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第三章

洞窟を渡れその最後

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そんなことを考えていると、カツカツと足音が聞こえてきた。
だが、足音はアーヴィンが向かった先とは反対側からだった。

セシルは身構えた。倒した賞金首の仲間がやってきたと思ったからだ。
「そこで立ち止まりなさいっ」

セシルが相手に足を止めるように言う。だが、そこに聞き覚えのある声が返ってきた。
「あれ、セシルじゃないの、よかった、無事だったのねっ」

「もしかして、マレク?」
「そうよ、でも、よかったわっ、仲間が見つかって、実はあたしもあれからはぐれちゃって、それで心細くて……」

そう言いながら、マレクと呼ばれた少女がセシルに駆け寄る。
「はぐれたっていうと、モックはどうしたの?」
「わからないわ。洞窟で怪物と戦ってる最中だったから……もしかしたら、もう……」

セシルは最初、この洞窟にマレクとモックの三人で探索に訪れたのだ。
「セシル、君のお仲間かい?」

そこへ戻ってきたアーヴィンが二人に声をかけた。
「あ、アーヴィン、良かったわ、無事だったのね。紹介するわ、マレクよ」
「やあ、マレク、俺はアーヴィンだ。よろしくな。所で途中でコボルトと出くわさなかったか?」

「いいえ、出くわしてないわ」

モンキーパイプのハーブを喫いながら、アーヴィンがマレクに近づくとぐるりと回る。

「なるほどね、それなら何で足元にコボルトの毛が付着しているんだい。
それに君の腰についた黒玉、そいつは寄生主から寄生主へと増えて飛び移る習性があるんだ。
いい加減、正体を現したらどうだ?」

途端にマルクが表情を変えると、袖口に隠していたポイズンニードルガンを抜いた。
そしてセシル目掛けて毒針を放った。
咄嗟にセシルを庇うアーヴィン──毒針が左の肩口に食い込んだ。

「甘いわね、あんた。彼女を狙ったら庇うとは思ってたけど」
「そんな、マルク……」
驚愕に目を大きく見開くセシル──そんな彼女にマルクはポイズンニードルガンを向けた。

「色々あったけど、最後は予定通りよ。そこの男とモックの死体、それにあんたを売り払ったお金で、
また、手下を雇えばいいだけだし」

「残念だな。世の中、そう上手くはいかないもんだぜ」
肩口から毒針を引き抜き、アーヴィンがマルクに微笑みを投げた。

「そんな……毒が効かないなんて……いいわっ、それならどのくらい毒に耐えられるか試してあげるっ」
再びポイズンニードルガンを発射しようと、マルクが引き金をひこうとした。

その刹那、アーヴィンのスコーピオンブラスターが、マルクの胴体を撃ち抜いた。
「ああ、そんな……」
マルクがドサッと音を立てて倒れた。

「さて……村に戻るとするか……」

そう呟いた途端、アーヴィンは地面に膝をついた。
「だ、大丈夫なのっ、ちょっと待ってて、いま治療するからっ」

慌ててアーヴィンに駆け寄ったセシルが、杖を握って必死で呪文を唱えようとする。

そんなセシルの唇にアーヴィンが無言で自身の唇を重ね合わせた。
唐突な出来事だった。

「んんっ……」
セシルの歯を割って、アーヴィンが少女の口腔内に舌先を潜り込ませる。
セシルはアーヴィンを受け入れた。

熱い舌触りだった。二人は熱く滾った互いの舌を蛇のように絡ませていった。
セシルの瞳に輝くような潤みが帯びていく。
蕩けそうだ。セシルは心地良い微睡みに浸っていた。

セシルの腰をアーヴィンが両腕で抱きしめる。
それからアーヴィンが唇を離し、セシルの明眸を覗き込んだ。

上目遣いにアーヴィンを見つめるセシル、熱のこもった首筋の肌が薄桃色に上気していた。
アーヴィンがセシルの首筋に唇を這わせる。
「ああ……」
セシルが小さく喘ぎ、身体を震わせた。

それから二人はじっとしたまま、抱き合い続けた。
薄暗い洞窟の中で、ただ、じっと。
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