チート狩り

京谷 榊

文字の大きさ
上 下
103 / 188
第十章 英雄のたまご

百三話 純也

しおりを挟む
「それで、おおかじの名前思い出した?」
 普段おおかじとつるんでいる三人がそう話し合っている。
「結局、おおかじって何をいじってあだ名にしたの?下の名前?」
「いいや、違うんだよ。おおかじの苗字はほんとはあまり良くない意味で夕方とか朝方、あとは季節の変わり目とか。春でもないし夏でもない時期、夏でもないし秋でもない時期とか」
「なんでそう言う時間帯があまり良くないの?」
「そう言う時間帯ってさお化けとかが出やすくなるらしいんだよ。それでお化けとかあまり良いイメージないだろ?それでなんだから悪い意味があるからあいつの方からそう呼んでくれって言ってたな」
「お願い!どうしても思い出さないとダメなんだじゃないと学級日誌におおかじって名前で書かなきゃいけなくなる」
 すると男子生徒は前のページをめくって。
「そういえば、あいつもこの学級日誌を書いているはずだからめくっていけば名前見つかるんじゃない?」
「そうだ!ナイス」
 そして二、三ページほどめくった後、次は女子生徒があることに気がついた。
「あった!これじゃない?おおかじ!」
 すると先ほどの男子生徒が大きな声で。
「思い出した!大きいの大に禍根の禍と時間の時って書いて大禍時おおまがときだ!」
「オオマガトキ?」
「そうだよ、それっておおかじって読むかもしれないけど本当はおおまがときって言うんだよ」
「そうだ!思い出した、それじゃ早退の所に大禍時純也っと」

 そして覇星機関の職員が迎えにきたルガはその職員の女性と共に基地に向かっていた。ルガを迎えにきた女性は覇星機関の制服を着ており、メガネをかけてポニーテールにした落ち着いた女性だった。
「ルガさん、お迎えに上がりました。本部への到着は3日ほどかかりますのでその間気楽にお過ごしください。」
「3日もかかるの⁉︎」
「ご不便をお掛けしますがどうか…」ひぃぃ…怖い怖すぎる、なんなの?なんで私が超重要指名手配犯と3日間も一緒にいなきゃなんないのよ。
 彼女は平静を装ってルガの前では無表情で構えている。
「そうか、まぁ…お姉さんも気楽に行こうぜ」
「は、はい…?」もしかして緊張しているのがバレてる?表情に出てた?
「では基地まで電車を使っていきます」
「へぇー寝台列車かぁ!そんな豪華なものを用意してくれるなんて!」
「いいえ、寝泊まりは各駅で降りて周辺の宿を探して過ごすことになります。」
 ルガがそのセリフにあっけに取られていると、電車が来て二人はその電車に乗り込み、覇星機関基地への直通エレベーターのある中心都市へ向かって行った。
 しかし、ルガの元にはこれでもかと言うほど厄介ごとが舞い込んでくる。ルガたちを乗せた列車が発車し数時間、正午過ぎくらいの時間帯に列車が急停車した。なんの前触れもなく列車は止まり、車両内は騒がしくなる。
 どうしたものかと乗客たちは窓の外を覗いて様子を見る。
どうした?
何があったんだ?
事故?
 やがて乗客たちが騒ぎ始め、挙げ句の果てには乗客の数人が列車から降りて外を見渡す。するとここでルガと女性職員が異変に気づき始める。
「こんな事態に陥っているのに車掌が呼びかけすらしないなんて…」
「私、一度操縦室まで行って何があったか確かめてきます。ルガさんはここにいてください」
 そう言うと彼女は最前車両まで行き、操縦室のドアをノックする。
「すみません!覇星機関の者です!中の様子を確かめさせてください」
 操縦室の中からは何も反応がなかったため、彼女は操縦室の鍵を開けて中に入って行った。
 彼女のように覇星機関職員にはある特権がある。それは、覇星機関の職員の証明書を提示するまたはロック解除の認証にかけるとどこにでも入れるといったものである。このシステムで、職員はこのように様々な施設に立ち入ることができるのだ。
 彼女は操縦室のドアを開けて中の様子を見る。すると驚くべきことに、中には誰一人としていなかった。この列車は自動運転だが、操縦室には操縦資格のある者を最低でも一人乗せることが決められているが、操縦室はがらんとしていた。
 彼女は念の為、この電車を運用、管理している会社に連絡し、すぐにでも列車を動かしてもらえるように頼んだ。しかし遠隔操作でも列車は動かず、近くの駅から職員を二人派遣すると連絡が入った。
「全く、これではなかなか基地に着かない。」
「困ったものだ」
 と言って合いの手を入れてくるようにルガが入ってきた。
「あなた、先ほどの車両でまっててくださいって言いましたよね」
「悪い、つい心配で追いかけてきちゃった」
 そしてルガは操縦室の中にずかずかと入っていく。
「ちょっと、勝手に中に入らないでください」
「今はまだ調査中です、これから最寄りの駅員がくるそうですから大人しくしていてくれませんか」
「そう、わかったけどさぁ…一つ聞いていい?」
「なんでしょう?」
 ルガはある場所を指差してこう言った。
「こいつって車掌なの?」
 彼女はルガの元まで駆け寄りルガの指の刺す方を向くと、明らかに人間ではない奇怪な生物がいる。その生物がこちらに気がつくと、壁をすり抜けて他の車両に逃げて行った。
「あなたは警察と覇星機関職員を呼んでください、私はアレを追います」
 そして彼女はあの謎の生物を追って客車に向かった。ルガは言われた通りに警察と覇星機関職員を呼び、待つこと数分後、現地に到着した警察二人と覇星機関職員二人はなんだか少し和装っぽい服装だった。彼らはやってくるなりこんな話をしていた。
「この辺で列車が止まると言うことはやはり、妖の仕業か」
「あやかし?」
「その通り、この辺では陰陽道を専攻している地区ですから、妖などもよく出てきては悪さをするんですよ」
「それを取り締まるのが我々の役目ですから」
「取り締まる?祓うんじゃなくて?」
「ここユニホームタウンでは全ての者に基本的人権が適用されるので極悪な妖でもない限り祓うことはありませんよ」
「それじゃあさっきここにいた奇怪な生物は」
「妖ですね」
「とにかくあとを追いましょう」
 彼らも女性職員と同じように女性職員と妖を追い、最後車両へ行き着いた。
「応援にきました」
「後は我々に任せてください」
「助かります!」
 彼女はそう言って新しくきた警察や男性職員にバトンタッチする。
「結局あなたも来たんですね、ルガさん」
 彼女の口から発せられたルガという二文字の名前に駆けつけた警察や男性職員は驚いて振り向く。
「なるほど、そういうことだったのか」
「あなたが、ルガ…。」
「こんな珍しいこともあるんやな」
「そんなことより今は目の前の妖です」
「コイツかぁ」
 四人は一匹の妖に歩み寄り逃げ道を塞ぐように囲む。男たちに囲まれた妖はお化けに襲われる子供のようにビクビクと震えていた。
「よくもまぁ、列車を止めて多くの人に迷惑をかけやがって」
「とりあえず捕獲しましょう」
 警察の者がそう言って、ポーチからお札を出して妖にお札を貼る。たちまち妖は大人しくなり、警察に抱えられて御用となった。
 しかし、問題はここからだった。妖を抱えた警察が列車から出て行こうとするが、乗客たちがそれを妨害する。
「この列車はいつまで停まっているつもりなんだい?」
「早くしてくれないか」
「もう何分も待たされてるんですけど」
「いつになったらこの列車は発車するんだよ!」
 つもりに積もった乗客たちの怒りが妖を抱えた警察に向けられる。するともう一人の警察官は。
「危ない!タツキ!今すぐそいつを連れてここから逃げるんや!」
 タツキと呼ばれる警察官は急いでその車両を抜けて外に出ようとするも、乗客たちに通せんぼされそとに出られなくなった。
 本来、妖というのは人の恐怖や人知の及ばない異常があらわれたもの。そのため、ほとんどの妖が人やその他の生物の負の感情を吸収し、その存在を知らしめる。
 そして、乗客たちの怒りを受け取り、警察に抱えられた妖はどんどん力を増していく。やがて力が増強した妖は体格がどんどん大きくなってゆき、自らお札を破り捨て列車のドアを破り外に出る。
 それを見た乗客たちは騒ぎ出して別の車両に逃げて行った。その中でも一人、一切騒ぐことなく落ち着いた面持ちで彼らをじっと眺めている少年がいた。
「逃すな!追うで!」
 そしてルガと、覇星機関の職員三人と警察の二人の六人でその妖を追いかける。
「妖が他人に迷惑かけたらあかんで!セイッ」
 警察はそう言ってお札を投げて妖を沈めようとするが、そう簡単にいかない。
「これならどうだ!」
 そう言い、もう一人の警察官がお経を読みするとたちまち、妖は苦しみ出してその場に這いつくばる。それと同時に覇星機関の男性職員の二人も魔法で対抗する。
「これでもくらえっ!」
 しかし、妖には全く効いていない。むしろ、列車の中にいる乗客たちの列車が進まないことに対する怒りと、ついさっき妖を目の当たりにして恐怖を覚える乗客たちの負の感情が溢れ出し、妖はさらに力を増してゆく。
 そこで一つ問題があった。今ルガたちがいる場所は列車が通るトンネルの中である。しかも、トンネルといってもセメントやコンクリートで造られたものではなく、ガラスやアクリル板のように透明で薄い板が筒状になっているトンネルだった。その中を列車が通っており、そのトンネルの外側にはユニホームタウンで暮らす者たちの生活区域となっている。
 そのためもしも、この妖が外に出ればこの地区に住む者たちに被害を与えることとなる。だからこそこの妖は絶対にここで止めなければならなかった。
 そこで、一人の覇星機関職員がここら一帯に結界を張り妖が逃げられないように自分たちもろとも封じ込める。そうして迎えた攻防戦、妖もルガたちも臨戦態勢に入っており、あたりには張り詰めた空気が漂っている。
 妖はさらに巨大化し、今さっき張られた結界がはち切れそうな勢いだった。ここまでくると妖も苦しみ始め、もがいていた。
「あの妖はもっと小さくならないのか!」
「今やっている!」
 警察はそうしてお経を唱えたりお札を飛ばして必死に妖の力を弱めようとしているが、効果はなかなか出なかった。しかしそんな中で列車から降りてきてルガたちの跡を追ってきた少年がいた。
 彼がルガたちに追いつくと大声で。
「やめろ!」
 と叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...