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その後
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しおりを挟む「あっ、これ絶対似合いますよ!」
そう明るい声を出し、春がキラキラとした顔で雅を見上げる。
その笑顔に雅はクッと唸りながらも、手にしている携帯に視線を落とした。
春の家に呼ばれ、予想外の広さやら何やらに驚いていたものの、俺の部屋でゆっくりしましょう! なんて言った春に手を引かれた雅は今、春の部屋のベッドの縁に、二人仲良く腰掛けていた。
春の部屋は意外にも青を基調とした、爽やかですっきりとした部屋で。
綺麗に整えられた空間は居心地が良く、しかし充満する春の匂いや、そして隣には当たり前だが春が居るという事に雅はドクドクと煩く心臓を高鳴らせたまま、けれども携帯の画面に映る服をじっと見た。
それは先ほど春が教えてくれた、悠希が立ち上げたというブランドの服で、部屋に入るなり春は用意してくれた飲み物を早々にローテーブルに置き、ポンポンとベッドを叩いては『一緒に座りながら服を見てみましょう!』と嬉々として画面を見せてきたのだ。
それが愛らしく、しかし先程から似合うと思うと言ってくれた服が全て中々にラブリー系な事に、雅は口を開いた。
「……春が着るにはぴったりだと思うけど、こういう系は流石に俺には無理じゃないか……?」
「そんな事ないですよ!」
「いやでも……、」
「雅さんは自分の外見を過小評価し過ぎです! こんなに格好良くて綺麗なんですから、もっともっと自信もってください!」
「……お、おぉ」
綺麗だなんて言われた事がない雅が、春の勢いに気圧され戸惑いつつも、頷く。
そんな雅の態度に春はしかし、雅の頬を両手で掴んでは、じっと見つめてきた。
「ほんとですからね」
「っ、う、うん……」
「……ふふ、照れてる雅さん、可愛い」
「可愛いって、……それは春だろ」
「っ、」
可愛いなどと言われ慣れているだろう春が、けれども可愛らしく口をつぐんでは、ぽわりと頬を染めていて。
それが本当に愛らしく、雅は堪らず頬を掴む春の手に自身の手を重ね、春の唇をじっと見た。
突如、二人の間に漂う、緊張感。
先ほどデート中に何度も何度も人目を盗んでキスをしたというのに、しかし今この空間には二人だけしか居ないという事実が熱を籠らせ、雅は小さく息を飲んだ春の指にするりと指を絡めながら、囁いた。
「……春」
「……はい」
「キスしたい。キスして良い?」
「っ、は、はい……」
「……ん」
はい。と声を震わせる春も、今からするキスが先ほどの可愛らしいバードキスなんかではない事に、気付いている。
それでも、ギュッと目を閉じ雅からのキスを待っている春はあまりにも魅力的で、雅は吸い寄せられるように首を軽く傾けながら、春の唇にそっと唇を押し当てた。
「んっ、」
春から小さく漏れる、声。
それですら甘く、もっと聞きたい。とねだるよう雅が春の唇を舌先で優しく舐める。
そうすれば抵抗なくゆるりと開かれた唇の隙間に、雅は小さく微笑みながら春の咥内へと舌を潜り込ませた。
くちゅり。と絡まる舌先はぬるつき温かく、ハッ、と二人の間に落ちる吐息。
敏感な上顎を舌で撫でれば春の体がピクンと震え、春の様子を伺うよう薄目を開けて見ていた雅はその可愛さに内心で悶えながら、春の咥内をねぶった。
「は、ん……、ぁ、」
「……はる、」
一生懸命拙い仕草ながらも、必死にくちゅくちゅと舌を絡ませてくる春。
二人の間には吐息と水音が響き、脳内にですら反響するその卑猥な音と春の甘やかな声に堪らず雅はぐっと体を押し、握っていたままだった手ごと、春を簡単にベッドへと押し倒した。
ポスン、と柔らかくマットレスに沈んだ春はしかし、絡まりあった手をぎゅっと強く握り返してくるだけ。
それに調子づいた雅が春の足の間に自身の足を割り込ませ、尚も春へキスを続けた。
「ぁ、ん、ふ……、」
春の唇の隙間から、嬌声と共に飲み込みきれなかった唾液が、たらりと溢れてゆく。
しかしそれでも止められず、雅が舌で春の咥内を舐め回し、甘美な口の中を堪能していた、その瞬間──……。
ガチャン! と遠くから響く鍵の音がして、雅はまるで脱兎のごとき速さで春の上から身を離した。
春の幼馴染みが帰ってきた!! とハッとした雅がそれから、……やっっば……、止まらなくなるとこだった……。てか、同居人の不在を良いことに俺はなんて事を……!
なんて、内心で焦りと反省をした雅が、バクバクと心臓を鳴らす。
だがそんな雅とは違い、キスに浸っていた春は未だとろんとした眼差しのまま、唇をぽっかり開いていて。
その唇の端から垂れる銀色の糸も、シーツに広がる蜂蜜色の髪の毛も、そして何よりもその潤んだ瞳と火照る頬の魅惑さに思わずごくりと唾を飲んだ雅だったが、しかし春の口の端を優しく拭ったあと、すぐに春の腕を取った。
「は、春、起きれる?」
「ぁ、……え、なん、で……、」
どうやら悠希が帰ってきた事に気付いていないのか、まだもっと。と言外に示し眉を下げ、潤んだ瞳で見つめてくる春。
それがやはりとても扇情的で、雅がングッと唸ってしまった、その瞬間。
『春~、ただいま、遅くなってごめんね。……あれ、春?』
だなんて雅にとっては知らぬ声がし、しかし春はその声にぎょっと目を見開いて、先ほどの雅と同じよう、バッと上体を起こした。
「お、おかえり悠希!! 今部屋だからすぐ行く!! ちょっと待ってて!!」
羞恥から顔を真っ赤にしながらも春がそう叫び、返事をする。
そんな春に、分かった~。と呑気な返事をした悠希の声を聞き、早急に手を出そうとしてしまった己をまたしても恥じた雅も、顔を真っ赤にした。
「……い、行かない、とですね!」
「っ、あ、あぁ、うん」
そうギクシャクとした態度を取りながらも、視線を逸らす二人。
その何とも言えぬ空気のなか、しかし雅はチラリと盗み見た春の髪の毛が乱れてしまっている事に気付き、髪の毛を整えようと、無意識に手を伸ばした。
「っ、やっ、」
だがその言葉と共に春がパシりと雅の手を叩き、その予想外の拒絶に雅は息を飲んでは、途端にズキンッと心臓が痛むのを感じながら、顔を青ざめさせた。
「っ、」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
「い、いや、大丈夫、俺の方こそ、ごめん……」
ごめん。と言いながらも、初めて春に拒絶され、情けなくも雅が泣きそうな顔をする。
その、へにゃりと眉を下げ口をつぐむ雅の捨てられた子犬のような表情に、春は目を見開いておろおろとしては、違うんです! と声を張り上げた。
「ちが、違うんです! 触られるのが嫌って訳じゃなくてっ、」
「……」
「……」
「……」
「……そ、その、さっきのキスの余韻が、まだ消えてなくて……、それなのに今雅さんに触られたら、俺……、」
だなんて観念するよう俯き、ベッドの縁に座ったままの春が、もじもじと膝を擦り合わせている。
そして手で股間を隠すような仕草をしている春の、その明らかに勃起している様子に、雅は別の意味で息を飲んでしまった。
「っ、」
「だから、その、落ち着くまで触んないでください……」
そう顔を真っ赤にし、これ以上刺激されると本当に収まらなくなる。と呟く春の、愛らしさ。
しかしその中にありありと魅惑さを潜めさせており、……な、なんっ、と声にならぬ声を心の中で呟いた雅は、止めていた息を盛大に吐き、へなへなと座り込んでしまった。
「……ッッ、はぁ~~っっ」
「え、雅さん?」
突然しゃがみこんでしまった雅の行動に、当然だが春が目を見開き、心配げに声をかけてくる。
だが、雅はもう堪らずくわっと口を開き、自身の膝の間に顔を埋めては、なるべく小さい声ながらも叫んでいた。
「春が可愛すぎて触らなくてもフル勃起しそうなんだけど……!!」
だなんて、心の声を盛大に吐き出した、雅の独り言。
それに今度は春が息を飲み、しかし何も言えないようで、勃起しかけた自身の息子を必死に抑え込む二人。という、何とも間抜けで滑稽な絵面だけが、ただただ部屋に広がっているのだった。
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