Girls×Basket〇

遠野そと

文字の大きさ
上 下
49 / 51
第1章4 総体県予選

49. 引退

しおりを挟む
 
 日陰を見つけ、そこに御崎高校女子バスケットボール部一同は集合する。
 膝を負傷したもなかをベンチに座らせ、岩平の言葉を待つ。

「おもしろい試合だった」

 遥たちは静聴する。

「惜しかったな。悔しいな」

 漂う敗北感が空気を重くしていた。

「舞はこれで高校の部活は引退だな。三年間お疲れ。人数が足りない期間とか色々あったけど、気長にやってくれてありがとな」

 舞は目を閉じ首を小さく横に振った。

「最後に大会出られてよかったよ。この二ヶ月さ、ほんと楽しかった」
「それはよかった。俺も楽しかったよ」
「もちろんそれまでも楽しかったけど、やっぱり人数が揃ってからは一段と楽しかったな」
「勝たせてやれなくて悪かったな」
「やめてよ」

 舞は笑い飛ばす。

「敗因は先生にないよ。先生がいなかったらあんな接戦できるレベルには届かなかったし」

 舞はこれまでを振り返るように続ける。

「ほんと二ヶ月程度でよくチームとしてここまでまとまったよね」
「みんながんばったからな」
「これからこのチームはもっと成長するんだろうね。個々の力もバスケへの理解も深まっていくだろうし戦術面も多彩になる。正直言うとさ、そんなみんなが羨ましい」

 あーあ。いいなー、と遠くに視線を向ける。

「留年したらもう一年できるかな」
「ばか」

 岩平が軽くチョップをした。

「痛っ」

 舞は笑う。

「ほんと今日ほど自分の誕生日を恨めしく思ったことはないよ」

 舞の誕生日は四月一日。
「生まれるのがあと一日遅ければ」「同じ学年だったのにね」と杏ともなかが話していたことがあった。

「ま、俺にとっちゃ仲間ができて嬉しいよ」

 岩平が笑顔を向ける。

「どういうこと」
「舞がこっち側になったってことだよ。言っとくけど舞が羨ましいと思ったずっと前から俺は選手のお前たちが羨ましかったんだからな。ようこそ、こちら側へ」

 舞は屈託なく笑う。その表情はいつにもましてさっぱりとしていた。

「そういうことか」

 舞は感慨深げに言った。

「ありがとう」
「あ、いや。こちらこそ」
「ん」と舞が二度見した。

「ちょっと。杏、あんた泣いてんの」
「ま、舞はんにはそんなふうに見えるんだ」
「誰が見たってそうでしょ」

 舞は杏を抱き寄せた。

「本当にそういうのじゃないから」
「声震えてるよ」
「……まだ引退しないでよ」
「無茶言うね」
「舞先輩……」

 舞は暗い面持ちの環奈と早琴の頭に順に手をやった。電車通学の彼女たちは部活中だけでなく登下校の時間も舞とともにしていた。

 ぐっと唇を噛んでいたもなかの目にも涙がこみ上げる。
 舞は杏を胸に抱いたままベンチに腰を下ろし、もなかのを抱き寄せた。

「もう、泣かないでよ。こっちまで湿っぽい気分になってくるじゃん」

 と舞は笑ってみせる。

「私も舞ともっとバスケがしたい」

 遥の隣でつかさがぽつりと言った。

「そうだね」
「もう絶対無理なの?」
「公式戦はそうなるね。冬の予選の出場条件が変更になるか新しい大会が新設されない限りは」

 遥は胸のつかえが取れない。
 中一のとき、三年生の引退が決まった際にはなんとも思わなかった。中学も高校も三年生と過ごした期間は同じくらいなのに。

 舞の引退が確定して自分が思っていた以上に舞が大好きな先輩になっていたことが身にしみた。
 改めて、部員は少なくてもこのチームでよかったと思う。しかしそう思えることで敗戦の悔しさは膨れ上がった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...