チート狩り

京谷 榊

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第五章 戦場にあるもの

四十一話 侵入

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 砦の爆発によって本来様々な方向から攻め入り敵兵を逃さず砦ごと落とす作戦の意味がなくなってしまった。
「この様子だと敵兵はとっくに逃げてるだろうな」
 沈黙したエフィにささやいた。
「でも隊長、一応何か手がかりがあるかもしれないから…」
「そうだな、何か痕跡とかあるかもな」
 そしてルガたち一班は爆発後の砦に向かった。しかし砦に向かったルガたちは思わぬ収穫を得ていた。
 異変はすぐにわかった。一班は砦に近づけば近づくほど異臭が鼻を刺した。
「なんだこの匂いは」
「…‼︎急げ、まだ人がいるぞ!」
 一班の皆は砦付近まで来るとそこには大勢の鎧を纏った敵兵がごろごろと倒れていた。
 中にはひどい状態の人もいて一班は誰彼構わず治療を施した。一班の軍医は四人しかいなかったが一班全員の協力で砦にいた負傷者たちの一部は難を逃れた。
 一班が彼らの治療を始めてしばらくしてから一人の兵士が地下から捕虜が見つかった。
 幸い地下から見つかった捕虜の人たちには負傷者などは見つからなかった。
 その後他の班もここについては一班を手伝った。
「早く手伝ってくれ!人手が足りないんだ」
 その日の午後、に早速ココドリロ王国兵士と敵軍、捕虜の者たちによる軽い話し合いがあった。
「助けてくれてありがとう、」
「うるせぇ安静にしてろ」
 エフィは敵軍の者に辛口だった。
「とにかく、重傷者も多い一度私たちの国へ皆を連れて帰省しようと思うのだが、その前に一つあなた方は女王の認可が出るまで拘束させてもらうがそれでいいか」
「構いません、この身が助かるのであれば」
 話し合いを終えるとエフィらは帰路についた。
「よし、それでは母国へ帰ろう」
 これによりココドリロ王国兵士による砦を攻め落とすはずの作戦は終わった。帰る途中で四班以外の隊長がある四班の兵士について聞いた。
「そういえば、四班が行軍に遅れた理由として出産に立ち会っていたと聞いたが結局どうなったのだ」
「あーあれね、どうしよっかなぁー、私的には教えてもいいんだけどなぁ」
 その兵士はチラチラと同じ班だった他の兵士を見ながら言った。
「やめておけ、一番最初に報告する相手は女王様だと決めたはずだ」
 しかし、出産した本人は
「男の子だったよ!」口が滑ったようだ。
 それから暫くは騒動がおさまらなかった。そのおかげでココドリロ王国に帰還する時間がさらに遠のいた。

 時間は数日遡り、ルゲン王国の中枢では他の国とは別の会議が開かれていた。
「以上が今後の方針である。今回はこれで解散とする」
 ある一人のガタイのいい男が数十人いる鎧を着た兵士たちに説明をしている。そいつはルガはをココドリロ王国への派遣を許可した軍隊長だった。しかも説明を受けている兵士の中にはアスケラーデンもいた。
 会議が終わるとアスケラーデンは城内を散歩していた。
 何かに思いふけるわけでもなくそのまっすぐな視線は幾つもある窓の横を通り過ぎ悠々と歩いていた。
 するとそんなアスケラーデンの元へ予想外の客がやってきた。
「あー!かいじゅうのおじちゃんだ!」
 それはアスケラーデンがここへきてからの数少ない馴染みのある声だった。
「いけませんお嬢さま、アスケラーデン様はお忙しいのですよ」
 小さな女の子がアスケラーデンに話しかけた直後に使用人の女性がやってきた。
「いいえ構いませんとも」
「お嬢さま、本日はいかがお過ごしですか」
「きょーわねーえーとねー…あ!おとうさま」
 アスケラーデンが後ろを振り返ろうと一旦視線を上げると使用人の女性はとっくに頭を下げていた。
「クヌート国王陛下、ヨムス侯爵様」
 アスケラーデンも同じように片膝をついて頭を下げた。
「もうよい頭をあげよ…、スヴェン、お父様によく顔を見せておくれ」
 すると女の子はクヌート国王の元へより楽しそうに話している。アスケラーデンはその様子を微笑ましく見ていたが、ヨムスはそうも行かなかった。ヨムス侯爵はいたって真剣な面持ちで国王ともお嬢さまとも接している。
「おとうさま、いっしょにお昼にしましょ」
「お嬢さま」
 使用人は少しおどおどした様子で対応するが、
「おお、そうだなちょうど私も仕事が片付いたところだ」
「使用人あとは任せてくれ、ヨムス其方も休息を取るがよい」
「「ははっ」」
 クヌート国王の風格はなかなかな物だった。娘には優しいが周りには厳しいと言ったものだった。
 国王はスヴェンを抱えて歩いていくとスヴェンは男の顔の横からひょこっと頭を覗かせて手を振った。
 それを見て三人は一礼をする。
 国王が言ってしまうと使用人はそそくさと仕事へ戻りアスケラーデンはまた城内をうろついていようと窓の外を見るが、ここでもまた引き止められた。
「アスケラーデンこのあと一緒に食事でもどうだ?いや、怪獣のおじちゃんと呼んだ方がいいかな」
 ヨムス侯爵は冗談まじりでアスケラーデンと対話する。
「ハッハッハッ、謹んでお受けいたします」
 そういうとアスケラーデンはヨムス侯爵の後をついて行き来た道を戻っていった。
 二人は歩きながらヨムスはアスケラーデンがここにきた時のことを詳しく聞いた。
 国の門で番人に捕らえられたアスケラーデンはその後、もう一つの姿である獣人の姿に変化しその強さとココドリロ王国の戦士であることを証明した。
 
 そう、アスケラーデンはワニのような動物を模した獣人の姿へと変化し、手枷を引きちぎった。
「うわぁ!化け物だ」
 そう言いながら剣や槍で迫ってくる門兵たちを鱗ついた腕で薙ぎ払い襲って来るものを次々と倒し、アスケラーデンは城へ向かった。
 その道中でも街の人や街の見回りをしていた兵隊は仰天し、追いかけられたり捕まりそうになったがアスケラーデンは母国で鍛え上げた自身の体術と技量で向かってくる兵隊を暴力を振るったり怪我人を出すことなくねじ伏せていった。
 そのようにして、走りながら何人もの敵を相手にして普通であればすぐにバテるところだが、彼は一切疲れを見せるような素振りや息を切らすことなく街中を駆け抜けた。
 そして城に着く頃には街で怪物が暴れているとの報告を聞きつけ、銃や魔法などの武器を揃えた状態の兵士たちが待ち構えており、
それらは一斉に買い物に目掛けて発射した。
 しかし、アスケラーデンはそんな物に怯んだり負傷したりすることなく突き進み、閉じている城の門を無理矢理にでもこじ開けて城内へ侵入した。
 城に入ってから最初に出会ったのはこの国でも名誉のある女騎士だった。
 その女騎士はアスケラーデンに向かって剣を抜きながら勝負を挑んだ。
「我らが国を侵そうとする怪物よ尋常に勝負だ!」
 するとその言葉に応えるようにアスケラーデンも腰に下げた剣を抜き構えた。
 結果はアスケラーデンの圧勝だった。女騎士の剣はアスケラーデンの剣の一振りで壊れてしまいその上、アスケラーデンは手加減をしたのか女騎士を掴むと投げようとする素振りを見せるが、実際は彼女を近くの椅子に座らせ素早く一礼をすると早急に去っていった。
 その次に出会ったのはアスケラーデンと同じように他国より派遣された戦士だった。
 そいつらは二人組で、二人とも白い鎧を着て両手で一つの剣を握っていた。
「最初は冗談かと思っていたが本当にいるんだな化物、」
 この問いかけにもう一人の戦士は
「油断するなここまでくるということはかなりの手練れだ」
 アスケラーデンは剣を片手で持ちもう片方の手には懐から出した短剣を握りしめ、二人組の戦士に挑んだ。
 始めは同時に別の方向から襲ってくる剣に苦戦し、防ぐことでいっぱいだったのだが戦闘を続けていくうちに相手のほんの細かな隙を見つけては容赦なく攻め、最終的には剣ではなく柔道のような投げ技で二人の戦士を倒した。
 これまでに三人の防衛を突破したアスケラーデンは階段を登り国王のいる王室を目指した。
 もちろんその道中でも剣や槍を持った兵士や魔法使いなどの敵が立ち塞がったがアスケラーデンは構わずに猛進し城の最上階まで登り詰めた。
 その最上階の部屋にいたのがヨムスだった。彼が使う武器は剣ではなく巨大なマサカリでヨムスはそれを巧みに操りアスケラーデンに確実に攻撃を当てに行った。
「このルゲン王国だけでなくこの城に侵入するとはなんという不届き!この国の情けのため貴様を成敗いたすぅ‼︎」
 その一方でアスケラーデンは相手のマサカリによる一撃、その全てが重く強い衝撃で攻撃を剣で受け止めるだけでダメージが入ってくる。そんなアスケラーデンでも押されるだけでなく剣を振ったり相手の間合いに入ったりするなど攻めの姿勢にも入ってはいるものの一向に攻撃が当たらない。
 そこでアスケラーデンは周囲を見渡すとあることに気がついた。今戦っている場所は極めて狭く、ヨムスの振り回しているマサカリを半径に円を描くとその円より少しばかり広いくらい、部屋で例えると八畳ほどだった。
 アスケラーデンは思いついたことをすぐに実行した。ほぼほぼ部屋の中心で武器を振り回している相手の注意を引いてその場から動かさせる。すると次は相手をもっと攻撃を受けながら壁によるように促す。
 すると相手も自分の策略に気がついたのかまた部屋の中心へと戻ろうとしている。
 アスケラーデンはそうはさせまいと自分から相手の間合いに入り自分から攻撃にあたりにいった。
 その行動にヨムスはつい釣られてしまい、マサカリを横に思いっきり振った。アスケラーデンはそれをギリギリのところで下へと躱し、マサカリは壁に食い込み抜けなくなってしまった。
 その隙を狙って瞬時に起きあがったアスケラーデンは剣のフラーという刃のない平べったい部分を、バットで素振りをするようにスイングし、ヨムスの顔面に当てた。
 するとヨムスはたちまち気を失いその場に倒れた。
 その一部始終を見ていた兵士は絶叫して階段を降りていった。
「ヨムス侯爵が負けた!」
「ヨムス様が気絶した!」
 だが、アスケラーデンの猛進は止まることを知らずまた再開した。
 今度は何をしているのかというとその最上階にある窓のような吹き抜けから外を見渡し何かを探していた。それは王室だった。
 獣化したことにより視力まで良くなったアスケラーデンは外を見渡して王のいる場所を探した。
 するとある窓からこちらを眺めるように威圧のある視線を向けている男がいた。アスケラーデンは一発でこの国の国王だと分かった。
 それは彼の頭に乗っているものがそれを示していた。
 アスケラーデンは助走をつけてその窓から勢いよく飛び出した。それを見た近くにいた兵士や他の窓から見ていた使用人たちはこの城の最上階から飛び降りるという破天荒な行動に驚愕していた。誰もが驚き緊張していたためか、その滞空時間が長く感じられた。
 アスケラーデンの向かった先はもちろん国王のいる部屋の窓だった。
 彼は国王のいる部屋の窓に盛大に突っ込み大きな音を立てて窓ガラスを割った。
「お初にお目にかかります‼︎わたくしはココドリロ王国より遣わされた戦士アスケラーデンと申す‼︎」
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