やる気が出る3つの DADA

Jack Seisex

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アンドロイド⇔壊れたピッチングマシーン⇔双子の兄

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ビュンという音がして、倉橋の頭上を硬球が飛んでいった。
 辺りが、白くなった。
 照明が、一斉に点灯したのだ。建物内の照明は、数えきれないほどあった。
 倉橋は、そこがバッティングセンターであることに気づいた。幼かった頃に、双子の兄と通った近所のバッティングセンターだった。
「兄貴!」
 倉橋は、叫んだ。
 照明の奥に、兄貴がいる気がした。兄貴とは、中学卒業以来会っていなかった。
「兄貴!」
 倉橋は続ける。
「兄貴。どこ行ってたんだよ…みんなで探したんだぜ。帰ろうよ、待ってたんだよ、ずっと…」  
 辺りは、静まり返ったままだ。相変わらずビュンビュンと、硬球が飛んできている。
 全く、方向が定まっていなく、何度か倉橋の顔にボールが当たりそうになる。   
 昔世話になったピッチングマシーンは、もう壊れてしまったようだ。 
「パンッ」
 球はついに、倉橋の即頭部に当たった。
「ググゥッ」
 倉橋は、唸り声を上げた。
唸り声を上げたまま、その場に崩れ落ちていく気がした。 
 次の瞬間、
「ジュニア」兄貴の声がした。
 もう何年も会っていなかったが、それは兄貴の声に違いなかった。
 倉橋のことを「ジュニア」と呼ぶのも、当時と変わっていない。
「嘘は良くないよジュニア」 
 兄貴の声は続く。
「嘘?」
「ああ。嘘だ」
「何のことだよ兄貴!」
 倉橋は、足下にあったボールを兄貴の方向に向かって投げた。投げた硬球は、デタラメな方角に弧を描いて飛んでいった。
「相変わらず、コントロールが定まっていないなジュニア」 
 兄貴は笑っている。
「久しぶりに会って、それは酷いよ」
「酷いのはジュニア、お前だ」
「どういうこと?」
「……だって、後頭部にある円形脱毛症が原因で野球を諦めたのは、ジュニアじゃなくて俺の方じゃないか! お前なんて野球部、いつもサボってばかりだったろ!」
 兄貴は、怒鳴った。

――そう。兄貴は、好きだった野球ができないことを苦に、あれから、遺書を残して家出したのだ。
(正しいのは、兄貴だ)
 昔から、正しいのは自分では無く、いつも兄貴だったはずだ。
 倉橋は、腕を伸ばして地面のボールを拾った。腕は、相変わらず剃刀の傷でいっぱいだった。
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