14 / 57
第二話③
しおりを挟む
だが無言になった伝馬の思考を叩き割ったのは、くっと顎をあげた男性の怒りに満ちた眼差しと「馬鹿野郎!」という罵声だった。
「桐枝伝馬!」
突然名前を大声で呼ばれて、伝馬はえっ? と目を大きくする。
「入学式があると分かっているのに、花見をしながら散歩している呑気な新入生を見たのは、お前が初めてだ」
男性はストレートな言い方という表現を軽く飛び越えて、大根をこま切れするような容赦のなさで切って捨てる。ええっ? と再び啞然となった伝馬は、呑気に花見なんかしていないと果敢に反論しようとしたが口がうまく回らない。と、男性がくるりと背を向けて言い放った。
「行くぞ! 走れ!」
光沢ある革靴で猛然と走り始める。
だが伝馬は事の成り行きについて行けず、呆然と立ち尽くす。って、あの人だれ? という初歩的なクエスチョンマークが頭の中を駆け巡る。
男性はすぐに立ち止まった。伝馬がついてこないので、こちらも驚いたように振り返る。
「早く走れ! 入学式はもうすぐに始まるぞ! お前はそれに出席するんだろう!」
指を延ばして校舎をさす。
伝馬はその言葉でスイッチが入った。入学式に遅れる! と認識した瞬間に走り出した。
家から吾妻学園までも走ってきた伝馬である。当然疲れていたが、ちょっと休息が取れたので疲労回復になった。
伝馬が走り出したので、男性もまた走り始める。走るのが速い伝馬はあっと間に男性に追いついた。
「すみません、あの」
楽々と男性を追い抜けたが、どのように行けばよいのかわからなかったので、男性と肩を並べて走る。
「何だ」
男性は声だけで応じる。その横顔は怒っているというよりも、若干焦っているように見える。
「ちょっと聞きたいことがあるんです」
「だから、何だ」
男性の息遣いが少し乱れる。あまり運動が得意じゃないのかなと伝馬は思った。スポーツもしくは武道もイケる体に見えるのだが。
「すみません」
伝馬はなぜか申し訳なさを感じて謝る。すると男性はふうっと息を吐き出して、首を回して伝馬を見る。
「別に謝られることはしていない」
言い方は不愛想だが、眼差しは優しく温かい。
「それより、聞きたいことは何だ」
校舎の角を曲がる。視界に入ってきたのは昇降口だ。
「あの……」
伝馬は照れ隠しで俯く。最初はおっかなく感じたが、桜の花弁がよく似合ってほんとは優しい人――何だか胸の中がじわじわと熱くなるのを感じながら尋ねた。
「あなた、誰なんですか」
男性は伝馬をちらりと見ると、呆れたように苦笑いした。
「お前の担任だ」
それが副島一成との出会いだった。
「桐枝伝馬!」
突然名前を大声で呼ばれて、伝馬はえっ? と目を大きくする。
「入学式があると分かっているのに、花見をしながら散歩している呑気な新入生を見たのは、お前が初めてだ」
男性はストレートな言い方という表現を軽く飛び越えて、大根をこま切れするような容赦のなさで切って捨てる。ええっ? と再び啞然となった伝馬は、呑気に花見なんかしていないと果敢に反論しようとしたが口がうまく回らない。と、男性がくるりと背を向けて言い放った。
「行くぞ! 走れ!」
光沢ある革靴で猛然と走り始める。
だが伝馬は事の成り行きについて行けず、呆然と立ち尽くす。って、あの人だれ? という初歩的なクエスチョンマークが頭の中を駆け巡る。
男性はすぐに立ち止まった。伝馬がついてこないので、こちらも驚いたように振り返る。
「早く走れ! 入学式はもうすぐに始まるぞ! お前はそれに出席するんだろう!」
指を延ばして校舎をさす。
伝馬はその言葉でスイッチが入った。入学式に遅れる! と認識した瞬間に走り出した。
家から吾妻学園までも走ってきた伝馬である。当然疲れていたが、ちょっと休息が取れたので疲労回復になった。
伝馬が走り出したので、男性もまた走り始める。走るのが速い伝馬はあっと間に男性に追いついた。
「すみません、あの」
楽々と男性を追い抜けたが、どのように行けばよいのかわからなかったので、男性と肩を並べて走る。
「何だ」
男性は声だけで応じる。その横顔は怒っているというよりも、若干焦っているように見える。
「ちょっと聞きたいことがあるんです」
「だから、何だ」
男性の息遣いが少し乱れる。あまり運動が得意じゃないのかなと伝馬は思った。スポーツもしくは武道もイケる体に見えるのだが。
「すみません」
伝馬はなぜか申し訳なさを感じて謝る。すると男性はふうっと息を吐き出して、首を回して伝馬を見る。
「別に謝られることはしていない」
言い方は不愛想だが、眼差しは優しく温かい。
「それより、聞きたいことは何だ」
校舎の角を曲がる。視界に入ってきたのは昇降口だ。
「あの……」
伝馬は照れ隠しで俯く。最初はおっかなく感じたが、桜の花弁がよく似合ってほんとは優しい人――何だか胸の中がじわじわと熱くなるのを感じながら尋ねた。
「あなた、誰なんですか」
男性は伝馬をちらりと見ると、呆れたように苦笑いした。
「お前の担任だ」
それが副島一成との出会いだった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる