる時だったんだと思う。もしかしたら願いが叶ったのかもしれないし……それにまだ家にも余っているし、まだ縛られ続ける必要はないのかもしれないけど」
「本当にごめんなさい……アルトがそう言ってくれるなら、このヒモは一つの役目を終えてくれたのかもしれない。確かに縛っていたこともあるのかもしれない。でも、私も含めて、いろんな人とを繋ぐ役割も果たしてくれていたとも思うの。縛ると繋ぐは近そうな意味でもその印象はとても違う」
「願いを込める、願いに縛られるのではなくて、願いを繋いでくれた、シェアしてくれたのか……」
リコは、落ちたヒモを拾い上げて、ハンカチに包んで渡してくれた。
僕は、形見のような物として、このヒモに願いという贖罪の意を込めて腕に巻きつけていた。
『縛られている』としたらそうだったのかもしれない。むしろそう感じていたと思う。そのために、僕は人助けを買って出た。
でも『繋いでくれる』としたら、そうとも捉えられる。僕は今までたくさんの人と関わりを持てた。特にこのリコと出会えてからの1週間は濃厚だった。
意味は付け替えられる。僕にとってずっしり重く感じていたそのヒモは、今は、優しく感じる。
お母さんとお父さんの死を、自分のせいだとずっと思っていた。そうではないと……まだそんなふうになんては思えない……
でも、自分が納得できる、僕の中のお母さんとお父さんが笑ってくれる、そんなふうに思える時がくるのかもしれないし、そうなるまで何度でも向き合って行けばいいのかもしれない。
ただ、今まで積み上げてきたものだけに従っていく必要はない、僕はそれが全てではないはずなんだから。
僕は、このヒモの役割が『縛っている』と『繋いでくれる』での、虚構の変化を感じていた。
「アルトが向き合ったんだし、私ももう一度向き合ってみないと……」
「……また苦しくならない?」
リコは、胸を少しおさえながら、確かめているように見える。
「うん、きっと大丈夫だと思う。アルトが私の表情が少しずつ変わってきてるように見えると言ってくれたように、私自身としてもこの1週間できっと少しずつ変わってこれてると、自分でも思うの」
「うん、この1週間は、深かったよ」
改めて思い出すと、いろんな感情が渦巻く日々だったと思う。
表面には出てこなかっただけで、リコもきっと同じなんだろう。
「これまで私は自分の世界が全てだったの。そうしないと自分を保っていけなかった。アルトを通して他者の世界が見えた時、そこはとても綺麗に見えた。私の知る世界とは違うように見えたの」
「僕の見えてた世界は、そんなに輝かしいものとは思えなかったけど、リコから見るとそうだったのかもしれないし、僕から見てもそうあるべきだったのかもしれないね」
「アルトが望むなら、好きな方でいいんだと思う。私は、三鹿野さんたちを通して、いろんな笑顔があることを知った。私にとっては、1つの笑顔が全てだったから。それに私も縛られていたのかもしれない」
リコは少しずつ、自分の中のことを言葉に出しながら、苦しくならないか確認して吐き出しているように見える。
「私にもいろんな笑顔があるのか、そういう笑顔を引き出せる力はあるのか、少し興味を持った時に、マンタ君と出会って、あとはアルトが話してくれたように頑張ってみて、私も笑顔の一部になれた気がしたの」
「……笑顔の一部。確かに、そうだね」
笑顔は伝染する。
友達が笑い出せば、なんだかこっちも楽しくなってくる。時間を物語を共有することで、自然と笑うタイミングも似てくるものだ。
笑顔の一部とは、一緒にナニカを成し遂げた後の笑顔は、それは共有された笑顔なのかもしれない。
オリンピックで金メダルを取った時、それは自分だけの功績じゃないと、よくインタビューで言っている。そこにある笑顔は、まさにみんなの笑顔、そういうことなんだろう。
「お婆ちゃんも、安心のためにお爺ちゃんを求めて彷徨ってしまうから、新渡さんがいることで安心してお爺ちゃんを探せる、そんな風に変わっていった気がしたの」
「うん、あの時のお婆ちゃんの表情は、笑ってないけど笑ってるようにも見えたもんね」
「……うん。それは、新渡さんやアルトの笑顔が反射してそうみえたのかもしれない。月のように、そうやって、笑顔は共有されて、伝わっていくのかも」
笑顔は反射して伝わる……。確かに、急に誰かが笑いだしたら、何がそんなに面白いんだろう? 何がそんなに楽しいんだろう? と僕なりの視点で考える。その人が近しい人なら尚更だ。
そこで辿り着いたものによって、僕にも笑顔が伝わっていくのかもしれない。
僕が、リコとお助けをしようと思ったきっかけも、僕が笑顔になる時はお助けの時が多いと思ったからだ。
そう、助けた人たちの笑顔が僕にも伝わった。それを僕はリコに伝えようと思ったんだ。
「笑顔は伝わる、確かにそうだって思うよ。だからこそ、僕は、リコの笑顔のためにも、いろんな人を助けて、笑顔を引き出せればと、確かに、今思えばそう思ってたんだと思う」
「うん、まだ私にはみんなの笑顔は届いてないのか……ううん、きっと届いているんだと思いたい。自分で自分を邪魔してしまっているのかもしれない」
僕は、今日、長い間見て見ぬ振りをしていた自分と向き合い、自分が意識的に無意識に作り上げていた虚構と、少し距離を置いて見ることができるようになった。違った視点で解釈で見ることができるようになった。
リコはずっと自分と向き合ってきたはずだ。僕みたいにそんな簡単に自分の虚構を脇に置くことなんて、違う視点で見ることなんてできないのかもしれない。
きっと、リコは自分の邪魔を排除しようとすると苦しくなってしまう。向き合いきらなきゃいけないのかもしれない。
「リコは、僕の過去の話で怒ってくれた。それは僕の悲しみが伝わったからなのかな? 僕も届いてるんじゃないかと思うよ。リコの声が僕にもきちんと届くように、たとえ邪魔が入ったとしてもきっと聞き逃さないようにするよ」
「アルトの話を聞いて、ヒモが切れたのを見ていて、ナニカ新しく始まった気がしたの。アルトの中ではまだ解決していないのかもしれない。でも、ナニカが変わったと思ったの。それは、アルトの利他の精神の根っこと、その過程と向き合えたからなのかなと思うの。だから、笑えなくなった日のことを、それまでの過程を、もう一度、向き合ってみようと思うの」
僕の利他の精神……そう言ってもらえるととても嬉しい。その言葉だけでも、だいぶ救われる気がする。
この1週間、いろんなお助けをする中で、いろんな人たちの人生を、悩みを、その過程を知った。
確かに、自分の源泉、そしてその過程と向き合えるのなら、ナニカが始まるのかもしれない。
「うん、僕もリコと向き合うよ」
「うん、私もアルトの葛藤を見ていて今までとは違う向き合い方をしていくべきなのかなと思えたの。ただ自分と向き合うだけじゃなく、あなたを今までを通して自分と向き合おうと思ったの」
「無理しない範囲で……是非話を聞かせて」
「うん……嫌じゃなかったら……なんだけど。前の西の公園でしてくれたこと……こうしてもらえると少し落ち着くの……してもいい?」
そう言って、リコは僕の腕を引き寄せる。まるで、僕がリコを抱きしめるように……
下を俯くリコを僕は横から見つめる。僕の腕はマフラーのように下からリコの小さな手で掴まれ、口元に引き寄せられている。マスクから覗く少し赤らんだ頬に僕の息が当たって跳ね返る。
僕は僕とも向き合う、僕はリコと向き合えるんだろうか。
「……こ、これで、落ち着くんだよね?」
「うん……落ち着く」
落ち着くリコ、落ち着かない僕。
その横で、リコは静かに話し出してくれた。
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