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第二話③
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だが無言になった伝馬の思考を叩き割ったのは、くっと顎をあげた男性の怒りに満ちた眼差しと「馬鹿野郎!」という罵声だった。
「桐枝伝馬!」
突然名前を大声で呼ばれて、伝馬はえっ? と目を大きくする。
「入学式があると分かっているのに、花見をしながら散歩している呑気な新入生を見たのは、お前が初めてだ」
男性はストレートな言い方という表現を軽く飛び越えて、大根をこま切れするような容赦のなさで切って捨てる。ええっ? と再び啞然となった伝馬は、呑気に花見なんかしていないと果敢に反論しようとしたが口がうまく回らない。と、男性がくるりと背を向けて言い放った。
「行くぞ! 走れ!」
光沢ある革靴で猛然と走り始める。
だが伝馬は事の成り行きについて行けず、呆然と立ち尽くす。って、あの人だれ? という初歩的なクエスチョンマークが頭の中を駆け巡る。
男性はすぐに立ち止まった。伝馬がついてこないので、こちらも驚いたように振り返る。
「早く走れ! 入学式はもうすぐに始まるぞ! お前はそれに出席するんだろう!」
指を延ばして校舎をさす。
伝馬はその言葉でスイッチが入った。入学式に遅れる! と認識した瞬間に走り出した。
家から吾妻学園までも走ってきた伝馬である。当然疲れていたが、ちょっと休息が取れたので疲労回復になった。
伝馬が走り出したので、男性もまた走り始める。走るのが速い伝馬はあっと間に男性に追いついた。
「すみません、あの」
楽々と男性を追い抜けたが、どのように行けばよいのかわからなかったので、男性と肩を並べて走る。
「何だ」
男性は声だけで応じる。その横顔は怒っているというよりも、若干焦っているように見える。
「ちょっと聞きたいことがあるんです」
「だから、何だ」
男性の息遣いが少し乱れる。あまり運動が得意じゃないのかなと伝馬は思った。スポーツもしくは武道もイケる体に見えるのだが。
「すみません」
伝馬はなぜか申し訳なさを感じて謝る。すると男性はふうっと息を吐き出して、首を回して伝馬を見る。
「別に謝られることはしていない」
言い方は不愛想だが、眼差しは優しく温かい。
「それより、聞きたいことは何だ」
校舎の角を曲がる。視界に入ってきたのは昇降口だ。
「あの……」
伝馬は照れ隠しで俯く。最初はおっかなく感じたが、桜の花弁がよく似合ってほんとは優しい人――何だか胸の中がじわじわと熱くなるのを感じながら尋ねた。
「あなた、誰なんですか」
男性は伝馬をちらりと見ると、呆れたように苦笑いした。
「お前の担任だ」
それが副島一成との出会いだった。
「桐枝伝馬!」
突然名前を大声で呼ばれて、伝馬はえっ? と目を大きくする。
「入学式があると分かっているのに、花見をしながら散歩している呑気な新入生を見たのは、お前が初めてだ」
男性はストレートな言い方という表現を軽く飛び越えて、大根をこま切れするような容赦のなさで切って捨てる。ええっ? と再び啞然となった伝馬は、呑気に花見なんかしていないと果敢に反論しようとしたが口がうまく回らない。と、男性がくるりと背を向けて言い放った。
「行くぞ! 走れ!」
光沢ある革靴で猛然と走り始める。
だが伝馬は事の成り行きについて行けず、呆然と立ち尽くす。って、あの人だれ? という初歩的なクエスチョンマークが頭の中を駆け巡る。
男性はすぐに立ち止まった。伝馬がついてこないので、こちらも驚いたように振り返る。
「早く走れ! 入学式はもうすぐに始まるぞ! お前はそれに出席するんだろう!」
指を延ばして校舎をさす。
伝馬はその言葉でスイッチが入った。入学式に遅れる! と認識した瞬間に走り出した。
家から吾妻学園までも走ってきた伝馬である。当然疲れていたが、ちょっと休息が取れたので疲労回復になった。
伝馬が走り出したので、男性もまた走り始める。走るのが速い伝馬はあっと間に男性に追いついた。
「すみません、あの」
楽々と男性を追い抜けたが、どのように行けばよいのかわからなかったので、男性と肩を並べて走る。
「何だ」
男性は声だけで応じる。その横顔は怒っているというよりも、若干焦っているように見える。
「ちょっと聞きたいことがあるんです」
「だから、何だ」
男性の息遣いが少し乱れる。あまり運動が得意じゃないのかなと伝馬は思った。スポーツもしくは武道もイケる体に見えるのだが。
「すみません」
伝馬はなぜか申し訳なさを感じて謝る。すると男性はふうっと息を吐き出して、首を回して伝馬を見る。
「別に謝られることはしていない」
言い方は不愛想だが、眼差しは優しく温かい。
「それより、聞きたいことは何だ」
校舎の角を曲がる。視界に入ってきたのは昇降口だ。
「あの……」
伝馬は照れ隠しで俯く。最初はおっかなく感じたが、桜の花弁がよく似合ってほんとは優しい人――何だか胸の中がじわじわと熱くなるのを感じながら尋ねた。
「あなた、誰なんですか」
男性は伝馬をちらりと見ると、呆れたように苦笑いした。
「お前の担任だ」
それが副島一成との出会いだった。
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