チート狩り

京谷 榊

文字の大きさ
上 下
173 / 180
第十三章 ヤコク・西

百七十三話 大禍時家・破

しおりを挟む
 その昔、西ヤコクで大禍時の名を聞けば「悪霊祓の一族」と言う肩書きで通っていた。しかし、それも過去の話である。
 時は38年前、西ヤコクで人と妖による戦争があった。大禍時家には当時、日和の父である大禍時陽二ようじとその妻、大禍時みつるの二人が主力となり妖怪との戦闘を繰り広げていた。
 そして当時の大禍時家当主、大禍時陽炎かげろうは人と妖怪との争いが始まる1日前に何者かの手によって殺害されていた。
 これにより息子陽二は正式でないものの、大禍時家当主代理を務めることとなり、当時大禍時家に勤めていた官吏たちも補助にまわりながらも任務をこなしていた。
 そんな矢先に戦争が起こった。「人間たちがなんの許可もなく土地を奪っていった」と主張する妖怪たちとの戦いが始まった。戦いの規模はもちろん大きなものとなっていき、戦火は西ヤコクの中枢である大京おおみやこ府にも広がった。空は暗く厚い雲に覆われ昼も夜と同じ様に暗かった。それでも人側はどうにかして妖怪たちを食い止めようと必死に奔走した。しかし、結果は最悪なものとなってしまった。
 戦争が始まって10ヶ月が経った頃、主力であった陽二と光が戦いの最中に力尽きて亡くなったのだ。
 しかし、それと同時期に妖怪側の大将も何者かによって暗殺されたのである。それにより妖怪と人との戦争は一旦幕を閉じた。
 それから妖怪の残党や瘴気の影響により、大禍時夫妻の遺体が回収されたのは二人が亡くなってから1週間も経った後だった。二人の遺体は大京から離れた山中で何かを匿っているかのような体勢で発見された。官吏の者たちがその匿っている何かを確かめるとそこには生まれてから時間が経ち、誰かに世話されたであろう赤子が寝息を立てていた。
 さらに驚いたことに、光の体を調べると後産など全ての処理が終わった後だった。
 官吏の者たちはこれらを持ち帰り、大禍時家邸宅で協議が始まった。
「はてさて、どうしたものか」
「これでは大禍時家はおしまいじゃ」
「このままでは我々の身までもが危うい」
 話しが進まない中一人が赤ん坊について話を切り出す。
「そもそも、この赤子はどこの子なのか」
「あの二人が匿っていたのならあの二人の子に違いない、それに光様の体からは出産した跡も見つかったと女中が言っていた」
「なら、なぜ皆光様が妊娠していたことを隠していたのだ」
「我々の中でそのようなことを知っているものはおりません、お腹が少しばかり張っているご様子は見かけましたが、我々もなぜ光様が妊娠していることを隠されていたのか…」
「光様は優しいお方だ、他人に心配させぬよう黙っていたのであろう」
「妊娠は黙っていただけでなんとかなる話ではない」
 しかし、ここで不穏なできごとがおきた。隣の部屋からドスドスと足音が聞こえてくる。官吏の者たちや女中たちが音のする方を見ると、生後数日の赤子が歩いていた。
「赤子は妖怪の子かもしれん」
「妖怪じゃ、妖怪の血を引く赤子じゃ」
「それじゃあ、この家はこれから妖怪が継いで行くのか」
「冗談じゃない、悪霊祓いを生業とする家元が妖怪だと」
「この家はこれからは我々が継ごう、そして大禍時家ではなく大禍時庁としてお国に支えるのはどうか」
「いやまて、もし、この赤子が本当に妖怪の子であれば妖怪たちの元へ帰るであろう。しかし陽二様、光様の子であればここへ帰ってくるに違いない」
 そうして大禍時家の官吏たちは赤子をある場所へ連れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...