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第一章 出会いと復讐
5 思い、祈る ~それは誰もが願うこと~
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~とある王宮に勤める者の独白~
レブリアス王国は大国ではないが小国でもない。古き時代より続く由緒正しい国・・・・・・だった。今、この国は王侯貴族たちの悪い行いによって崩壊寸前である。横領なんて当たり前。自身より身分の低い者を道端や廊下で貶めて、殴ったり蹴ったりの暴行もある。下手すると誰かが死んでしまうことだってある。そんな魔境に私は足を踏み入れた。贅の限りを尽くした、キラキラではなくギラギラ、という言葉があう王宮は、私の眼には痛々しく映る。
時間帯は夜。私は王の命令通り、ある情報を手に王の部屋に来ていた。
「陛下」
「ふん。噂は本当だったか。王への反逆は犯罪であるぞ」
「・・・・・・」
「お前に命令だ。こいつを殺せ」
「・・・・・・ハッ」
王が調べよと命じたのはクランウェル伯爵家だ。この家は少し前から反乱の準備をしているといううわさがあった。その噂を危険視したのは王だった。王は小心者だ。しかも、強欲であった。こんなものが王族に生まれてしまったのがこの国の運のつきだったのだろう。この王は自身の欲を満たすために、自身が王となるために、他の王族を殺した。賢王と名高い先代も、優秀だといわれていた王太子も、天才だといわれていた第一王女も、全てを殺して王の位を手に入れた。この男がこの国の王になってから、この国はおかしくなっていった。この国を正そうとしている人物を、こいつは殺せと命令する。本当に正しいものを殺すことは私にはできないので、殺したように偽装して、逃がしている。まぁ、悪いことをしている者は手にかけたが・・・・・・。
クランウェル伯爵は素晴らしいお人だった。民のために働き、民のために尽くす、そんなお方だった。そんなお方が手塩をかけて育てたご子息とご息女もとても賢い方であることがうかがえた。ご子息とご息女は病弱であると報告されていたため公には出ていなかったが・・・それは嘘であることが分かった。本当は、正義感が強いがゆえに悪い貴族に擬態することができず、すぐに排除されてしまうことを恐れた、伯爵の策であった。
伯爵が反乱の準備をしている。いよいよこの国が変わるのだと、そう期待していた。しかし、王はそれを許さなかった。私は王の命令通り、クランウェル伯爵が反乱を起こそうとしているかどうかを調べ報告した。そして予想通り、王は私に、クランウェル伯爵の暗殺を命令した。私は少しづつ、伯爵を逃がす準備をしていた。伯爵にも、こうなるだろうからと逃げる準備をしてもらっていた。
・・・・・・王は知らないだろう。私たち、国の諜報部・暗部の者たちがすでに王を裏切っていることを。私たちが王に逆らわず、命令通りに動いているのはいつかの来るべき日のためであることを!!
あともう少し、あともう少しでこの国は変わるのだ。すでに反乱の種は巻き終わり、今は芽が出るのを待つだけだ。
・・・・・・誰もが、この国が変わるのを望んでいるのだ。
~とある反乱者の独白~
「リーダー!!」
「・・・・・・何度言われてもだめだ」
「しかし!!」
「腐っても国を相手取るんだ。戦力が足りない」
「すでに、この国の人たちは死に始めているんですよ!!」
「それでも、だ!!一度失敗してしまえば、再び反乱を起こすのが難しくなる。チャンスは一度だけなんだぞ!!」
俺の言葉に、部下が黙る。俺の言葉が本当のことだと理解しているからだろう。
俺たちは革命軍だ。そして俺はその革命軍のリーダーだ。
・・・・・・この国は腐っている。そして国の上層部はそれを見逃している。民の嘆きが聞こえていないのだ。
俺が生まれる前はこんな風ではなかったらしい。 らしい、というのは、俺が生まれた時にはすでにこうなっていたから。その時はまだ、みんなが生きていた。5年ほど前、この国の王女が国軍によって殺された。その王女は瞳が赤いというだけで魔女として扱われ、全ての罪を押し付けられて殺されたのだ。一時はそれで収まっていた。この国がこんな風になったのは、全てその王女のせいなのだと、みんなそう思っていたのだ。しかし、王女が殺されたのちも、この国は変わらなかった。そこでようやく気付いたのだ。この国が腐っていったのは王女のせいではなく、この国自体が悪かったのだと。
最近、国が税をあげて、民が食えなくなり始めた。餓死したり、盗みに手を出すものも増えてきたのだ。部下はその者たちのことを言っているのだろう。だから早く反乱を起こせといわれているのだ。しかしまだ早い。今この状態で反乱を起こしても鎮圧されてしまうのがおちだ。しかしこれ以上待てないというのも事実であった。
俺が革命軍を興したのは、職業に革命家と記されていたためだ。武神の加護も授かっていたため、腕には自信があった。俺と同じ志を持つ奴を集めて、そいつらを鍛え上げた。一人一人がとても強くなった。それでも足りないのだ。数を補うには質でとは思うが、いかんせん、国の持つ兵の数が多すぎるのだ。いくら質が良くても、数で押されてしまえば負けてしまう。
こういう時にふと思い出す。昔、断罪者というものがいたそうだ。その人はある時は個人を、ある時は国を裁いたそうだ。その人は、どんなに巧妙に隠していても、全ての罪を見抜き、罰していったらしい。その身の内に秘めた、膨大な力を駆使して・・・・・・。もしもそんな人がいるとしたら・・・・・・。
俺は、いるはずもない断罪者に思いをはせた。
~とある王族の独白~
「この化け物!!」
みぞおちを蹴られて、体が吹っ飛ぶ。
「キャハハ♪ いい気味♪ こんなのが私の兄だなんてありえな~い♪」
「そうね♡ グラ、もっとこいつをいたぶってほしいわ♡」
「ふん!! いわれなくてもっ!!」
ガッと踏みつけられる。
「ちっ、こいつは何も言わないから楽しくない」
「口も目もふさがれてるから、何も言えないんじゃない?♡」
「グラ兄様、グリ姉様、モモ飽きちゃった♪ もう行こう♪」
「そう。グラ、私たちはもう行くから♡」
「僕も行く」
ボロ雑巾のように放置された僕はあいつらが出ていくのを待って、体を起こした。スキルのせいでけがはもう治っている。痛みも感じない。いつものように繰り返される暴力。手足は封じられ、目と口はふさがれている。
僕がこうなったのは、魔眼持ちだから。魔眼は何でも見通す力を持っている。そして、僕の魔眼は少し特殊で・・・・・・破壊の能力を持っているんだ。この力が発現したのは僕がまだ幼いころのことらしい。気が付いたらこの部屋に閉じ込められていたので本当のことなのかどうかはわからないが。目はむやみやたらと破壊しないように、目隠しをされている。時々外に引きづり出されて目隠しを外されては、目の前で誰かが破壊される様を見る。見たくない、目を開けたくない。しかし、この身に刻まれた隷属紋がそれを許さない。王に「破壊しろ」と命じられると、その命令通りに体が行動するんだ。そして目の前で誰かが破壊されるたびに思うんだ。ごめんなさいって。破壊してしまってごめんなさいって。
魔眼の能力ですべてを見通したから、ここがどういうところなのかも、自分が何者なのかも・・・・・・この国の犯した罪もわかってしまう。だからこそ僕は祈る。
僕はどうなってもいい。だからどうか・・・・・・この国を壊してください。
+
満月の夜のことでした。うす気味悪い森の奥深くに、一人の美しい少女が居りました。たくさんの化け物の死体の山の、そのてっぺんに、少女が座っておりました。いたるところが紅に染まった少女は、その美しい月を見上げました。
少女は何も言いません。大切な人を失って、話すことがなくなったから。少女は何も感じません。大切な人を失って、その時から心が凍ってしまったから。大切な人を失ったその時から、少女の時は止まってしまったのです。少女が思うことはただ一つ、あの時から全く変わりません。
「・・・・・・復讐を」
満月の夜のことでした。うす気味悪い森の奥深くに、一人の美しい少女が居りました。しかし、その少女の姿はありません。そこに残された、たくさんの化け物の死体の山だけが、少女が存在していたことを知っていました。
さて、少女はどこに行ったのでしょうか。
月は誰にも知られることなく、紅く紅く、染まり始めました。
レブリアス王国は大国ではないが小国でもない。古き時代より続く由緒正しい国・・・・・・だった。今、この国は王侯貴族たちの悪い行いによって崩壊寸前である。横領なんて当たり前。自身より身分の低い者を道端や廊下で貶めて、殴ったり蹴ったりの暴行もある。下手すると誰かが死んでしまうことだってある。そんな魔境に私は足を踏み入れた。贅の限りを尽くした、キラキラではなくギラギラ、という言葉があう王宮は、私の眼には痛々しく映る。
時間帯は夜。私は王の命令通り、ある情報を手に王の部屋に来ていた。
「陛下」
「ふん。噂は本当だったか。王への反逆は犯罪であるぞ」
「・・・・・・」
「お前に命令だ。こいつを殺せ」
「・・・・・・ハッ」
王が調べよと命じたのはクランウェル伯爵家だ。この家は少し前から反乱の準備をしているといううわさがあった。その噂を危険視したのは王だった。王は小心者だ。しかも、強欲であった。こんなものが王族に生まれてしまったのがこの国の運のつきだったのだろう。この王は自身の欲を満たすために、自身が王となるために、他の王族を殺した。賢王と名高い先代も、優秀だといわれていた王太子も、天才だといわれていた第一王女も、全てを殺して王の位を手に入れた。この男がこの国の王になってから、この国はおかしくなっていった。この国を正そうとしている人物を、こいつは殺せと命令する。本当に正しいものを殺すことは私にはできないので、殺したように偽装して、逃がしている。まぁ、悪いことをしている者は手にかけたが・・・・・・。
クランウェル伯爵は素晴らしいお人だった。民のために働き、民のために尽くす、そんなお方だった。そんなお方が手塩をかけて育てたご子息とご息女もとても賢い方であることがうかがえた。ご子息とご息女は病弱であると報告されていたため公には出ていなかったが・・・それは嘘であることが分かった。本当は、正義感が強いがゆえに悪い貴族に擬態することができず、すぐに排除されてしまうことを恐れた、伯爵の策であった。
伯爵が反乱の準備をしている。いよいよこの国が変わるのだと、そう期待していた。しかし、王はそれを許さなかった。私は王の命令通り、クランウェル伯爵が反乱を起こそうとしているかどうかを調べ報告した。そして予想通り、王は私に、クランウェル伯爵の暗殺を命令した。私は少しづつ、伯爵を逃がす準備をしていた。伯爵にも、こうなるだろうからと逃げる準備をしてもらっていた。
・・・・・・王は知らないだろう。私たち、国の諜報部・暗部の者たちがすでに王を裏切っていることを。私たちが王に逆らわず、命令通りに動いているのはいつかの来るべき日のためであることを!!
あともう少し、あともう少しでこの国は変わるのだ。すでに反乱の種は巻き終わり、今は芽が出るのを待つだけだ。
・・・・・・誰もが、この国が変わるのを望んでいるのだ。
~とある反乱者の独白~
「リーダー!!」
「・・・・・・何度言われてもだめだ」
「しかし!!」
「腐っても国を相手取るんだ。戦力が足りない」
「すでに、この国の人たちは死に始めているんですよ!!」
「それでも、だ!!一度失敗してしまえば、再び反乱を起こすのが難しくなる。チャンスは一度だけなんだぞ!!」
俺の言葉に、部下が黙る。俺の言葉が本当のことだと理解しているからだろう。
俺たちは革命軍だ。そして俺はその革命軍のリーダーだ。
・・・・・・この国は腐っている。そして国の上層部はそれを見逃している。民の嘆きが聞こえていないのだ。
俺が生まれる前はこんな風ではなかったらしい。 らしい、というのは、俺が生まれた時にはすでにこうなっていたから。その時はまだ、みんなが生きていた。5年ほど前、この国の王女が国軍によって殺された。その王女は瞳が赤いというだけで魔女として扱われ、全ての罪を押し付けられて殺されたのだ。一時はそれで収まっていた。この国がこんな風になったのは、全てその王女のせいなのだと、みんなそう思っていたのだ。しかし、王女が殺されたのちも、この国は変わらなかった。そこでようやく気付いたのだ。この国が腐っていったのは王女のせいではなく、この国自体が悪かったのだと。
最近、国が税をあげて、民が食えなくなり始めた。餓死したり、盗みに手を出すものも増えてきたのだ。部下はその者たちのことを言っているのだろう。だから早く反乱を起こせといわれているのだ。しかしまだ早い。今この状態で反乱を起こしても鎮圧されてしまうのがおちだ。しかしこれ以上待てないというのも事実であった。
俺が革命軍を興したのは、職業に革命家と記されていたためだ。武神の加護も授かっていたため、腕には自信があった。俺と同じ志を持つ奴を集めて、そいつらを鍛え上げた。一人一人がとても強くなった。それでも足りないのだ。数を補うには質でとは思うが、いかんせん、国の持つ兵の数が多すぎるのだ。いくら質が良くても、数で押されてしまえば負けてしまう。
こういう時にふと思い出す。昔、断罪者というものがいたそうだ。その人はある時は個人を、ある時は国を裁いたそうだ。その人は、どんなに巧妙に隠していても、全ての罪を見抜き、罰していったらしい。その身の内に秘めた、膨大な力を駆使して・・・・・・。もしもそんな人がいるとしたら・・・・・・。
俺は、いるはずもない断罪者に思いをはせた。
~とある王族の独白~
「この化け物!!」
みぞおちを蹴られて、体が吹っ飛ぶ。
「キャハハ♪ いい気味♪ こんなのが私の兄だなんてありえな~い♪」
「そうね♡ グラ、もっとこいつをいたぶってほしいわ♡」
「ふん!! いわれなくてもっ!!」
ガッと踏みつけられる。
「ちっ、こいつは何も言わないから楽しくない」
「口も目もふさがれてるから、何も言えないんじゃない?♡」
「グラ兄様、グリ姉様、モモ飽きちゃった♪ もう行こう♪」
「そう。グラ、私たちはもう行くから♡」
「僕も行く」
ボロ雑巾のように放置された僕はあいつらが出ていくのを待って、体を起こした。スキルのせいでけがはもう治っている。痛みも感じない。いつものように繰り返される暴力。手足は封じられ、目と口はふさがれている。
僕がこうなったのは、魔眼持ちだから。魔眼は何でも見通す力を持っている。そして、僕の魔眼は少し特殊で・・・・・・破壊の能力を持っているんだ。この力が発現したのは僕がまだ幼いころのことらしい。気が付いたらこの部屋に閉じ込められていたので本当のことなのかどうかはわからないが。目はむやみやたらと破壊しないように、目隠しをされている。時々外に引きづり出されて目隠しを外されては、目の前で誰かが破壊される様を見る。見たくない、目を開けたくない。しかし、この身に刻まれた隷属紋がそれを許さない。王に「破壊しろ」と命じられると、その命令通りに体が行動するんだ。そして目の前で誰かが破壊されるたびに思うんだ。ごめんなさいって。破壊してしまってごめんなさいって。
魔眼の能力ですべてを見通したから、ここがどういうところなのかも、自分が何者なのかも・・・・・・この国の犯した罪もわかってしまう。だからこそ僕は祈る。
僕はどうなってもいい。だからどうか・・・・・・この国を壊してください。
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満月の夜のことでした。うす気味悪い森の奥深くに、一人の美しい少女が居りました。たくさんの化け物の死体の山の、そのてっぺんに、少女が座っておりました。いたるところが紅に染まった少女は、その美しい月を見上げました。
少女は何も言いません。大切な人を失って、話すことがなくなったから。少女は何も感じません。大切な人を失って、その時から心が凍ってしまったから。大切な人を失ったその時から、少女の時は止まってしまったのです。少女が思うことはただ一つ、あの時から全く変わりません。
「・・・・・・復讐を」
満月の夜のことでした。うす気味悪い森の奥深くに、一人の美しい少女が居りました。しかし、その少女の姿はありません。そこに残された、たくさんの化け物の死体の山だけが、少女が存在していたことを知っていました。
さて、少女はどこに行ったのでしょうか。
月は誰にも知られることなく、紅く紅く、染まり始めました。
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