チート狩り

京谷 榊

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第九章 水没した世界

九十九話 お迎え

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 ペイル宅を後にしたルガたちは魚引船に乗り、タートル州のユウたちが入院している病院へ行くところだった。
「ルガ…さん…え、えっとユウさんたち大丈夫ですかね」
「大丈夫さ、あいつらはあの程度でやられるような輩ではないよ」
 ルガはそうして気楽に会話をしているが、実際はかなり気まずい状況にある。内心マールはついさっきあんなことを言い放ってルガに聞こえていないだろうかと心配している。
「ルガさん。私、決心したとはいえ不安なんです。これからどうすればいいのか」
 彼女は今、あれだけ仲良くしていたルガに対してビクビクして話すことすら恐怖を覚える。
「気楽にしていればいいさ、お前には俺たちが倒せなかったあの化け物を君は一人で倒したんだ。それくらいの力量があれば十分やって行けるさ。それだけじゃない、お前は俺らの仲間だ。困った時はいつでも呼ぶといいさ」
「はい。」
 ジョセフがその時見たマールの表情は今まで一度も見たことのない大人びた微笑みをしていた。

 マールを連れてルガたちはタートル州の病院へ行き、そこで三人は驚くべき光景を目にすることになる。
「ついた、この階の病室だ」
 ルガたちはユウたちのいる病室へ近づくほど、女性の喚き声が聞こえてくる。その喚き声の正体をいち早く察知した彼らは急いでその病室へ向かった。
 ユウたちのいる病室ではエフィとタイカが揉め事を起こしていた。
「やめてください!」
「病院ではお静かに!」
 エフィとタイカはお互いに拳を交えて喧嘩をしていた。そこにルガたちがやってくる。
「何事だ、」
 病室に入ってきたルガたちを見るなりスウェイたちが反応する。
「あなた方は…?」
「こいつらの仲間です」
「見ろ、マール。あれだけの大怪我を負ったにも関わらず今ではもうすっかり元気だ」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃありません!今すぐ止めましょうよ」
 エフィが拳を振り上げ、タイカにそれをぶつけようとする。タイカもそれを躱しててエフィに蹴りを入れる。そこへルガが止めに入る。
 ルガはエフィの拳とタイカの足を掴んで二人の攻撃を止める。
「落ち着け、何があったんだ」
「ルガ殿!その手を離してくれ、私は一刻も早くコイツをぶっ飛ばさないと気が治らない」
「わたしも同じだね、ここで肩をつけてやるよ」
「喧嘩なら後からいくらでもさせるから今は一旦話をしてくれ」
「……しょうがない、一旦落ち着こうか」
 そしてエフィは拳を引いてベッドに座る。タイカも床に下ろされてエフィと反対側のベッドに座った。
「ずいぶんと荒れていたようだが何がどうしたんだ」
「ことの詳細は全てタイカが話すさ」
 タイカは一呼吸おいてから話し始める。
「ルガ、悪いけど覚悟したほうがいいよ後もう少しで君に迎えがくるよ」
「迎えってなんの…?」
「君を逮捕しにくるんだ、」
「逮捕⁉︎そんな、ルガさんは何も悪いことしてないじゃないですか」
「それも覇星機関の上層部が」
「覇星機関⁉︎」
「上層部?」
「上層部ってどいつだよ」
「八徳衆さ」
「八徳衆⁉︎それって、」
 ジョセフが八徳衆の名を聞き強い反応を見せた。
「知り合いか?」
「知り合いも何も、101戦争で共に戦った奴らだ。まず八徳っていうのは仁・義・礼・忠・智・信・孝・悌の八つの徳をそれぞれ担っているんだ。だけど、あいつらは代替わりするから、多分俺の知っている奴はもういないと思うがな。
 けど、よりにもよってなんでそいつらがルガを逮捕しにくるんだよ、お前なんか悪いことでもしたのかよ」
「そんなの身に覚えがねーよ」
「タイカ、俺が捕まるとして罪状ってなんだ」
「おそらく異端の罪かな、」
「異端の罪だと⁉︎あいつら魔女裁判でも始めんのかよ」
「おそらくそんなところよ、覇星機関っていうのは自分たちよりも強そうなやつは自分たちの手で飼い慣らそうとする。だけどそれができなければ抹殺する。それが覇星機関よ」
「それに、おそらくだけどもう迎えはついていると思う。今ごろアトランティス州のペイルの家に宇宙船がついていて、ロスとヤスケが人質に取られている頃じゃない?」
「助かる方法はないのか」
「知らないよ」
「そんなの嫌だ!ルガさんが…っ」
 マールは泣きじゃくり目を強く擦る。そして、しばらく考え込んでから、ルガが立ち上がる。
「いつまでここにいてもしょうがない、とりあえずペイルのところに行こう」
「泣くなマール、ついさっき大丈夫だって言ったばっかりだろ?」
「…」
「それに、死ににいくわけじゃないんだ。またそのうちあえるさ、だからそれまで待ってられるか」
「うん、待ってるから」
 ルガ、ジョセフ、エフィ、タイカそしてまだ意識が回復していないユウとリアの六人はマールをそこに残し、アトランティス州へ戻っていく。

 こうして彼らはアトランティス州に向けて病院を出て行った。ユウとリアの二人はルガとジョセフが運んで連れていった。
 戻りの魚引船の中でもエフィとタイカはいがみ合っており、空気は冷たいままだった。ペイル宅に近づくに連れて黒いペイルの家の三倍ほどの大きさの船が見えてくる。さらに近づいていくと潜水服を着た者が数人ペイル宅の前でペイルと話をしていた。そこへルガたちが入り込んでいく。
「きたぞ、おそらく奴らだ」
「ルガってのはどんな奴なのか楽しみだな」
「フィリアル、手ェ出しちゃダメよ」
「はいはい、わーってるよ」
 そして、ルガたちと八徳衆がとうとう対面する。
「始めまして、八徳衆まとめ役のファイスと申します」
 端正な顔立ちで肌も髪も身につけているマントまで白い色の青年が丁寧に挨拶する。
「ご丁寧にどうも、ありがとう。ルガだ」
 二人は手を出して互いに握手をする。
「存じております。では早速ですが…」
 ファイスが話している最中にルガは両腕を前に出して手錠をかけられる時のようなポーズを取る。
「おお、分かってんじゃねぇの」
「タイカさんから聞いたんですね」
「ああ、そうだ」
「では、失礼します」
 ファイスはそう言ってルガの手に手錠をかける。
「そうだ、俺が大人しく捕まってやる代わりに一つ条件を飲んでくれないか」
「何言ってるの、あなたそんなこと言える立場じゃないでしょ」
 赤毛でフリフリの衣装をまとったツインテールの女の子、マーシィはルガに対して強く出る。
「いいや、そうでもないぞ。昔の八徳衆ならそうは行かなかったかもしれないが、代替わりした今の八徳衆にそこまでの力が感じられない。」
 ジョセフはルガの肩に手を置いて八徳衆たちに向かって言った。
「失礼なやつ」
「いいか、お前たちの目の前にいるのはこの俺が一度も勝ったことのないバケモノだ。おそらくだがコイツはこの程度の手錠も簡単に外せるし、お前らが立ち向かって歯が立つ相手じゃない。要望を聞いてやってくれ」
「さっきから聞いてりゃ、調子に乗ってんじゃ…」
「やめなさい、グラディテュ。ここは話し合いで解決するって決めたでしょ」
 シンセリティと言う彼女は男を一方手前のところで止める。
「…いいでしょう。要望が何か話してください」
「助かるぜ、俺の仲間たちが重傷を負っているんだ。俺はどうなってもいいから、俺の仲間たちを覇星機関の医療で助けてくれ」
「承知しました」
「それでは皆さん。船の中へどうぞ、勝手なことをして申し訳ないのですが、ロスさんとヤスケさんはもう船の中に運ばせていただきました」
 船の中は地下空洞のように暗く、気温は低く設定されている。これは温度センサーで船内にいる人員の人数や種族、などを確認するためだそう。
 ルガたちが宇宙船に乗り込んでいく中、ジョセフはウィズダムと言う男に目をつけられる。
「もしかして、お前ジョセフか!」
 ジョセフは男の方を振り向いて目を合わせると、一気に顔色が変わった。
「ウィズダムか⁉︎」
「ああ、そうさ。やっぱりジョセフなんだな」
「久しぶりだなぁ!ウィズダム、元気にしてたか」
「もちろんさ、ジョセフも元気そうで何よりだ」
「俺もてっきり八徳衆は全員代替わりしたかと思ったよ、まさかお前が残ってだとはな」
 ジョセフとウィズダムの二人はとても仲良さそうにしていた。ルガたちの去り際にペイルはとても申し訳無さそうに頭を下げ感謝と謝罪とお礼の言葉を述べる。
「ルガ殿、ありがとう。そしてすまない。こんな時に限って言葉が出ない…お主たちには何度も助けてもらったにも関わらず何も返すことができないワシが本当に情けないと思う。ほんの少しだがワシがお主にあげたものはお主がずっと持っていてくれ」
 彼らがこの星を去る際に見送っていたのはペイルのみだった。彼はこれまでとこれからの一生のうちこれほどまでに無念な出来事は無かったそう。

 ルガたちや八徳衆の者たちが乗った船はサブマージ・アースを出て宇宙空間に入る頃、船内ではピリついた空気が流れていた。
「オイ!早くこの星から出ないのかよ」
「焦らずともいずれ宇宙空間に出ますよ」
「早くしろよ!ったく…」
 八徳衆はどこか焦っていた。船内にはルガたちや八徳衆の他に船の乗組員や他の覇星機関職員も乗り合わせていた。
「何をそう焦っているんだ」
「お前ら、この星にいたのに気づかなかったのか⁉︎バカでかい音がしたろ」
 八徳衆や乗組員たちが怪訝な表情をしていった。
「マリン・ボイスか、」
「この星には謎の巨大生物が存在するんだ。そいつがついこの間、某海岸を中心にあの星の半球全域にまで響きわたるほどの大音量で何かを喋っていたんだ」
「それはこの星に到着する前の私たちの船にも聞こえてきたんだ」
「実際に何と言っているのかは分からなかったが声量から推定して声の主は一万メートル以上もの巨体を持つ怪物だと思われる」
「それを私たちでマリン・ボイスと名付けたのさ」
 すると今度はルガたちがコソコソと話し始める。
「この星であった出来事は内緒でたのむ」
「オーケー」
「もちろんマールのこともだ」
「わかった」
「お前たち、何をコソコソと話してんだ」
「雑談だ文句あるか」
 そう言い切ってジョセフは話を終わらせる。

 それからしばらくして、目的地に近づいてきた頃船を運転する乗組員の一人が異変に気がつく。
「前方3時の方向から巨大な障害物反応」
「では10時の方向に回避し、速度を上げよ」
「ラジャー」
「キャップ、変です!先程回避した巨大物質が進行方向を変えてこちらに迫ってきています!」
「迎撃準備だ、第十一番砲を起動」
「ラジャー」
 そして、そろそろルガたちや八徳衆も異変に気付き始める。
「それを迎撃してはいけない!」
「今すぐ逃げろ!遠く離れたところへ!」
「ダメだ、遅すぎる」
 ファイスやジョセフ、ルガの発言の後船に巨大物質が接触し、船が大きく揺れる。
「うわっ!」「うぉっ!」
「キャァッ‼︎」
 乗組員や覇星機関の職員たちはつい狼狽えてしまうが、ルガたちや八徳衆のものたちは一切狼狽えることなく、落ち着いていた。その後も予想外の出来事は続いた。宇宙船の外側から圧力がかかり、剥がれるように外壁が外れていった。
「非常事態!何者かが宇宙船の外壁を破りました!」
 ファイスは急いで船全体に魔術を施す。
インハビット・レンジ
 彼の魔術のおかげで宇宙船内全体がどんな状況に変化しても生物が生きてられる空間に変化した。
宇宙船の壁を破りこちらを覗いてきたのは、惑星ライトでルガたちが逃亡を許してしまったルシフェルだった。
「見つけたぞ、ルガ。今こそ決着をつけようぞ」
 奴はそして手を伸ばしルガを掴み宇宙空間に引きずり込む。八徳衆はそうはさせまいと、各々の攻撃でルシフェルを撃退する。
「総攻撃だ!」
 八徳衆の攻撃によってその場を退こうとするルシフェルは最後にルガを取り戻されないように、宇宙空間に放り投げてその場を去っていった。
「ルガ!」
 八徳衆のファイスは彼を心配し名前を呼ぶが、相対してルガの仲間であるジョセフやエフィたちは。
「多分大丈夫だろ、二回目だし」
「本当だ、これで二回目だ」
「もうちょっと心配してあげようよ!仲間なんでしょ⁉︎」
「心配するだけ損だよ、ルガってのはそういうやつだから」
 タイカの発言で八徳衆たちはまだ半信半疑だが、納得するように口を紡ぐ。
「それでは一度、拠点に戻ります。ルガの回収はその後からでよろしいですね」
 ファイスはジョセフに許可をとるように目を合わせる。
「構わん」
「キャップ、進路は変更無しでお願いします。それと早めに到着できるように頼みます」
 こうして八徳衆とジョセフたちの乗る宇宙船は覇星機関の基地へ向かって進行する。
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