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ゴースト、人を諭す
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虫の鳴き声が聞こえた。
ランプを片手に森を掻き分けながら、ソフィーはとにかく目的の薬草を採取し続けた。
頭上には白く輝く銀貨のような月が浮かんでいる。
夜中の森は闇に閉ざされており、モンスターがうろついている。
襲われれば、自分ではひとたまりもなく殺されるだろう。
隣にいるトマスは、護衛などではなく、ソフィーの仕事を見張っているだけだ。
だからモンスターが襲ってくれば、トマスはいの一番に逃げ出すだろう。
ソフィーを置き去りにして。むしろ、モンスターの囮役として使うはずだ。
モンスターが潜んでいないかと気にかけながら、ソフィーが身体を屈めて茂みの中へと分け入る。
目的の薬草は、木々の根の間や茂みの下に自生していることが多いので、
こんな暗い場所では探すのも一苦労した。
それならば、昼間やればいいんじゃないかと他者は思うだろうが、
ソフィーは夜だけではなく、朝も昼も薬草摘みに明け暮れていた。
「おい、まだ集まらねえのかっ」
トマスは幼い少女に対して怒鳴り声を張り上げた。
ソフィーはトマスに向かって、もう少しだけ待ってくださいと頭を下げた。
「さっさとしろよ、このグズガキがっ、俺を怒らせてえのかっっ」
トマスが苛立ち混じりにぺっと唾を吐く。
「すいませんっ、すいませんっ」
ソフィーは何度も詫びの言葉を吐いた。
トマスの癇に障れば、こっ酷く痛めつけられるのをソフィーはその身を持って知っていた。
元々ソフィーは村生まれの娘で、母親と一緒に得意の薬草摘みを生業にしながら暮らしていた。
ソフィーは薬草の知識に関しては、村の誰よりも詳しかった。
だから村人達にも大事にされ、母と娘のふたり暮らしでもそれほど不自由なく生きてこれた。
村は比較的平和で豊かだった。このまま、穏やかに村で過ごしていけたらいいなと思っていた。
だが、三ヶ月ほど前に村が盗賊に襲われ、母親は犯された上に殺された。
そしてソフィーは盗賊に攫われた。
母親を殺し、ソフィーを攫ったのが、少女の目の前にいる男──トマスだ。
そんなトマスはソフィーを奴隷としてこき使い、金を稼がせている。
ソフィーが稼いだ金はトマスが一銭残らず巻き上げて、その懐に収めた。
この世は弱肉強食だ。力の弱いソフィーは、力の強いトマスに食物にされた。
「とっとと薬草を集めろっ、グズグズするんじゃねえぞっ」
手伝うこともせず、ただ、怒鳴り散らすだけのトマス。
そのトマスに対して無言で従うことしかできない無力なソフィー。
ソフィーはただ、ただ、トマスの怒りを静めるために頭を下げ続けた。
その時、どこからともなく現れたゴーストが、不意にふたりの前に飛び込んできた。
ゴーストはトマスの目前で、その黒い影のような姿を揺らした。
「そこの少女はお前と同じ感情と意識を有している」
突然、ゴーストに語りかけられ、トマスは驚きの表情を浮かべた。
「お前にとってはただの仮想現実のキャラでも、彼女は間違いなくこの世界では生きている存在だ」
トマスは、何を言われているのか理解できないと言いたげな顔つきになると、
ゴーストが話をしている最中にさっさとその場から逃げ出そうとした。
ゴーストは慌てずにトマスの背後に張り付き、
「とりあえず、このゲームから一旦離れて見るといい。何かもっと生産的なことをしてみろ」
と告げると影で作った斧を振り下ろし、相手の脳天を叩き割った。
「くそっ、何なんだっ、あのモンスターっ」
突然現れた意味不明な話をする見たこともないモンスターに自分のゲームキャラを殺された。
ダークネスワールドオンラインのモンスターは、本来なら喋らないはずだが。
バグモンスターか、それとも新しく追加されたユニークモンスターか。
全く冗談じゃない。折角、金を稼げる奴隷を手に入れたというのに、キャラがロストしてしまった。
ヘッドギアを脱ぎ捨てると、吉川は爪を噛んだ。これでまた始めから奴隷狩りをしなければならない。
だが、使える奴隷はそう易々とは見つからない。
「ああっ、くそっ、むかつくなあっ」
ベッドで地団駄を踏み、悔しがると吉川はそのまま、不貞寝することにした。
「ああ、つまんねえな……制限取れるまで他のゲームでもやってっか」
ランプを片手に森を掻き分けながら、ソフィーはとにかく目的の薬草を採取し続けた。
頭上には白く輝く銀貨のような月が浮かんでいる。
夜中の森は闇に閉ざされており、モンスターがうろついている。
襲われれば、自分ではひとたまりもなく殺されるだろう。
隣にいるトマスは、護衛などではなく、ソフィーの仕事を見張っているだけだ。
だからモンスターが襲ってくれば、トマスはいの一番に逃げ出すだろう。
ソフィーを置き去りにして。むしろ、モンスターの囮役として使うはずだ。
モンスターが潜んでいないかと気にかけながら、ソフィーが身体を屈めて茂みの中へと分け入る。
目的の薬草は、木々の根の間や茂みの下に自生していることが多いので、
こんな暗い場所では探すのも一苦労した。
それならば、昼間やればいいんじゃないかと他者は思うだろうが、
ソフィーは夜だけではなく、朝も昼も薬草摘みに明け暮れていた。
「おい、まだ集まらねえのかっ」
トマスは幼い少女に対して怒鳴り声を張り上げた。
ソフィーはトマスに向かって、もう少しだけ待ってくださいと頭を下げた。
「さっさとしろよ、このグズガキがっ、俺を怒らせてえのかっっ」
トマスが苛立ち混じりにぺっと唾を吐く。
「すいませんっ、すいませんっ」
ソフィーは何度も詫びの言葉を吐いた。
トマスの癇に障れば、こっ酷く痛めつけられるのをソフィーはその身を持って知っていた。
元々ソフィーは村生まれの娘で、母親と一緒に得意の薬草摘みを生業にしながら暮らしていた。
ソフィーは薬草の知識に関しては、村の誰よりも詳しかった。
だから村人達にも大事にされ、母と娘のふたり暮らしでもそれほど不自由なく生きてこれた。
村は比較的平和で豊かだった。このまま、穏やかに村で過ごしていけたらいいなと思っていた。
だが、三ヶ月ほど前に村が盗賊に襲われ、母親は犯された上に殺された。
そしてソフィーは盗賊に攫われた。
母親を殺し、ソフィーを攫ったのが、少女の目の前にいる男──トマスだ。
そんなトマスはソフィーを奴隷としてこき使い、金を稼がせている。
ソフィーが稼いだ金はトマスが一銭残らず巻き上げて、その懐に収めた。
この世は弱肉強食だ。力の弱いソフィーは、力の強いトマスに食物にされた。
「とっとと薬草を集めろっ、グズグズするんじゃねえぞっ」
手伝うこともせず、ただ、怒鳴り散らすだけのトマス。
そのトマスに対して無言で従うことしかできない無力なソフィー。
ソフィーはただ、ただ、トマスの怒りを静めるために頭を下げ続けた。
その時、どこからともなく現れたゴーストが、不意にふたりの前に飛び込んできた。
ゴーストはトマスの目前で、その黒い影のような姿を揺らした。
「そこの少女はお前と同じ感情と意識を有している」
突然、ゴーストに語りかけられ、トマスは驚きの表情を浮かべた。
「お前にとってはただの仮想現実のキャラでも、彼女は間違いなくこの世界では生きている存在だ」
トマスは、何を言われているのか理解できないと言いたげな顔つきになると、
ゴーストが話をしている最中にさっさとその場から逃げ出そうとした。
ゴーストは慌てずにトマスの背後に張り付き、
「とりあえず、このゲームから一旦離れて見るといい。何かもっと生産的なことをしてみろ」
と告げると影で作った斧を振り下ろし、相手の脳天を叩き割った。
「くそっ、何なんだっ、あのモンスターっ」
突然現れた意味不明な話をする見たこともないモンスターに自分のゲームキャラを殺された。
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ヘッドギアを脱ぎ捨てると、吉川は爪を噛んだ。これでまた始めから奴隷狩りをしなければならない。
だが、使える奴隷はそう易々とは見つからない。
「ああっ、くそっ、むかつくなあっ」
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