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冒険者の血統
ヴェロスの牢獄
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そもそも、セイラル盗賊団への依頼者は、ヴェロスに直接関係する荷物とは一切言っていなかった。
これは嵌められたか?
ギルドが関わる荷物なら、間違いなく強力な護衛を連れているに決まっている。現に剣士らしき男は相当な強者だ。
この魔法主義世界で、ここまで直接攻撃に対応出来る者がいるとは。
「くそっ!」──貧乏くじ引いちまった。
「ふふ……残念だったわね」女が俺に笑顔を溢す。
よく見ると死ぬほど可愛い──が、年齢はかなり若そうだ。身体も細い。こんな飾りみたいな女が隊長とは……
ヴェロスのギルド隊も噂程じゃ無さそうだな。
ギルド隊と言えばヴェロスの警備隊的な立ち位置で、帝国の兵士の様な者達なのだ。かなりやり手だと噂に聞いていた。
「私とバラン、カーク、レイブンはサラン国の方々を護衛していきます。残りの者は、この盗賊達を縛り上げて。一旦ギルドの牢に入れておきなさい」
女も口だけは立派なもんだ。どうせ親の七光りか何かだろう……
この世の中は魔力や家柄だけでいくらでも偉くなれる。俺はこんな魔法主義の世の中が大嫌いだ。
女隊長と他三名が商人一行と共にヴェロスへと向かう。
俺達は全員、残ったギルド隊によって魔法で拘束され男達に縛り上げられる。
「しかし、お前らも大変だな。女に濃き使われて」と、俺はギルド隊の一人を挑発する。
「──盗賊ごときに何がわかる」
「ああ。分からんけど俺はゴメンだね。女にペコペコしてるお前らが可哀想だ」
「ローズ様はお前が思っている様な人じゃない」俺の皮肉にも男は顔色一つ変えない。
だが俺の縛り上げはギュッと、もう一段階きつくされた。
なるほど、あの女はローズと言うのか。可愛いくも刺がある雰囲気がピッタリじゃないか。
捕まってなければ服従させてやりたい衝動に駆られる。
◇◇◇
投獄されて三日目────明日には俺達は、アールヘイズの帝都レクスマイアに送られるらしい。
兎に角、暇だった。というか、今は妙に牢屋の中が静かだ。
いつも看守がウロウロしていて、暇潰しに話し相手になってもらっていたのだが。
数時間前から異様な程に辺りは静まり返っていた。
逃げても分からねぇだろこれ。
しかし、逃げる手段が無いのだが────牢屋は律儀に魔法結界が施されているので、魔法による脱獄は不可能。
物理的な鍵を何とかするしかない。まあ、鍵穴に差し込む道具も無いのだが。
俺は鉄格子に顔を張り付けて通路の様子を伺うが、やはり物音一つしない。アンナやトータル、ヤンマは近くにいないのだろうか?
────突然辺りが激しく揺れた。
「な、なんだ!?」
上の方から、何かが爆発する様な音が聞こえる。
ここは地下なので、地上の方で何かが起きたのだろうが。一体何が起きているんだ?
親父達が助けに来たのだろうか──いや。あり得ない。
正面切ってヴェロスにケンカ売る程、馬鹿な親父では無い。やるなら、コッソリだろう。
「シュウ!?」突然アンナの声が聞こえた。
「アンナか! 近くにいるのか?」
「分からないけど、それよりこの音、何? 私の所、崩れそうで怖いんだけど?」
「それは良かったな。脱獄出来たら俺の事も助けに来てくれ」
「そうね。その前に、私が瓦礫に押し潰されなかったらね」
「祈ってやるよ──俺の脱出の為に」
それから振動は更に大きく、爆発音も激しくなっていき────突然、天井が細かく剥がれ落ちた。途端に俺の身体がその破片に埋められていく。
アンナに変な冗談を言ったせいで罰でも当たったか。
こんな所で瓦礫に埋もれて死ぬのだけはゴメンだったが、どうにも運にまで見放されたようだ。
それからどれくらいだろうか───そんなには経っていないと思うのだが、俺は意識を失っていたらしい。
意外と軽い瓦礫を退かして這い出ると、建物が倒壊したわけではなさそうだった。
それが良い事なのか悪い事なのか分からないが、俺の身体は無事だったが、牢獄自体も壊れてはおらず。俺は相変わらず鉄格子の中から出られないようだ。
「くそっ! おい、アンナ? 無事か?」
叫んでみたがアンナは呼び掛けに応じない。
まさか、あいつも埋もれたのだろうか──等と思っていると……
「シュウ大丈夫?」
「若旦那、無事ですか?」
「今助けるぞ~」
アンナ、トータル、ヤンマの三人が突如。鉄格子の向こうに現れたのだ。彼らの所は上手く崩れて脱出出来たのかもしれない。
トータルが速やかに鉄格子の扉の鍵を開けてくれた。
「はい。シュウ、これ」アンナが俺に弓と矢を渡す。
「お、おう。助かった」
何処から見付けて来たのか、その手際の良さに俺は思わず驚きながらも、今は細かい事は置いて逃げる事にした。
「よし。とりあえず外に出るぞ」
牢屋の出口へと向かったが、通路には誰もいないし上へ行く階段にも誰もいない。本当に、もぬけの殻だ。
しかし。
階段を上って行く度に事態の異常さを感じた。ギルド隊や看守の死体が転がっていたのだ。
「一体何が起きてるんだ!?」
その死に方は、建物の崩落とかに巻き込まれた風でもない。そもそも建物自体は、殆んど壊れていないのだから。
これは嵌められたか?
ギルドが関わる荷物なら、間違いなく強力な護衛を連れているに決まっている。現に剣士らしき男は相当な強者だ。
この魔法主義世界で、ここまで直接攻撃に対応出来る者がいるとは。
「くそっ!」──貧乏くじ引いちまった。
「ふふ……残念だったわね」女が俺に笑顔を溢す。
よく見ると死ぬほど可愛い──が、年齢はかなり若そうだ。身体も細い。こんな飾りみたいな女が隊長とは……
ヴェロスのギルド隊も噂程じゃ無さそうだな。
ギルド隊と言えばヴェロスの警備隊的な立ち位置で、帝国の兵士の様な者達なのだ。かなりやり手だと噂に聞いていた。
「私とバラン、カーク、レイブンはサラン国の方々を護衛していきます。残りの者は、この盗賊達を縛り上げて。一旦ギルドの牢に入れておきなさい」
女も口だけは立派なもんだ。どうせ親の七光りか何かだろう……
この世の中は魔力や家柄だけでいくらでも偉くなれる。俺はこんな魔法主義の世の中が大嫌いだ。
女隊長と他三名が商人一行と共にヴェロスへと向かう。
俺達は全員、残ったギルド隊によって魔法で拘束され男達に縛り上げられる。
「しかし、お前らも大変だな。女に濃き使われて」と、俺はギルド隊の一人を挑発する。
「──盗賊ごときに何がわかる」
「ああ。分からんけど俺はゴメンだね。女にペコペコしてるお前らが可哀想だ」
「ローズ様はお前が思っている様な人じゃない」俺の皮肉にも男は顔色一つ変えない。
だが俺の縛り上げはギュッと、もう一段階きつくされた。
なるほど、あの女はローズと言うのか。可愛いくも刺がある雰囲気がピッタリじゃないか。
捕まってなければ服従させてやりたい衝動に駆られる。
◇◇◇
投獄されて三日目────明日には俺達は、アールヘイズの帝都レクスマイアに送られるらしい。
兎に角、暇だった。というか、今は妙に牢屋の中が静かだ。
いつも看守がウロウロしていて、暇潰しに話し相手になってもらっていたのだが。
数時間前から異様な程に辺りは静まり返っていた。
逃げても分からねぇだろこれ。
しかし、逃げる手段が無いのだが────牢屋は律儀に魔法結界が施されているので、魔法による脱獄は不可能。
物理的な鍵を何とかするしかない。まあ、鍵穴に差し込む道具も無いのだが。
俺は鉄格子に顔を張り付けて通路の様子を伺うが、やはり物音一つしない。アンナやトータル、ヤンマは近くにいないのだろうか?
────突然辺りが激しく揺れた。
「な、なんだ!?」
上の方から、何かが爆発する様な音が聞こえる。
ここは地下なので、地上の方で何かが起きたのだろうが。一体何が起きているんだ?
親父達が助けに来たのだろうか──いや。あり得ない。
正面切ってヴェロスにケンカ売る程、馬鹿な親父では無い。やるなら、コッソリだろう。
「シュウ!?」突然アンナの声が聞こえた。
「アンナか! 近くにいるのか?」
「分からないけど、それよりこの音、何? 私の所、崩れそうで怖いんだけど?」
「それは良かったな。脱獄出来たら俺の事も助けに来てくれ」
「そうね。その前に、私が瓦礫に押し潰されなかったらね」
「祈ってやるよ──俺の脱出の為に」
それから振動は更に大きく、爆発音も激しくなっていき────突然、天井が細かく剥がれ落ちた。途端に俺の身体がその破片に埋められていく。
アンナに変な冗談を言ったせいで罰でも当たったか。
こんな所で瓦礫に埋もれて死ぬのだけはゴメンだったが、どうにも運にまで見放されたようだ。
それからどれくらいだろうか───そんなには経っていないと思うのだが、俺は意識を失っていたらしい。
意外と軽い瓦礫を退かして這い出ると、建物が倒壊したわけではなさそうだった。
それが良い事なのか悪い事なのか分からないが、俺の身体は無事だったが、牢獄自体も壊れてはおらず。俺は相変わらず鉄格子の中から出られないようだ。
「くそっ! おい、アンナ? 無事か?」
叫んでみたがアンナは呼び掛けに応じない。
まさか、あいつも埋もれたのだろうか──等と思っていると……
「シュウ大丈夫?」
「若旦那、無事ですか?」
「今助けるぞ~」
アンナ、トータル、ヤンマの三人が突如。鉄格子の向こうに現れたのだ。彼らの所は上手く崩れて脱出出来たのかもしれない。
トータルが速やかに鉄格子の扉の鍵を開けてくれた。
「はい。シュウ、これ」アンナが俺に弓と矢を渡す。
「お、おう。助かった」
何処から見付けて来たのか、その手際の良さに俺は思わず驚きながらも、今は細かい事は置いて逃げる事にした。
「よし。とりあえず外に出るぞ」
牢屋の出口へと向かったが、通路には誰もいないし上へ行く階段にも誰もいない。本当に、もぬけの殻だ。
しかし。
階段を上って行く度に事態の異常さを感じた。ギルド隊や看守の死体が転がっていたのだ。
「一体何が起きてるんだ!?」
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