43 / 61
第四話⑪
しおりを挟む
「何だ、桐枝」
やはり保健室での一件を忘れていなかったのかと一成は身構えたが、生真面目そうな口元から出てきた言葉は予想外のことだった。
「先生は……どうして教師になったんですか?」
伝馬は言い淀むようにいったん言葉を切るが、すぐに続ける。
「どうして、日本史なんですか?」
一成は小さく目を見開く。シルバーのハイエースが忙しそうに通って行き、一成はさらに車道の端に寄って後ろにいる伝馬に話しかける。
「どうしてそんなことを聞くんだ」
何となくだが予想はつく。教師になってから数年、度々同じことを生徒たちから質問されてきた。
「……いえ、あの」
伝馬は言葉を濁して俯く。どうも何と言おうかと悩んでいる様子で、言葉を探すように下を向いている視線が彷徨っている。
一成は忍び笑いする。
「不思議なのか? 俺が日本史の教師をしているのが」
そのことを質問する時、なぜかみんな目の前の伝馬と同じ態度になる。そんなに聞きにくいことなのかなと毎回疑問に思う一成である。
「あ……そう、そうです」
伝馬は顔を上げて、溺れていた海で浮き輪を投げ入れられたようにホッとしたような表情を浮かべる。
「不思議というか……副島先生に似合わない感じで」
「――そうか」
一成は粛々と頷いた。本当に言葉を選ばない直球な奴だと呆れながらも感心した。今までに「センセー、どうしてセンセ―はセンセ―になったんですかー?」というユルユル系から「先生が教職を目指した理由をお聞きしたいんです。聞くまでここを動きません」というガンコイッテツ系まで色々といたが、伝馬のように似合わないとぶっちゃけた生徒はいなかった。だが態度や言葉でオブラートに包みながらも、なぜ自分が教職を選んだのかを質問してくるのは、結局そういうことなんだろうと感じていた。
それにしてもと、一成は歩きながら指先で顎のあたりを撫でる。そんなに俺は教師のイメージじゃないのか?
「先生、副島先生」
背後から伝馬が必死に呼ぶ。一般的な教師の理想像をあれこれ考えていた一成は、うんと振り返る。
「あの、変なことを聞いてすみません! やっぱりいいです!」
ハンドルを握りながら前のめりで頭を下げる。一成は笑い飛ばした。
「謝らなくていいぞ、桐枝。みんな俺に同じことを聞いてくるから」
素直で真面目な奴だと改めて思った。いい傾向だ。
恐る恐る伝馬は顔を上げる。
「そうなんですか」
「そうだ。よほど気になるんだな」
一成は明るく返す。伝馬が気に病まないように、何てことのない他愛のない話だという雰囲気をつくる。
やはり保健室での一件を忘れていなかったのかと一成は身構えたが、生真面目そうな口元から出てきた言葉は予想外のことだった。
「先生は……どうして教師になったんですか?」
伝馬は言い淀むようにいったん言葉を切るが、すぐに続ける。
「どうして、日本史なんですか?」
一成は小さく目を見開く。シルバーのハイエースが忙しそうに通って行き、一成はさらに車道の端に寄って後ろにいる伝馬に話しかける。
「どうしてそんなことを聞くんだ」
何となくだが予想はつく。教師になってから数年、度々同じことを生徒たちから質問されてきた。
「……いえ、あの」
伝馬は言葉を濁して俯く。どうも何と言おうかと悩んでいる様子で、言葉を探すように下を向いている視線が彷徨っている。
一成は忍び笑いする。
「不思議なのか? 俺が日本史の教師をしているのが」
そのことを質問する時、なぜかみんな目の前の伝馬と同じ態度になる。そんなに聞きにくいことなのかなと毎回疑問に思う一成である。
「あ……そう、そうです」
伝馬は顔を上げて、溺れていた海で浮き輪を投げ入れられたようにホッとしたような表情を浮かべる。
「不思議というか……副島先生に似合わない感じで」
「――そうか」
一成は粛々と頷いた。本当に言葉を選ばない直球な奴だと呆れながらも感心した。今までに「センセー、どうしてセンセ―はセンセ―になったんですかー?」というユルユル系から「先生が教職を目指した理由をお聞きしたいんです。聞くまでここを動きません」というガンコイッテツ系まで色々といたが、伝馬のように似合わないとぶっちゃけた生徒はいなかった。だが態度や言葉でオブラートに包みながらも、なぜ自分が教職を選んだのかを質問してくるのは、結局そういうことなんだろうと感じていた。
それにしてもと、一成は歩きながら指先で顎のあたりを撫でる。そんなに俺は教師のイメージじゃないのか?
「先生、副島先生」
背後から伝馬が必死に呼ぶ。一般的な教師の理想像をあれこれ考えていた一成は、うんと振り返る。
「あの、変なことを聞いてすみません! やっぱりいいです!」
ハンドルを握りながら前のめりで頭を下げる。一成は笑い飛ばした。
「謝らなくていいぞ、桐枝。みんな俺に同じことを聞いてくるから」
素直で真面目な奴だと改めて思った。いい傾向だ。
恐る恐る伝馬は顔を上げる。
「そうなんですか」
「そうだ。よほど気になるんだな」
一成は明るく返す。伝馬が気に病まないように、何てことのない他愛のない話だという雰囲気をつくる。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる