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第1章4 総体県予選
50. つかさとれの
しおりを挟む試合後のミーティングが終わるや、川久れのはつかさを捜しに出た。御崎高校もミーティングや着替えがあったりでそうすぐには帰らないだろうと内心では思いつつも急ぐ。
会場構内を捜し回り、つかさたち御崎高校一団を見つけた。
れのは近づき、「つかさ」と背中に呼びかけた。つかさたちが振り向く。
「つかさちゃん。私たち向こうで待ってるね」
れのを認めると、遥が気を利かせた。
「ありがとう」
れのは感情を素直に言葉にした。
杏がれのに笑顔を向ける。「がんばれ」と言われたようだった。
れのは軽く頭を下げた。
怪我を負わせてしまったもなかの姿は見当たらなかった。
「つかさ……えっと、私が怪我させちゃった人は?」
「もなかならさっき車で病院へ行ったわ」
「大丈夫なの」
「軽い怪我ではないかも」
「やっぱり私もう一度あの人にちゃんと謝らないと」
「それはいいけど。れの、あれは事故よ。あなたが気にし過ぎちゃだめ」
「うん……」
「私たちが負けたら日本へ来た理由を話す約束だったわね」
「そうだけど、あんな勝ち方……」
「勝ちは勝ちよ、れの。話さなくてもいいなら構わないけど」
「それはイ!……イヤだ」
つかさが姿を消した真相がわからず、ずっと心に靄がかかった状態で今日まで過ごしてきた。たとえつかさからどんな言葉が飛び出そうとはっきりさせてすっきりしたかった。
「勝っても負けても話すつもりだったから話すわ」
ならもっと早く話してほしかったし電話くらいしてくれればよかったのにと思ったが口にするのは我慢した。
「じゃあ話して。どうして黙って行っちゃったの」
心構えはできていた。
「れのから離れたかったから」
それでも強烈な一発に、れのは目を潤ませた。ゆっくりと深呼吸し涙がこぼれるのをこらえる。
聞き方がまずかった。一から話してもらわないとこれでは色々すっ飛ばしていて肝心なところがわからないままだ。落ち着いてきたところでれのは聞いた。
「ごめんつかさ。最初から順を追って話して。どうしてチームを離れる必要があったの」
元チームメイトのジルがきっかけとのことだった。
つかさはそのことについて話した。
「つかさはもうちょっと一人で身の回りのことをできるようになったほうがいい。自己管理能力がなさすぎる。これはバスケだけに限らず大切なことよ」
彼女はつかさにそう話したらしい。
その通りだなとれのは思った。言い分は理解できた。しかし聞いていた話と違うことに苛立ちを覚えた。つかさに指摘した張本人、ジル。あの女は自分は何も知らないと言い張っていた。
つかさの行き先は後日つかさの母親から聞き出した。
あえて別の高校を選んだ理由は、そのときは本当に頭にきていたからだ。大会で勝ち上がればいずれ対戦することになる。だからそこで敗北を味わわせようと思った。それが咄嗟に思いついた気持ちをぶつける方法だった。
だが今日つかさの顔を見て、声を聞いたら、途端にこれまで抱いていた様々な負の感情が吹き飛んでしまった。
嫌いになんてなれない。そう悟った。
それからは尖った態度をとり続けるのが大変だった。話したいことがたくさんあった。笑っていたかった。
「自己管理能力を養うためっていうのはわかったわ。でもそれが理由なら別にチームを離れる必要なかったんじゃないの」
「でもそれだと」
ジルはこうも話したという。
「つかさは自分でできないのもあるけど、やらせてもらえないのが大きいわね。全部れのがやっちゃう。れのと一緒にいるうちは無理ね」
ショックだった。つかさのことはなんでもかんでもやっている自覚はなかった。
「だから遠い別の国へ黙って行っちゃったんだ。まあ追いかけて来ちゃったけど」
れのは苦笑し、悲しみとも呆れともつかない表情を浮かべた。
「つかさはいつも極端すぎるよ」
「そうかな」
「それならそうと言ってくれればよかったのに」
「話したらどうしたの」
「うーん、どうしただろうね」
「やっぱり」
れのは笑う。
「うん。でもこれからはちゃんと話してほしい。つかさが望むことで私が邪魔になるならそう言ってほしい。絶対邪魔しない。協力するから」
「わかったわ。約束する。ごめんね、れの」
胸の底にわだかまっていたものが吹き飛んでいった。
つかさと抱擁を交わす。
「じゃあね」
「待って。最後に一つだけ聞かせて」
「なに?」
「これからも日本で、あのチームでバスケを続けるつもりなの」
「そのつもり。アメリカのチームに戻ってもジルたちはもういないし。それに今のチームもおもしろいの。これからどうなるのか楽しみ」
「そっか。……わかった。話してくれてありがとう」
「またね、れの」
「うん。またね、つかさ」
つかさがチームメイトのもとへ向かい、れのはその反対方向へ歩き出す。
「あっ」
れのは大事なことを思い出した。
振り返るがつかさの姿はもう見当たらない。
「連絡先聞くの忘れてた……」
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