チート狩り

京谷 榊

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第五章 戦場にあるもの

三十八話 派遣

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「今日は大変でしたね」
 そう一言呟くなりロスはテーブルに突っ伏してため息を吐く。
「そうですね、私も慣れない職場で緊張していました」
 ヤスケもだいぶ疲れた様子で椅子にもたれかかっている。
「はぁ~初日でこれじゃあ身がもたねぇぜ」
 ジョセフはそう言いながらコップについだお酒をグイっと飲み干す。
 その男三人の様子をみてリアは、マウントを取るかのように喝を入れる。
「だらしないわねー、そんなこと言ってるとルガに笑われるわよ」
「アイツもどうせ俺たちみたいに疲れてダラダラしてると思うぜ」
「どうだろうね、そもそも安否の確認も取れてないし」
 通信機を見ながらタイカは言った。
「それなら一度通信をとってみてはいかがですか」
「何度も試してるんだけど行かないんだ」
「そもそもそれってどういう仕組みなんだよ」
「これかい?この通信機は着信が来たら光る仕組みになってるんだ、だからここに来る前に何度もかけてみたけど繋がらなくて」
「ああ、だからあの時私の背中の上で魔力を感じるなぁと思ったらそれだったのね」
 この言葉に周りの客たちは反応する。
背中?アイツら何言ってんだ、バカ!知らねえのかよ、あの人たちはこの帝国に派遣されたスーパーエリートな特殊部隊の方々だぞ!
 彼らは小声で喋っているつもりだが全て筒抜けである。これらの言葉を胸に留めてジョセフたちは会話を続けた。
「そんなことより、よくこんなこと思いついたよな」
 ジョセフはタイカとリアに向かって言った。
「だって作戦会議は重要でしょ」
「そうよその通りよ」
 ジョセフたちはここに来る前はちゃんとそれぞれが遠く離れた場所に配属されていた状態であった。
 だが、タイカはリアという最高の交通手段を使ってみんなをここに集めたのだ。
 リアは竜化し、各々の派遣先に行っては背中に乗せて、全員を乗せたのちにここへ来たのである。
「しかしまぁ、ヤスケのところはよく許可が降りたな」
「はい、最初はただをこねられましたが側近の特殊部隊の方々にも用事はあるということでギリギリの許可をいただいたのです」
「ギリギリねぇ…」
「でも王族の護衛なんて大変そうですね」
「はい、ですが私が前まで勤めていたところでも似たような仕事がいくつかありましたので意外と早めに慣れそうです」
 その話を聞いてタイカは悪い顔をして
「それならよかった、ヤスケが皇帝直属の護衛を頼まれたらそのまま皇帝の寝首を書いてもらおうと思っていたところよ」
 その言葉を聞くなりヤスケは吹き出した。
「冗談に決まってんでしょ」
「いくらなんでもその冗談はキツイですよ」
 ロスは引く様子でタイカを見る。
「それに周りに聞こえたらまずいぞ」
 ユウは前のめりになって言う。
「大丈夫よ結界はちゃんと張ってあるから」
 ジョセフたちはしばらく世間話をしてある程度時間が経った頃、ヤスケはそろそろ時間だと言うことで席を立つとそろそろ解散しますかとタイカは言い出し、それに乗じてジョセフたちは各自の派遣先へと解散した。
 ジョセフとタイカとリアは国外での活動だったため、リアが竜化しその背中に乗ってジョセフとタイカは自分たちの派遣先へ戻っていった。
 一方でロスとヤスケとユウは国内での業務だったためリアの背中には乗らずに歩いて帰って行った。
 そして、ユウはヤスケとロスとは別方向だったので酒屋を出た時点で別れの挨拶を済ませた。
 その後、ロスとヤスケは城の方に向かって歩いていると酒に酔ったせいか道中でよく大声で叫んでいる人や気をおかしくしている人が度々見かけられた。
 ヤスケはだれかれ構わず声をかけては身を案じるがいちいち相手をしているとキリがないため少し残念そうな表情をしていた。
 だが、ロスとヤスケの前には明らかに体調の悪そうな男が現れた。
 その男は口から泡を吹いて白目を剥き痙攣しており、あからさまに様子がおかしかった。
 ロスはその男の様子を見るなり回復魔法をかけてその場しのぎをした。しかし、男の病状は良くなったものの今度は別のことを言い出した。
「うわぁぁぁ‼︎やめろ!こっちへ来るなぁ」
 そう言った。
 ロスとヤスケは自分らを何かと勘違いしているのではないかと優しく声をかけるが、男は怯えて叫んでばかりでロスたちの声に応えることはなかった。その後男は立ち上がるなり走って逃げってしまった。
 ヤスケはしゃがんだ体制から立ち上がり遠くを見つめるように男の背中を目で追う。がロスは眉をひそめて男の逃げる様を眺めていた。
 ロスとヤスケはその後自分たちの派遣先へ戻り各々で休みを取った。
 
 次の日、ココドリロ王国ではルガが朝早く叩き起こされるや否やエフィに連れられて食堂へ向かった。ルガはそこで支給される食事を取り、その後城の王室へと連れられた。
 そこで、ルガは敵軍を捕まえたとのことで陛下直々の感謝状をもらった。
 その後、ルガは訓練にて指導役に任命され、その日の訓練はルガが兵士たちの訓練を行った。
「今日の訓練の指導をするルガだ、いつもと同じようなペースで進めていく。アップとストレッチと補強運動が終わったら本日の本メニューに入る。終わった声をかけてくれ」
 ルガはそういうと何かの準備に取り掛かる。
「今日はルガちゃんが指導役だって」
「そこ!私語は慎むように」
 兵士たちは着々と準備運動を進めていく。そこ間ルガは、魔法を使っているのだろうかさまざまな聞き覚えのない音が聞こえてくる。兵士たちはこれから自分たちがどんな訓練を受けるのかを想像してはワクワクしていた。
 兵士一同は準備運動を終えると代表を一人選んで作業中のルガに駆け寄ると報告した。
「兵士一同、走り込み、体操、補強運動全て終了しました」
「よし解散」
 その兵士は一切聞き返すことなく無表情で訓練生たちの元に戻って伝えた。
「解散だって、」
「はぁ⁉︎」
「そんなわけないだろ」
「いや、でも…」
「本当は訓練を切り上げたくて嘘言ってんじゃねーのか」
「ほんとです!」
「それじゃあもう一度聞いてこい、解散なわけねーだろ!」
「解散だ」
 代表になった兵士の後ろからルガが現れる。
「なぜ今日はもう解散なんですか、一種の心理テストとか」
「今日もう解散だ、明日同じ時間に全員集合するように」
 ルガはそう言うと訓練場を後にした。その後訓練場ではこのままでは不完全燃焼だと言い出しその後も訓練を続けた。
 次の日、ルガはいつもより少し遅れて訓練場に来た。その時ルガは予想が的中した時のようなテンションで訓練場を見渡している。
 この時ルガの目の前には痛みで悶絶している兵士たちが我慢して整列している。
 しかも、人数は昨日よりも少なく体調不良を訴え訓練を休んでいる兵士が複数人いた。
 ルガが目に見えるなりエフィはルガのもとに歩み寄って怒鳴り散らす。
「おい…、これはどう…いうことだ…。」
 エフィは怒鳴り声を上げるどころか今の苦しさに悶えてかすり声を上げるのが精一杯だった。
「あ~あ、言わんこっちゃない、昨日はあれで解散だって言ったのに」
「そのことについては謝ろう…、昨日いったい、私たちに何をしたのだ」
「それについてはこれから説明する、だからその前にここにいる全員の痛みを軽減させるから楽にしてて」
 そして魔法を使い青い色の風を起こし兵士たちに吹きかけると、体の痛みや苦しみが消えた様子で体のさまざまな部位を触って確認していた。
 その後、兵士たちからの文句があったがそれらを落ち着かせてからルガは説明に入った。
 まず順を追って話そう俺が昨日君たちにかけた魔法は君たちの魔力を増強させたうえに使いやすくする魔法だ。そのせいで普段使わない魔力をエネルギー源にして体を動かしトレーニングをしていた君等は以前よりも体が自動的に魔力を多く回復しようとしている。
 その回復量の慣れなさに丹田に負荷がかかって炎症を起こす、それがさっきまで君たちがかかっていた魔素炎だ。要は筋肉痛のようなものさ。
 ルガはそうやって兵士たちに説明を終えるとこれからする魔法を使った訓練の話をした。
 まず魔法の訓練をする前に属性について教える。元は四大元素の火、水、土、風の四つに分かれている。簡単なのはここまででここからはとても難しい話になる。
 四大元素の強弱は火属性に対して水、土、風の属性が対立していて火と三つの属性で強弱が決まる。
 でもじつは属性に強弱なんて関係ないんだ。火に弱い水や土や風があればその逆もある。
 その他にも火よりも水が強くて水よりも土が強くて土よりも風が強く風よりも火が強いなんてこともある。
 俺の知っている魔法協会では火と水土風の二つで強弱が決まるとか言ってるけど、他の協会ではもっと別な強弱の相性があったりする。
 結論を言うと協会でによって相性の関係性はバラバラだから本当にややこしいんだ。
 ルガは四大元素に関する説明を終えると質問を受け付けずに次の説明に入った。
 もう一つ、この世には魔法と魔術が存在するがそれらをまとめて魔学と呼んでいることは知っているよな。
 魔法はこの世の法則や神の力とか言う下らないものに基づいて成り立っていて、発動や現れた時は安定している。
 それと魔術って言うのは魔力を知識や術式によって作り出したもので術自体は安定しておらず失敗することもある。
 ざっくり言えば魔法は魔力を使った現象、一方で魔力になんやかんや組み込んで完成した現象が魔術だ。
 だから職業では魔法士と魔術士に分かれている。ちなみに士と師では師が上で士が下、魔法士と魔術士は同等だけど士が師に変わるだけで差がある。
 質問したいことがあったら別の機会にしてくれ。
 ルガはそう言うと兵士たちに訓練を始めさせた。準備運動はいつもと同じで本番の訓練メニューは魔法を使った訓練を行った。

 その翌日ルガやココドリロ兵士の出陣が決まった。というのも、ココドリロ兵士一同が戦場に赴き敵軍を追っ払えとの命令だった。
 その他にもココドリロ王国からルゲン王国に向けて一人代表役を決めて派遣させようと女王は決断したのであった。
 この日の会議はそれを誰にするかを決めるという議題で会議が進められた。女王はあらかじめ派遣に出すものを決めていたがその他にもついて行きたいと考えている者がいれば申し出よと、その場にいる兵士たちに聞いたが大半の兵士は下を向き誰一人として名乗り出る者がおらず女王はため息をつき側近の兵士の名前を呼ぶと、側近の兵士は大きな声で議題の閉幕の合図を口にすると次は女王の合図で側近の兵士に派遣させる代表者の名前を挙げさせた。
「では今から代表者の名を挙げる、呼ばれた者は前にでよ」
 この言葉で室内の空気が一気に変わった。
それと同時に代表者の名前を読み上げる兵士は眉をひそめていった。
「代表者、参謀総長アスケラーデン」
「はっ!」
 参謀総長の返事は室内全体に響き渡り斬音となってその場の皆んなの耳にしっかりと刻まれた。
 参謀総長の返事と共に周囲は騒めく。
 それも当然のことだった、国内でも希少かつ貴重である男を他国に派遣させるのだから無理はなかった。
 だが参謀総長女王のすぐそばから現れては女王の前に出て一礼し、女王自らの命令を聴いた。
「出発は明日の早朝とする、どのようなことがあろうとココドリロ王国の兵士そして何よりも国民として、恥じぬよう責務を務めよ」
「はっ!己そして我国に恥じぬよう責務を果たして参ります」
 参謀総長はそう言うと女王の王座に近く女王から見て右側の最も奥の場所に戻った。
 すると女王は次の一言で。
「これにて会議は閉会とする」
 そう言うと王室の門が開き手前の人から順に王室を出ていった。
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