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第一話⑤

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「もしかして、お前も昔、ウィルスに感染したことがあるのか?」
「ない」

 一成は言下で否定した。

「あるわけないだろう」
「そうだよな。お前みたいな雑で気の荒い奴には及びでないデリケートな話だよな」

 順慶も当然のように頷く。

「悪かったな」

 一成はいくぶん気分を悪くしたが、順慶の言葉には少しだけ警戒した。デリカシーに欠けていると生徒たちからは評判のこの教師は、それと同時に実は洞察力が鋭いのである。

「ま、頑張れや」

 ぽんと手土産を置くような軽さでそう言うと、順慶は顔を引っ込めて、また昼寝の体勢に入った。
 一成も窓辺から離れて、衝立を戻し、またソファーに腰を下ろす。石のようにかたい感触がソファーの古さを物語っているが、もう慣れているので気にもしていない。だが、知らない人間が普通に座ったら、柔らかさにはほど遠い座り心地にびっくりするのではないか。
 ちょっと前まで、自分の前に座っていた生徒はそんな素振りを微塵も見せなかったことに、今になって気がついた。



 綾野勇太ゆうたは一年三組の教室のドアから顔だけ覗かせて、廊下をきょろきょろと見渡す。お昼時間もそろそろ終わる頃で、出かけていた生徒たちが教室に戻り始めている。三組にも何人か帰ってきているが、まだ半数しかいない。友人の藤島圭も図書室から帰ってきていないが、もう一人の親友の姿がずっと見えなくて、勇太は心配していた。

「どこ行ったんだろう……」

 もしかして、どこかで迷っているのかもと、勇太は閃いた。自分もいまだに校舎内で道に迷うのである。圭に言わせれば、そんなの勇太だけなそうだが、もしかして、もしかして、もしかしなくてもそうなのかもしれないと思っていると、階段がある奥の廊下から探していた姿が見えてきて、慌てて教室を飛び出た。

「伝馬!」

 勇太はすれ違う生徒を避けながら、小走りに駆け寄る。

「どこ行ってたの? 姿が見えないから心配してたんだよ!」

 二人は幼馴染みで、幼稚園も小学校も中学校も一緒だった仲である。いつも無邪気にドジる勇太と、何やってんだと言いながら毎回世話を焼く伝馬は、まるで少年漫画に出てくるような凸凹コンビで、知り合ってまた一ヶ月しか経っていない圭からも、一生腐った縁が続くねとシュールなコメントを頂戴している。
 そんな間柄なので、互いに気を遣うこともなく、思ったことをズケズケと吐き出すのだが、伝馬はまとわりついてきた勇太を無視して歩いた。

「……伝馬?」

 様子がちょっとおかしいことに勇太も気がついた。何やら、近寄りがたいオーラを出している。だが腐った縁の友人は気にせず追いかけた。
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