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第十三章 ヤコク・西
百七十三話 大禍時家・破
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その昔、西ヤコクで大禍時の名を聞けば「悪霊祓の一族」と言う肩書きで通っていた。しかし、それも過去の話である。
時は38年前、西ヤコクで人と妖による戦争があった。大禍時家には当時、日和の父である大禍時陽二とその妻、大禍時光の二人が主力となり妖怪との戦闘を繰り広げていた。
そして当時の大禍時家当主、大禍時陽炎は人と妖怪との争いが始まる1日前に何者かの手によって殺害されていた。
これにより息子陽二は正式でないものの、大禍時家当主代理を務めることとなり、当時大禍時家に勤めていた官吏たちも補助にまわりながらも任務をこなしていた。
そんな矢先に戦争が起こった。「人間たちがなんの許可もなく土地を奪っていった」と主張する妖怪たちとの戦いが始まった。戦いの規模はもちろん大きなものとなっていき、戦火は西ヤコクの中枢である大京府にも広がった。空は暗く厚い雲に覆われ昼も夜と同じ様に暗かった。それでも人側はどうにかして妖怪たちを食い止めようと必死に奔走した。しかし、結果は最悪なものとなってしまった。
戦争が始まって10ヶ月が経った頃、主力であった陽二と光が戦いの最中に力尽きて亡くなったのだ。
しかし、それと同時期に妖怪側の大将も何者かによって暗殺されたのである。それにより妖怪と人との戦争は一旦幕を閉じた。
それから妖怪の残党や瘴気の影響により、大禍時夫妻の遺体が回収されたのは二人が亡くなってから1週間も経った後だった。二人の遺体は大京から離れた山中で何かを匿っているかのような体勢で発見された。官吏の者たちがその匿っている何かを確かめるとそこには生まれてから時間が経ち、誰かに世話されたであろう赤子が寝息を立てていた。
さらに驚いたことに、光の体を調べると後産など全ての処理が終わった後だった。
官吏の者たちはこれらを持ち帰り、大禍時家邸宅で協議が始まった。
「はてさて、どうしたものか」
「これでは大禍時家はおしまいじゃ」
「このままでは我々の身までもが危うい」
話しが進まない中一人が赤ん坊について話を切り出す。
「そもそも、この赤子はどこの子なのか」
「あの二人が匿っていたのならあの二人の子に違いない、それに光様の体からは出産した跡も見つかったと女中が言っていた」
「なら、なぜ皆光様が妊娠していたことを隠していたのだ」
「我々の中でそのようなことを知っているものはおりません、お腹が少しばかり張っているご様子は見かけましたが、我々もなぜ光様が妊娠していることを隠されていたのか…」
「光様は優しいお方だ、他人に心配させぬよう黙っていたのであろう」
「妊娠は黙っていただけでなんとかなる話ではない」
しかし、ここで不穏なできごとがおきた。隣の部屋からドスドスと足音が聞こえてくる。官吏の者たちや女中たちが音のする方を見ると、生後数日の赤子が歩いていた。
「赤子は妖怪の子かもしれん」
「妖怪じゃ、妖怪の血を引く赤子じゃ」
「それじゃあ、この家はこれから妖怪が継いで行くのか」
「冗談じゃない、悪霊祓いを生業とする家元が妖怪だと」
「この家はこれからは我々が継ごう、そして大禍時家ではなく大禍時庁としてお国に支えるのはどうか」
「いやまて、もし、この赤子が本当に妖怪の子であれば妖怪たちの元へ帰るであろう。しかし陽二様、光様の子であればここへ帰ってくるに違いない」
そうして大禍時家の官吏たちは赤子をある場所へ連れていった。
時は38年前、西ヤコクで人と妖による戦争があった。大禍時家には当時、日和の父である大禍時陽二とその妻、大禍時光の二人が主力となり妖怪との戦闘を繰り広げていた。
そして当時の大禍時家当主、大禍時陽炎は人と妖怪との争いが始まる1日前に何者かの手によって殺害されていた。
これにより息子陽二は正式でないものの、大禍時家当主代理を務めることとなり、当時大禍時家に勤めていた官吏たちも補助にまわりながらも任務をこなしていた。
そんな矢先に戦争が起こった。「人間たちがなんの許可もなく土地を奪っていった」と主張する妖怪たちとの戦いが始まった。戦いの規模はもちろん大きなものとなっていき、戦火は西ヤコクの中枢である大京府にも広がった。空は暗く厚い雲に覆われ昼も夜と同じ様に暗かった。それでも人側はどうにかして妖怪たちを食い止めようと必死に奔走した。しかし、結果は最悪なものとなってしまった。
戦争が始まって10ヶ月が経った頃、主力であった陽二と光が戦いの最中に力尽きて亡くなったのだ。
しかし、それと同時期に妖怪側の大将も何者かによって暗殺されたのである。それにより妖怪と人との戦争は一旦幕を閉じた。
それから妖怪の残党や瘴気の影響により、大禍時夫妻の遺体が回収されたのは二人が亡くなってから1週間も経った後だった。二人の遺体は大京から離れた山中で何かを匿っているかのような体勢で発見された。官吏の者たちがその匿っている何かを確かめるとそこには生まれてから時間が経ち、誰かに世話されたであろう赤子が寝息を立てていた。
さらに驚いたことに、光の体を調べると後産など全ての処理が終わった後だった。
官吏の者たちはこれらを持ち帰り、大禍時家邸宅で協議が始まった。
「はてさて、どうしたものか」
「これでは大禍時家はおしまいじゃ」
「このままでは我々の身までもが危うい」
話しが進まない中一人が赤ん坊について話を切り出す。
「そもそも、この赤子はどこの子なのか」
「あの二人が匿っていたのならあの二人の子に違いない、それに光様の体からは出産した跡も見つかったと女中が言っていた」
「なら、なぜ皆光様が妊娠していたことを隠していたのだ」
「我々の中でそのようなことを知っているものはおりません、お腹が少しばかり張っているご様子は見かけましたが、我々もなぜ光様が妊娠していることを隠されていたのか…」
「光様は優しいお方だ、他人に心配させぬよう黙っていたのであろう」
「妊娠は黙っていただけでなんとかなる話ではない」
しかし、ここで不穏なできごとがおきた。隣の部屋からドスドスと足音が聞こえてくる。官吏の者たちや女中たちが音のする方を見ると、生後数日の赤子が歩いていた。
「赤子は妖怪の子かもしれん」
「妖怪じゃ、妖怪の血を引く赤子じゃ」
「それじゃあ、この家はこれから妖怪が継いで行くのか」
「冗談じゃない、悪霊祓いを生業とする家元が妖怪だと」
「この家はこれからは我々が継ごう、そして大禍時家ではなく大禍時庁としてお国に支えるのはどうか」
「いやまて、もし、この赤子が本当に妖怪の子であれば妖怪たちの元へ帰るであろう。しかし陽二様、光様の子であればここへ帰ってくるに違いない」
そうして大禍時家の官吏たちは赤子をある場所へ連れていった。
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