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第六章 平和の価値
五十七話 ミハイル
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終戦を迎えて1日目、ココドリロ王国では少しずつ日常に戻りつつあった。ただ少しいつもと違う点があるとすれば、国中の兵士がエフィに冷たく当たっていたことだ。今朝もまた集会の時や廊下ですれ違った時もみんながみんなエフィに冷たく接する。
このことについて彼女自身は、アスケラーデンの死と自分が帝国に奇襲をかけた際に真っ先にやられてしまったことに皆、腹を立てて私を蔑んでいるのだと言っている。
そしてその日の夜、エフィはかのボロボロの小屋に見えるあの家に帰ると、夕食時にミハイルにこんなことを打ち明けた。
「わたしは近いうちにこの国を出て旅に出ようと思っている」
その言葉を聞いてミハイルは手が止まった。その反応を見てエフィはこうも言った。
「大丈夫、ちゃんとミハイルのことは王国の方にも言うし、それでもダメならいっしょに旅に連れて行く手も…」
エフィは戸惑い、話を丸め込もうとするがミハイルはエフィにある話をした。
「エフィ、実を言うとな」
それを聞いてエフィは次に出てくる発言を待った。
「昨日、お前と一緒にいる黒い姿をしたやつとがここにきて話をしたんだ」
それを聞いてエフィは驚いた。
「え!本当に⁉︎昨日ルガがここにきたのか!」
エフィは急に立ち上がり驚いていた。その後もミハイルは続けて昨日の会話の内容をエフィに話した。
「その男はお前のことについて詳しく聞いてきたんだ」
時間は遡り昨日、ミハイルは戸をノックする音が聞こえて入ってもいいよ、と相手が誰かもわからないのに根拠のない安心感に操られて彼は了承した。彼が驚いたのはルガの姿を確認してからのことだった。
「いったい何の用かなこんな老ぼれにエフィならまだ帰ってきてないぞ」
「その娘について話があるんだ、」
一瞬、ミハイルは嫌な言葉が脳裏に浮かんだ。しかし、ルガの次の行動でそんな嫌な気分はすぐに吹っ飛んだ。
「お願いします!娘を俺たちにください!」
ミハイルは一瞬ポカンとしたがそのあと頭の中に浮かんだ言葉をそのまま発した。
「いいよ!」
交渉はあっという間に成立した。ミハイルからこのことを聞いた瞬間エフィは顔を赤くして突っ込む。
「何を言っているのだアイツは!」
「安心しろ、多分そう言う意味じゃねぇよ」
「わかっている」
ミハイルはその後も話を続けた。
ルガはミハイルからの了承を簡単に受けたことを聞いた。
「大事な娘なんじゃなかったのか、なぜそんな簡単に」
「子供を縛り付けることだけじゃないからな、親の役目ってのは」
「ふぅん。」
本題が終わるとルガはミハイルについて質問をした。
「ちなみにだけど、お前はミズ帝国の皇帝ヴィシチェのことをどう思ってる」
その名前が出た途端、ミハイルのまぶたがピクリと動いた。だが、ミハイルはその名前に関しては何も知らないと答えなかった。
「じゃああともう二つほど、一つ目いくぞ」
ミハイルは祈る時のように手を組んでテーブルに体重をかける。
「お前の下の名前ってなんだ。」
「ポリカロポフだ。ミハイル・ポリカロポフ」
ミハイルは丁寧にフルネームで答えた。すると次にルガが発した言葉は。
「なんだ、違うのか。俺はてっきり…ミハイル・ロマノフかと思ったわ」
するとミハイルは立ち上がりルガを睨んで質問する。
「なぜ知っているんだ、俺の旧名を」
「何でって、やっぱり兄弟って似てるんだもん」
この言葉にミハイルはぎょっとする。
「顔も、声も、髪型もヴィシチェと瓜二つとまでは行かないがとっても似ているよ」
ルガはミハイルをなだめながら話をする。ミハイルも一旦落ち着いて椅子に座る。
「それで、兄上はどうした」
ルガはここで戦場での出来事を簡潔に語った。
「残念ながら君のお兄さんは…」
その話を聞くなりミハイルはため息をついて心を落ち着かせる。するとミハイルはヴィシチェについてルガに質問責めをする。
「兄上はどんな様子でしたか」
「紳士のような立ち振る舞いだったよ、兵士や部下のことを考えて自らが先頭に立って指揮をしていたさ」
これを聞くとミハイルは驚いた様子を見せて、昔の自分たちについて語った。
「自分で言うのも何だが。私たちは昔、二人揃えば間然する所がないと言われるほどのものだった。しかし私たちが大きくなるにつれて兄上の性格は荒々しいものとなり、やがては国中から雷帝と呼ばれるほどだった。このままでは国を任せられないと思った私は兄上よりも優れた人になれるよう懸命に剣に勉学、作法に励んだ。
しかし、その努力を嘲笑うかのようにわたしは蹴落とされ、何十年か前にも行われた戦争にて私は兄上の裏切りによって窮地に陥った。だが、そこでわたしを助けてくれたのがこの国の参謀総長、アスケラーデンだった。彼は当時13だった私と勝負して負けたのだ、その賞品と口止めとして私にこの国に住めるよう国に説得し、今となってはボロボロの小屋だが当時は新品で頑丈だったこの家を提供してくれた。
そしてそれから10年後、開拓を目的としたある種族がこの土地にやってきて甚大な被害と忌々しい出来事を残してこの星を去っていった。そのせいでこの国はあの種族を他国の者と勘違いし、他国との貿易を全て断ち切ったのだ。幸いにも彼らには金も食糧自給力もあり、単体でやっていくことができた。
さらに奴らの残していったものはそれだけでなく、奴らは女性の多いこの国で子供まで作っていったそうな。その際、奴らは誤って他国の女性に妊娠させてしまい、その子供は捨てられ命の危険にさらされていた。」
「それがエフィだ。レリー・エフィという名前はアスケラーデン彼女の親から取って並べ替えてつけたらしい。」
一連の話を聞いたルガは、
「本人はそのことを知っているのか」
「ああ、アイツは今齢31、これは彼女が20になった頃に初めて話した。」
そうしてルガは別れの挨拶を告げて切り上げようとその場を去ろうとしていた。
「最後にもう一つの質問はしないのか」
ミハイルのその言葉を聞いてルガはおっと忘れるところだったと言い最後にもう一つ質問した。
「じゃあ最後にもう一つ、……ダイキって名前聞いたことあるか?」
その名前がミハイルの耳に入った瞬間、彼は今までにないくらいの驚きを見せた。
するとルガはその反応を見ただけでなにかを理解して。そうか。という言葉を残してその場を後にした。
エフィには一番最後の質問については一切話さなかったミハイルだった。
これまでの話を聞いたエフィは、真顔で晩飯の準備をする。その様子を見かねてミハイルは心配そうにエフィの様子を見ている。するとエフィはミハイルに背を向けたまま落ち着いたいつもと同じような声で言う。
「ミハイルさん。明日、わたしは…王国軍を辞任します」
エフィはそう言うといつもと同じように食卓を囲み、いつもと同じように会話をして食事を取っていた。だが、ミハイルは今まで何度もエフィと食卓を囲んだが、彼女自身が悲しい時も苦しい時も嫌なことがあった時も嬉しい時も全く変わらなかった口数は、今日に限っての会話の口数が少なく感じた。
次の日、エフィは早々と家を出て城へ向かった。城では相変わらず周囲からは冷たくされ、まるで居場所がないかのように感じていた。そんな中、ルガは何の隔てもなくエフィに接する。
「気分はどうだ、」
エフィは余裕のある表情で応える。
「余りいい気分ではない、それに本当にこれでいいのかまだ迷いがあってな」
エフィはそう言いながらルガと一緒に広間へ向かう。毎朝行われる集会でエフィは昨日、ミハイルに言った通りに女王の前で辞任することを宣言した。
当然、周囲の者たちは一瞬驚きの表情を見せたが、その表情は少し悲しそうにも見えた。
集会が終わるとエフィはいつもと同じように一から二十四の隊の隊長を集めて会議を行なった。議題は次の参謀総長はだれが務めるのかという内容だった。しかし、会議がスムーズに進むことはなく、自らが進んで参謀総長に立候補するものはいなかった。最終的にはエフィの使命で、以前アスケラーデンがいた頃に副参謀総長を務めていたアベル・レアに決定された。そのことに異論を唱えるものはおらず、レア自身もとても嬉しそうにしていた。
会議が終わり、エフィは辞任するための署名を女王に提出したのちに、最後の挨拶としてある男の元へ行った。そこは靴屋でその相手はブリーレルのことだった。ユウは最後に彼に別れの挨拶を告げにきたのだ。
「どうしたの?急に。」
「近々王国を出て旅立つことになったのだ。それと、今までありがとう。様々な件でブリーレルには世話になった。多分もう会うことはないだろう」
エフィがそう言い終えるとブリーレルは納得した表情で。
「そうかい…こっちもお得意様がいなくなるのはちょっと寂しいな。でもキミ達の旅がいいものになるように僕は切に願ってるよ」
そしてエフィはその店を出ていった。するとすれ違い様にルガが店の中に入っていく。
「すいません、ちょっと欲しいものがあるんだけどオーダー頼める?」
ルガを見た瞬間、ブリーレルはニコッと満面の笑みを作る。するとそれと同時に陶器のカップがカチャカチャと音を立てて床に落ちた。するとブリーレルはすぐ様に床に落ちた割れているカップのカケラを一つずつ拾う。
「しまった、あ~落としちゃった」
そんなブリーレルに気にすることなくルガは仮面って売ってますか?と聞いた。
ブリーレルは真顔で部屋の隅の方を指して。
「仮面ならそこのテーブルに置いてあるのを好きに見てって」
彼はそう言うと一度店の奥の方に戻る。
ブリーレルが戻ってくるとルガはフードを下ろして白い仮面をつけた状態でブリーレルの方を向いている。
「お似合いですよ」
「ならこの仮面、買うことにするよ」
ルガはそう言ってブリーレルに近づいてポケットからお金を取り出す。
「今からそっちに行きますけど仮面を取ったらダメですよ」
ルガは忠告するようにそう言ってブリーレルの目の前に立つ。ルガはお金をブリーレルに渡した瞬間、ブリーレルはサッとルガの仮面を剥いだ。
ブリーレルが目を覚ますと目の前にルガはおらず、多くの街の人が店に集まっていた。感触だけでわかったが右の手の中にはルガに渡されたお金が入っていた。
それに気がつけば時は夜になっていることがわかった。ブリーレルはすぐに立ち上がりルガの後を追おうとするが追うどころか立つことすらままならず、立ち上がった瞬間足に力が入らず、転んでしまう。
「ママー、このおじいちゃんだれー?」
「ブリーレルのてんしゅさんと同じ格好をしているけど、知り合いの人?」
ブリーレルはその言葉に疑問を持ち、女の子に話しかけようとするが、呂律が回らない。それどころか声が掠れていて喋ろうとしても思った通りに喋ることができない。
彼は慌てて周りにある鏡を手に取って自分の顔を写し出すとそこには、90やそれ以上の年齢に見える恐ろしいほどヨボヨボになった自分の姿があった。
今の彼の頭の中は憎悪と恐怖で何も考えることができない。
だからダメだって言ったのに。
このことについて彼女自身は、アスケラーデンの死と自分が帝国に奇襲をかけた際に真っ先にやられてしまったことに皆、腹を立てて私を蔑んでいるのだと言っている。
そしてその日の夜、エフィはかのボロボロの小屋に見えるあの家に帰ると、夕食時にミハイルにこんなことを打ち明けた。
「わたしは近いうちにこの国を出て旅に出ようと思っている」
その言葉を聞いてミハイルは手が止まった。その反応を見てエフィはこうも言った。
「大丈夫、ちゃんとミハイルのことは王国の方にも言うし、それでもダメならいっしょに旅に連れて行く手も…」
エフィは戸惑い、話を丸め込もうとするがミハイルはエフィにある話をした。
「エフィ、実を言うとな」
それを聞いてエフィは次に出てくる発言を待った。
「昨日、お前と一緒にいる黒い姿をしたやつとがここにきて話をしたんだ」
それを聞いてエフィは驚いた。
「え!本当に⁉︎昨日ルガがここにきたのか!」
エフィは急に立ち上がり驚いていた。その後もミハイルは続けて昨日の会話の内容をエフィに話した。
「その男はお前のことについて詳しく聞いてきたんだ」
時間は遡り昨日、ミハイルは戸をノックする音が聞こえて入ってもいいよ、と相手が誰かもわからないのに根拠のない安心感に操られて彼は了承した。彼が驚いたのはルガの姿を確認してからのことだった。
「いったい何の用かなこんな老ぼれにエフィならまだ帰ってきてないぞ」
「その娘について話があるんだ、」
一瞬、ミハイルは嫌な言葉が脳裏に浮かんだ。しかし、ルガの次の行動でそんな嫌な気分はすぐに吹っ飛んだ。
「お願いします!娘を俺たちにください!」
ミハイルは一瞬ポカンとしたがそのあと頭の中に浮かんだ言葉をそのまま発した。
「いいよ!」
交渉はあっという間に成立した。ミハイルからこのことを聞いた瞬間エフィは顔を赤くして突っ込む。
「何を言っているのだアイツは!」
「安心しろ、多分そう言う意味じゃねぇよ」
「わかっている」
ミハイルはその後も話を続けた。
ルガはミハイルからの了承を簡単に受けたことを聞いた。
「大事な娘なんじゃなかったのか、なぜそんな簡単に」
「子供を縛り付けることだけじゃないからな、親の役目ってのは」
「ふぅん。」
本題が終わるとルガはミハイルについて質問をした。
「ちなみにだけど、お前はミズ帝国の皇帝ヴィシチェのことをどう思ってる」
その名前が出た途端、ミハイルのまぶたがピクリと動いた。だが、ミハイルはその名前に関しては何も知らないと答えなかった。
「じゃああともう二つほど、一つ目いくぞ」
ミハイルは祈る時のように手を組んでテーブルに体重をかける。
「お前の下の名前ってなんだ。」
「ポリカロポフだ。ミハイル・ポリカロポフ」
ミハイルは丁寧にフルネームで答えた。すると次にルガが発した言葉は。
「なんだ、違うのか。俺はてっきり…ミハイル・ロマノフかと思ったわ」
するとミハイルは立ち上がりルガを睨んで質問する。
「なぜ知っているんだ、俺の旧名を」
「何でって、やっぱり兄弟って似てるんだもん」
この言葉にミハイルはぎょっとする。
「顔も、声も、髪型もヴィシチェと瓜二つとまでは行かないがとっても似ているよ」
ルガはミハイルをなだめながら話をする。ミハイルも一旦落ち着いて椅子に座る。
「それで、兄上はどうした」
ルガはここで戦場での出来事を簡潔に語った。
「残念ながら君のお兄さんは…」
その話を聞くなりミハイルはため息をついて心を落ち着かせる。するとミハイルはヴィシチェについてルガに質問責めをする。
「兄上はどんな様子でしたか」
「紳士のような立ち振る舞いだったよ、兵士や部下のことを考えて自らが先頭に立って指揮をしていたさ」
これを聞くとミハイルは驚いた様子を見せて、昔の自分たちについて語った。
「自分で言うのも何だが。私たちは昔、二人揃えば間然する所がないと言われるほどのものだった。しかし私たちが大きくなるにつれて兄上の性格は荒々しいものとなり、やがては国中から雷帝と呼ばれるほどだった。このままでは国を任せられないと思った私は兄上よりも優れた人になれるよう懸命に剣に勉学、作法に励んだ。
しかし、その努力を嘲笑うかのようにわたしは蹴落とされ、何十年か前にも行われた戦争にて私は兄上の裏切りによって窮地に陥った。だが、そこでわたしを助けてくれたのがこの国の参謀総長、アスケラーデンだった。彼は当時13だった私と勝負して負けたのだ、その賞品と口止めとして私にこの国に住めるよう国に説得し、今となってはボロボロの小屋だが当時は新品で頑丈だったこの家を提供してくれた。
そしてそれから10年後、開拓を目的としたある種族がこの土地にやってきて甚大な被害と忌々しい出来事を残してこの星を去っていった。そのせいでこの国はあの種族を他国の者と勘違いし、他国との貿易を全て断ち切ったのだ。幸いにも彼らには金も食糧自給力もあり、単体でやっていくことができた。
さらに奴らの残していったものはそれだけでなく、奴らは女性の多いこの国で子供まで作っていったそうな。その際、奴らは誤って他国の女性に妊娠させてしまい、その子供は捨てられ命の危険にさらされていた。」
「それがエフィだ。レリー・エフィという名前はアスケラーデン彼女の親から取って並べ替えてつけたらしい。」
一連の話を聞いたルガは、
「本人はそのことを知っているのか」
「ああ、アイツは今齢31、これは彼女が20になった頃に初めて話した。」
そうしてルガは別れの挨拶を告げて切り上げようとその場を去ろうとしていた。
「最後にもう一つの質問はしないのか」
ミハイルのその言葉を聞いてルガはおっと忘れるところだったと言い最後にもう一つ質問した。
「じゃあ最後にもう一つ、……ダイキって名前聞いたことあるか?」
その名前がミハイルの耳に入った瞬間、彼は今までにないくらいの驚きを見せた。
するとルガはその反応を見ただけでなにかを理解して。そうか。という言葉を残してその場を後にした。
エフィには一番最後の質問については一切話さなかったミハイルだった。
これまでの話を聞いたエフィは、真顔で晩飯の準備をする。その様子を見かねてミハイルは心配そうにエフィの様子を見ている。するとエフィはミハイルに背を向けたまま落ち着いたいつもと同じような声で言う。
「ミハイルさん。明日、わたしは…王国軍を辞任します」
エフィはそう言うといつもと同じように食卓を囲み、いつもと同じように会話をして食事を取っていた。だが、ミハイルは今まで何度もエフィと食卓を囲んだが、彼女自身が悲しい時も苦しい時も嫌なことがあった時も嬉しい時も全く変わらなかった口数は、今日に限っての会話の口数が少なく感じた。
次の日、エフィは早々と家を出て城へ向かった。城では相変わらず周囲からは冷たくされ、まるで居場所がないかのように感じていた。そんな中、ルガは何の隔てもなくエフィに接する。
「気分はどうだ、」
エフィは余裕のある表情で応える。
「余りいい気分ではない、それに本当にこれでいいのかまだ迷いがあってな」
エフィはそう言いながらルガと一緒に広間へ向かう。毎朝行われる集会でエフィは昨日、ミハイルに言った通りに女王の前で辞任することを宣言した。
当然、周囲の者たちは一瞬驚きの表情を見せたが、その表情は少し悲しそうにも見えた。
集会が終わるとエフィはいつもと同じように一から二十四の隊の隊長を集めて会議を行なった。議題は次の参謀総長はだれが務めるのかという内容だった。しかし、会議がスムーズに進むことはなく、自らが進んで参謀総長に立候補するものはいなかった。最終的にはエフィの使命で、以前アスケラーデンがいた頃に副参謀総長を務めていたアベル・レアに決定された。そのことに異論を唱えるものはおらず、レア自身もとても嬉しそうにしていた。
会議が終わり、エフィは辞任するための署名を女王に提出したのちに、最後の挨拶としてある男の元へ行った。そこは靴屋でその相手はブリーレルのことだった。ユウは最後に彼に別れの挨拶を告げにきたのだ。
「どうしたの?急に。」
「近々王国を出て旅立つことになったのだ。それと、今までありがとう。様々な件でブリーレルには世話になった。多分もう会うことはないだろう」
エフィがそう言い終えるとブリーレルは納得した表情で。
「そうかい…こっちもお得意様がいなくなるのはちょっと寂しいな。でもキミ達の旅がいいものになるように僕は切に願ってるよ」
そしてエフィはその店を出ていった。するとすれ違い様にルガが店の中に入っていく。
「すいません、ちょっと欲しいものがあるんだけどオーダー頼める?」
ルガを見た瞬間、ブリーレルはニコッと満面の笑みを作る。するとそれと同時に陶器のカップがカチャカチャと音を立てて床に落ちた。するとブリーレルはすぐ様に床に落ちた割れているカップのカケラを一つずつ拾う。
「しまった、あ~落としちゃった」
そんなブリーレルに気にすることなくルガは仮面って売ってますか?と聞いた。
ブリーレルは真顔で部屋の隅の方を指して。
「仮面ならそこのテーブルに置いてあるのを好きに見てって」
彼はそう言うと一度店の奥の方に戻る。
ブリーレルが戻ってくるとルガはフードを下ろして白い仮面をつけた状態でブリーレルの方を向いている。
「お似合いですよ」
「ならこの仮面、買うことにするよ」
ルガはそう言ってブリーレルに近づいてポケットからお金を取り出す。
「今からそっちに行きますけど仮面を取ったらダメですよ」
ルガは忠告するようにそう言ってブリーレルの目の前に立つ。ルガはお金をブリーレルに渡した瞬間、ブリーレルはサッとルガの仮面を剥いだ。
ブリーレルが目を覚ますと目の前にルガはおらず、多くの街の人が店に集まっていた。感触だけでわかったが右の手の中にはルガに渡されたお金が入っていた。
それに気がつけば時は夜になっていることがわかった。ブリーレルはすぐに立ち上がりルガの後を追おうとするが追うどころか立つことすらままならず、立ち上がった瞬間足に力が入らず、転んでしまう。
「ママー、このおじいちゃんだれー?」
「ブリーレルのてんしゅさんと同じ格好をしているけど、知り合いの人?」
ブリーレルはその言葉に疑問を持ち、女の子に話しかけようとするが、呂律が回らない。それどころか声が掠れていて喋ろうとしても思った通りに喋ることができない。
彼は慌てて周りにある鏡を手に取って自分の顔を写し出すとそこには、90やそれ以上の年齢に見える恐ろしいほどヨボヨボになった自分の姿があった。
今の彼の頭の中は憎悪と恐怖で何も考えることができない。
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