チート狩り

京谷 榊

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第六章 平和の価値

五十六話 カレイジャス村

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 終戦を迎え、ミズ帝国から出征した兵士たちが帰ってきた翌日、ロスとタイカとフメリニツキの三人は列車を使いあるところへ向かっていた。
 三人ともいつもとは違うあまり派手ではない服を着てロスは帽子を取り、タイカはフメリニツキから借りた帽子を被り、単行本を十冊ほど重ねたくらいの大きさの箱を持っている。
「つきました、」
 フメリニツキのその言葉に反応し、ロスとタイカは列車から降りる。この日三人が来ているのはカレイジャス村という場所でこの前、ロスとタイカの二人がアヘンの栽培地域がどこかと調査しに来た村であり、フメリニツキと初めてあった場所もここである。
 この時の三人の表情は暗く、重大な任務を果たす時のような真剣な表情をしている。するとロスは隣を歩いている二人に話しかける。
「大丈夫ですか、二人とも顔色が優れてませんよ」
 ロスが喋り終えるとフメリニツキもロスに向かって言う。
「顔色が優れていないのはお互い様だよ、君こそ大丈夫かい?」
 フメリニツキもまた心配する気持ちでロスと話している。
「実を言うとあまり…。」
 走行している間に三人はカレイジャス村へつき、いきなり見覚えのあるおじさんと出会った。
「おまえら、また来たのか!」
 そのおじさんは大層苛立った様子で怒鳴ってくる。
「すみません、少しだけでいいので聞いてください。」
 フメリニツキの真剣な顔におじさんは少し萎縮し、大声を出すのをやめた。
「今から、とても辛いですがご報告させていただきます」
 フメリニツキはそう言うとおじさんはさっきまでの怒りを忘れたかのようにキョトンとした表情で彼の話を聞いている。
 フメリニツキはタイカから箱を受け取ると蓋を開けて中身を見せる。その中にはビエラがヤスケとエフィをさらった際に見せたあの薬のようなものが一つ大切そうに入れられていた。
 その後彼はこの薬のこと、戦争のこと、そして何より子供達のことを話した。
 その話を聞いたおじさんは膝を落として地面に手をつくと何もかもを失い今後の希望が一切絶たれたような表情で下を向いている。
 世の様子にロスもタイカも居た堪れない表情で見ていた。
 おじさんは泣き出した、すると付近の小屋から別の村人が出てくる。その人たちは痩せ細って体も小さく子供のように見えるが、この中に子供はおらず大人の男女だけだった。
 村人たちはフメリニツキの話をこっそり聞いて出てきたのである。すると、後から来た村人たちは箱の中に丁寧に入れられた薬のような物を見ると度肝を抜かれる。
 他の村人もおじさんと同様、顔をくしゃくしゃにして泣き喚いた。しかし、その体の貧弱さと体力のなさから、喚くと言っても喘ぎ声のようなものしか出てこなかった。
 するとおじさんはめくじらを立てて再びこの三人に怒鳴りつける。
「なぜだ‼︎…なぜお前たちのような奴らが元気そうにしていてあの子供たちがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ」
 三人はその後もおじさんの怒鳴りを聞き続けた。これが何の意味もないと知っていながら。しばらくしておじさんは言葉が詰まり出てくる言葉がなくなると、フメリニツキは相槌を打つように話を切り出した。
「左様です、ですのでコチラをあなた方へお渡ししに来たのと、後日改めて謝罪と慰謝料をお渡しします」
「世の中金で解決できると思ってんじゃねえよ!」
 すると、今まで我慢していたロスの堪忍袋の尾が切れる。
「そんなこと微塵も思っていませんよ!」
 それに対し周囲にいる者たちは驚き、目線は一斉にロスの方へ向けられる。
「そこまで言うくらいならなぜ、今までずっと子供を手放してきたんですか!子供のことを考えずに金にこだわっていたのはどっちですか!」
 ロスの言葉におじさんは驚き怒鳴るのをやめ、再び静かになった。
「好きで預けていたわけじゃねえよ」
 始めに小声でそう言うと後からまた言い直した。
「好きで子供たちを手放したわけじゃねえよ!最初は子供を受け渡すのにお金なんていらねえって断ったんだ、でもよお前たち国の役人たちはアイツらはとても役に立ってると言って金を渡してくるんだ。
 それに、ここにずっといさせるったってこの村には金も食糧も子供が喜ぶようなものも夢も希望も無ぇ、だからこんなところより少しでもいい思いをできる町の方に預けて幸せに暮らしてくれりゃあいいと思っていたのに、まさかこんな形で帰ってくるなんて」
 おじさんは泣きながらそう言っていた。先程の言葉を聞いたロスは酷くショックを受けた。子供達を町の方に渡していた理由を聞き、先ほどまで自分が放っていた言葉に後悔の念を持っていたのだ。
 タイカはそんなロスの肩を掴んで自分の身体に引き寄せて抱きしめるように強く押し付けた。
 するとフメリニツキは申し訳なさそうな表情で言う。
「では後日、正式に挨拶させていただきます」
 帰りの列車はとても静かだった。

 その日の午後からミズ帝国にて、これからの帝国の方針などを決めるための集会が行われた。
「それでは皆様、この国のこれからの方針と次期統治者についての会商を始めたいと思います」
 ヴィシチェ皇帝の妻であるアレクサンドラ皇后は前振りの挨拶など何も言わずに本題に入った。集まった帝国の権力者や兵士たちはそのことに少し疑問を持ったが、皇后があまりにも早急に話を進めるので誰も口を出さなかった。
 今現在の予算は…予備の食料は…次の統治者は…私たちにも手伝えることはないか…などと話は進められ、会議は最初は1時間や2時間程度のものになると思われていたが、20分ほどで肩がついた。
「これにて話し合いは終了とします。折り入って意見や質問があれば後日話し合いに応じます」
 アレクサンドラ皇后は言い終えると席をたとうとした。すると、会議に参加していた権力者の一人が質問した。
「今ここで一つ質問をよろしいでしょうか」
 皇后はその発言を聞くと特別に答えた。
「なぜ、ここまで早く終わらせる必要があるのですか?時間はまだあるはずですが…」
 この質問に皇后はすまし顔で答える。
「今は戦争が終わったばかり、そのおかげでこの戦いに力を貸してくれた兵士の方々も大臣の皆様も心身ともに疲れ切っていると思われます。ですのでこのようなつまらない話し合いに縛られずに、皆様にはゆっくりしてもらいたいのです」
 皇后はそう明言すると周囲から歓喜の声が上がる。
「左様でございますか。」
「まだ聞きたいことはありますか」
「いいえ、お忙しいところを申し訳ございませんでした」
 そしてたちまち会議は解散し、皆それぞれの仕事に戻った。それから数時間後あたりは暗くなり夕方になると街で灯りがつき始め、城の周りでは賑やかな声が聞こえてきた。

 そしてミズ帝国の兵士たちは休息を取る傍ら祖国でお祝いの準備をしていた。その頃、フメリニツキは地下牢である男と話をしていた。
 そこにはガスマスクで顔を覆い手錠をかけられ鎖で繋がれているビエラがいる。
「なぜ、あんなことを…ビエラ所長」
「なぜって、あの時言った通りだよ私にとってここはつまらない。やるなら早くやってしまえ…」
 ビエラは堂々とそう明言した。その後フメリニツキは後日、裁判でビエラの判決を決めると言いその場を去っていく。

 フメリニツキが地下牢から出て階段を登り城の広間へ行くとそこにはこれまでの戦いで共に戦った仲間たちがいる。
「おっ!主役の登場だァ!」
 一人の兵士がそう喋ると周囲もつられて同じ方向を向く。この場所にはルガの仲間たちを来ていた。ジョセフにユウにヤスケにロスにリアにタイカ、皆んながみんなこの場を祝っている。
「皆の衆、今宵は宴だ。」本当は部屋に戻ってベッドの上でダラダラと惰眠を貪るのもいいと思っていたが。
 フメリニツキは心の声が漏れていることに気づかずに話し続けている。それをしっかりと聞いていた者たちは笑いを堪える。
「存分に楽しんでくれ」
 彼は最後にそういうと宴に参加している者たちはコップを掲げて歓喜の声をあげる。
オオオオオオオオーーー‼︎‼︎
 その後フメリニツキは城内へ戻り、ある程度町を見渡せる高さのある階につくと外を見渡せるような部屋へ入る。その部屋はガランとしていて多少薄暗く人が来る気配もなかった。彼は窓を開けて下にいる宴を開いている者たちや町に暮らす人々の明かりを見渡していた。
 さらに、この日は輝海がある日でミズ帝国内の畑や壁門の付近、外側の地面が青や青緑色に光っている。しばらく外の景色を眺めていると後ろから自分の好きな声が聞こえてくる。
「フ……フメリニツキ殿…、」
 振り向くと赤いドレスに身を包んだスヴィエートがいる。彼女は少し顔をほてらせて嬉しそうにも恥ずかしそうにも見える。
「フメリニツキ殿は、あっ…あちらに行かれない…のですか?」
「…ああやって騒ぐのは苦手でなもんで」
 彼も目線を下にずらして喋る。するとスヴィエートはフメリニツキにおそるおそる近づいてフメリニツキの顔をまじまじと見る。
「あの…大丈夫ですか?」
 それに反応したフメリニツキは窓の縁に座って足を組む。そして彼女も隣に座ると二人は長々と会話を始める。

 一方でルガの仲間たちは城の広間でわいわいと宴を楽しんでいた。ジョセフやミズ帝国の兵士たちは酒を飲んでおり、その他の五人は酒は呑まずジュースと食事だけに手をつけている。
「いやー、楽しいねー」
「あいつもここにいればよかったのに」
 リアはルガを連想するような発言をする。しかし、今回ばかりは止められることなくヤスケもタイカもそうだね、と同感している。
「どうしますか、これから」
 不意にロスは仲間たちに聞くと真っ先にジョセフが答えた。
「そうだな、とりあえずあいつが無事だってことは分かったからあとはあっちの島の方で合流するだけだな」
 ジョセフのその言葉に周りは頷き、賑やかに会話を始める。
「そんなことよりル…あいつ今何してるんだろう」
 リアはみんなにそのことを聞き反応を待った。
「さあ?俺たちと同じようにあの女の子たちと仲良くやってんじゃねぇの?」
 ジョセフはそう答えると、ロスの顔が赤くなりしゃべろうとしても呂律が回らなくなった。
「それってもしかして…」
「そうとも、あいつと一緒にいたあの姉ちゃんたち全員ナイスバディだったもんな」
 それを聞くなりロスはニヤニヤと顔を綻ばせている。
「変態!」
 しかし、この時のリアのツッコミはロスに聞かなかった。
 その後も宴は続き、ヤスケは城の方からやってきたお姫様たちに連れられて城の方へついて行った。ロスとリアはその後も楽しそうに食事を続けていた。ユウとタイカは疲労が溜まっており先に宿屋に帰った。ジョセフの場合はその後も延々と宴が終わるまで酒を煽り、後日案の定二日酔いになった。
 







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