チート狩り

京谷 榊

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第十三章 ヤコク・西

百七十七話 陽二と光

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 山本五郎左衛門と神野悪五郎が処刑される数日前、日和は神野悪五郎が収容された地下牢までやってきた。
「神通力を使って私を呼び出すとは何事ですか」
 神野悪五郎は俯いたままゆっくり口を開いた。
「処刑される前にお主の両親から預かっていたものを返そうと思ってな」
「私に両親はいない」
「そう教えられたのか?どうなのかはわからんがわしは陽二と光の二人にあった」
「先代の当主とその妻の名前ですか」
「まだそれをいうか!とにかく、わしは17年前にその二人と対決した!」
 時は遡り17年前、当時の妖軍の総本山である貴船山での出来事だった。妖怪の幹部を倒し、神野悪五郎の元までたどり着いた二人は、悪五郎にある相談を持ちかけた。
「このまま戦いを続けていてもどうにもならない、もし争いごとを続けるのであれば人も妖も皆滅びの道を辿ることになる」
「何を言うか、我々妖どもが死ぬことはない、滅びるのはお主ら人間たちだけだろう」
「確かに、妖は死ぬことはないが、お前達妖怪は忘れられて力が弱まった頃に存在ごと消える。だから我々人間の存在が必要なはずだ」
「だからなんだと言うのだ、お主と手を取り合ったところで、人間たちは我々の住処を存在を、ことごとく奪っていくではないか」
「その件に関しては、本当に申し訳ないと思っている。我々も最大限譲歩しよう、だからそちらも協力してほしい」
「何を言っても無駄だ!そんな言葉に騙される…わけが、」
 悪五郎は陽二と光の二人の後をよく見ると妖が、この夫婦の後ろに隠れていたのが見えた。
「そこのチビ、妖のくせになんだ、人に取り繕っているのか?」
「悪五郎様、私らはこのお二人に助けられました。妖軍を裏切るわけではございません、ですがこの二人とも戦いたくはありません」
「私も同意見です」「私も、」「わしも」「我々も」
と、悪五郎の予想だにしない多くの妖たちがこの二人に助けられており、陽二と光もすっかり妖たちに心を許していた。
「なぁ陽二、いつの日か酒を酌み交わせる日がきたらおまえの子供の顔を見せておくれ」
「光様、陽二様、悪五郎様はあのようにおっしゃられるが、実は我々のような小物の話をしっかりと聞いてくれるとても優しいお方なのだ」
「もっと辛抱強く頼めばきっと聞いてくださる」
 小動物のように小柄な妖怪たちが囃し立てるように喋る。
「おい!何をかってに!」
 妖たちも陽二も光も笑った。
「…わかった、我々もお主らと手を取り合おう。しかし、完全に信用したわけではないからな」
「感謝します。それともう一つ、私達二人の寿命はもう長くありません、もし私達が亡くなった時は我が子のことをよろしくお願いします」
 そう言った数時間後、陽二と光は過度の疲弊と妖怪たちの発する瘴気により帰らぬ人となった。
 普通であれば妖の発する瘴気は人体に影響こそないが、今回は妖たちが集まり、長時間滞在していたことにより瘴気の濃度が人体に影響を及ぼす程まで悪化していたのだ。

 陽二と光が亡くなった時の話を聞いた日和は普段通り落ち着いていた。
「我々も協力せぬか、陽二と光が実現できなかった世界をお主とわしの手で」
「…。」
「それに、お主もわかるだろう?自分自身が妖に好かれていることに」
「…そうですか、わかりました。ですが私の一存で決められることではないので、大禍時家で話合い、結論が出れば後ほど報告しよう」
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